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世界をリードする! 「ニカラグア葉巻たばこ産業」について、ニカラグア在住者が調べてみた

【ざっくりサマリー】

●今、ニカラグアは、ハンドメイド・プレミアムシガーの分野で世界をリード。アメリカの葉巻雑誌「Cigar Aficionado」が毎年発表しているBest Cigarランキングの半分以上はニカラグア産葉巻。
●キューバ産葉巻が品薄かつ高価格化する中、ニカラグア葉巻タバコ産業は今後さらなる発展が見込まれる。その中心地「エステリ」は活況を呈しており、若い企業家が小規模葉巻工場を立ち上げるなどのダイナミズムが見られる。
ニカラグア葉巻産業の源流は、1959年キューバ革命から逃れ、ニカラグアに亡命したキューバ人葉巻生産者。1979年サンディニスタ革命、80年代の内戦、そしてハリケーンといった自然災害を乗り越え、たくましく発展。
●その他、ニカラグア主要タバコ栽培地、主要葉巻ブランド、ニカラグアにおける経済的側面(輸出状況など)、ニカラグアで最も歴史あるブランド「ホヤ・デ・ニカラグア」の歴史、葉巻生産プロセス、ニカラグア国内葉巻購入スポットなどを紹介。


1.はじめに

 こんにちは。思わぬ縁があって、私は、現在ニカラグアの首都マナグアに住んでいます。ニカラグアって、そもそもあまり日本では知られていないと思いますし(たまに、アフリカにある国?とかって言われます(苦笑))、また仮に知っている人がいても、1980年代の内戦や中南米の最貧国といった、あまりポジティブではないイメージを持たれているのではないでしょうか。

鮮やかなグラナダ大聖堂

 しかし、「住めば都(!)」とはよく言ったもので、この国を深掘りしてみれば、自然は豊かだし、素晴らしいモノはいくつも見つかって、意外にいい国ではないかと思うに至りました(笑)。その思いが高じ、YouTubeチャンネル「ニカラグアって意外にいいよね!」で、そのポジティブな部分を発信するようになりました。また、最近は、YouTubeのみならず、noteやX(旧Twitter)にも発信の場を広げています。

ウミガメの産卵地もある!(La Flor海岸)

 稚拙なSNS発信にも関わらず、そもそも日本語でニカラグアについて発信している媒体が全くないことからか、多少の反響はあり、ニカラグアを訪問予定のバックパッカーやJICAボランティアの方々から相談や応援のご連絡をいただき、それを励みに細々と続けているところです。
 今回は、世界をリードしている!ニカラグアのハンドメイド・プレミアムシガー(高級葉巻)の状況について現地から紹介したいと思います。葉巻を嗜まれる方のみならず、葉巻は吸わずとも、その産業と文化に興味がある方など、幅広く楽しんでいただけたら幸いです(まあ、その割には、固い話が続くのですが・・・)。

ニカラグア産葉巻

 この記事を読んで、「ニカラグアって意外にいいよね!」と思っていただけたらうれしく思います。
 そして、少しでもニカラグアという国にご関心を持っていただけたら、私のYouTube動画や他のnote記事(特に、コーヒー関連記事を読んでいただきたい!)、並びに日々の小ネタを発信しているX投稿もご覧ください。また、それぞれフォローもいただけましたらさらなる励みになります。

2.歴史から未来へ

 まずは、ニカラグア葉巻タバコ産業の歴史からお話しします。
 葉巻と言えば、やはりキューバを連想される方が多いと思います。実際、ニカラグアの葉巻産業もそのキューバに源流を見いだすことができます1959年キューバ革命の成就によって、その前後、キューバの偉大な葉巻生産者が同国から逃れ、ニカラグアに新天地を求めたことが近代葉巻タバコ産業の始まりとなっています

葉巻の原点「キューバ」とニカラグアの位置関係

 そう考えると、ニカラグアにおける葉巻産業の歴史って、60年強ほどしかありません。なんとなくもっと昔からあるものだと思っていましたので(本当に無知(恥))、これは意外な発見でした。
 なお、タバコの葉の利用自体については、長い歴史と伝統があるようです。紀元前5千年頃に、タバコの品種ニコチン・ルスティカがアンデス山脈の高地で発祥し(渡邉尚人著「マイアミ最新葉巻事情」2024)、中南米の先住民により、太古の昔からタバコの葉は栽培され、祭祀や薬として使われてきたようです。その後、1492年のコロンブスの新大陸到達によって、西欧社会に広く伝播するようになりました
 話が少々逸れましたが、J. ベネット・アレクサンダー氏によるWeb記事「ニカラグアの葉巻の歴史(原文:A History of Cigars in Nicaragua)(2019)」を元に、その歴史の概観を見たいと思います。

(1)1959年キューバ革命とその影響

 繰り返しになりますが、今日、ニカラグアはハンドメイド・プレミアムシガーの生産において世界のリーダー的な立場にありますが、これは葉巻の歴史から見れば比較的最近のことです。
 ニカラグアの葉巻産業で使われているタバコの種は、キューバで育てられていたものです1959年、フィデル・カストロがキューバ革命を成し遂げたとき、キューバの多くの葉巻職人が国外脱出したのです。彼らは新しい土地、タバコとその職人技を支えることができる新しい土壌を求め、ニカラグア、特にその北部地域に到達し、「キューバの再来」と呼ぶに相応しい素晴らしい場所を発見したのです

(2)米国政府によるキューバ産品禁輸の影響

 1960年代後半から70年代にかけて、ニカラグアの独裁者アナスタシオ・ソモサ(1925-1980)は、葉巻にチャンスを見出しました。同国では長年タバコの葉が栽培されていましたが、その独裁者は新しい産業を築くために亡命してきたキューバ人葉巻生産者に資金を提供し、葉巻を生産させることにしました。また、この頃、政府は、国家産業振興庁(INFONAC:Instituto de Fomento Nacional)を設立し、タバコ栽培促進を含め、産業振興にも力を入れました。
 当初、多くの葉巻メーカーはニカラグアで栽培されたタバコの葉を使い、マイアミなどにある小さな工場で葉巻の生産を行っていました。しかし、その後まもなくして、パドロン(Padrón)やアルトゥーロ・フエンテ(Arturo Fuente)といった有力メーカーがエステリとその北部に土地を取得し、ニカラグア国内に工場を開設するようになったのです。 
 キューバ革命からちょうど20年後。1979年ニカラグアでサンディニスタ革命が成就したことは、再び亡命キューバ人葉巻生産者を追い詰めることになりました。1970年代、フエンテ・ファミリーはドミニカ共和国に工場を移し、また他のメーカーもニカラグアと国境を接するホンジュラスに移転したりしました。
 実際、サンディニスタ・ゲリラが蜂起した際、多くの葉巻工場も爆撃、放火され、そして破壊されたりしました。1968年に設立され、独裁者ソモサがパートナーであったホヤ・デ・ニカラグア(Joya de Nicaragua/【コラム②】参照)の工場も、その10年後、サンディニスタがエステリを掌握した際、空軍によって爆撃され一部が焼失しています。

ホヤ・デ・ニカラグアの工場

(3)内戦と自然災害

 1979年に権力を掌握したサンディニスタは、接収と再分配のキューバ革命モデルに倣う国家運営を行いましたこうした左派的な政策を行うサンディニスタ革命政権を嫌い、1984年アメリカはニカラグアに対して禁輸措置を講じました。同国葉巻産業は、米国という最大のマーケットを失うことになったのです。そしてさらに悪いことに、その後、サンディニスタと、アメリカ政府が支援する「コントラ」と呼ばれる反政府勢力との間で内戦が勃発し、国は大きく疲弊することになりました。 
 その内戦が終結したのは1990年。国際社会が見守る中で大統領選挙が実施され、非サンディニスタのチャモロ新政権が誕生しました。この段階に至り、アメリカの禁輸措置はようやく解除され、多くの葉巻生産者はその財産を回復し、再び葉巻の生産に取りかかるようになりました
 しかしながら、ニカラグア葉巻タバコ産業の苦境はさらに続きます。1998年、未曾有の巨大ハリケーン「ミッチ」がニカラグアと中米全土を襲い、内戦の傷跡が未だ残る国土をさらに荒廃させたのです。この巨大ハリケーンは、タバコ産業を含めて、約7割の社会インフラを破壊したと言われています。

(4)そして、現在

 このような様々な困難を経験しながら、ニカラグア葉巻産業は幾度となく強い回復力を示し、立ち上がってきました。それが、今日の葉巻タバコ産業の興隆に繋がっています。
 現在、北部の都市エステリ(Estelí)は、ニカラグア葉巻生産の「聖都」、「メッカ」などと称されます大小合わせて200以上の葉巻工場があるとされ、その工場を支える周辺産業、例えばシガーリングの印刷所、葉巻を成型する木型や葉巻を巻き上げるための専用机を制作する工場などが集積しています。

エステリのタバコ畑・葉巻工場

 聞くところによると、エステリでは、その人口の約8割が何らかの形で葉巻タバコ産業に関わっているとのことです。ニカラグア在住という利を活かし、私は何度もエステリの街を訪れたことがあります。この街を歩くと、あくまで主観的なものですが、同規模のニカラグアの都市にはない活気と豊かさを感じます。 
 アメリカの有名葉巻雑誌「Cigar Aficionado」が毎年発表している「Best Cigar 25」ランキング(以下【コラム③】も参照)を、ニカラグア産葉巻が席巻していることから明らかなとおり、世界をリードする葉巻産業の熱狂がこの街に活力を与えているのだと実感します。

アメリカ「Cigar Aficionado」の「Best Cigar 25」(2023年及び2022年)

(5)さらなる発展へ

 エステリの街を訪れた際、偶然、若い葉巻工場経営者と話す機会を得ました。彼は、エステリの街で生まれ、その家族の多くは葉巻関連事業に従事しており、ゆえに幼少期から葉巻産業に親しみ、そして彼自身大手の工場で働いていたこともあるとのことです。
 その彼は、今、独立してエステリ市内に葉巻ローラー机4つ程度の小さな工場を営んでいます。正社員は雇わず、大手葉巻工場での勤務を終えた熟練職人をパートタイムで雇って、葉巻を生産しているとのこと。だから、うちの工場の勤務開始は16:00からなんだよね、と笑いながら話します。
 この話を聞いたとき、私は非常にうまくできた仕組みだなと感心したものです。経営者側からすれば、大手工場で働いているような熟練の職人を(おそらく)安く雇うことができ、職人側も空き時間を利用してもっと稼ぐことができます。そして、聖都エステリのブランドと地の利を活かし、原材料を入手するとともに、顧客(葉巻生産の発注者)も、世界中からネットを利用して開拓しているようです。
 今は大企業となったA.J. Fernándezも、立ち上げ当時は葉巻ローラー机6つの小さな工場だったと聞きました。今は小さな葉巻工場のこの若き経営者が、近い将来、A.J. Fernándezのように大成功することを期待して止みません。そして、今のエステリには、キューバ産葉巻の品薄と高価格化という外部環境の追い風に乗って、その夢を実現できるのではないかと思わせる熱気があるように感じました。こうした野心的な若い経営者が多く現れているのを見ると、ニカラグア葉巻産業の未来は明るい!と思わざるを得ません

エステリにあるA.J. Fernándezの工場

3.ニカラグア葉巻タバコ産業の経済的側面

 この章では、ニカラグア葉巻タバコ産業の経済的な側面についてお話ししたいと思います。

(1)経済的インパクト

 以下の点を踏まえれば、葉巻たばこ産業が、ニカラグア経済において重要な役割を果たしていることに疑いの余地はありません。

ア 主要な外貨獲得源
 葉巻たばこ輸出は、ニカラグアの主要な外貨獲得源の一つとなっています
。直近2023年(フリーゾーンからの輸出を含む)では、第6位の輸出産品(5.8%)で、金額ベースでは425.4百万ドルを稼いでいます。 
 ちなみに、2023年の輸出産品ランキング(1位~5位)を示すと、第1位:アパレル関連製品(23.2%)、第2位:金(15.3%)、第3位:車のワイヤーハーネス(11.4%:日本の矢崎総業がニカラグアに大きな工場を構えています!)、第4位:牛肉(9.3%)、第5位:コーヒー(8.2%)となっています。 

ニカラグアの主要輸出品目

 第1位のアパレル関連製品と第3位のワイヤーハーネスが、原材料を輸入し、安い労賃を利用し現地で加工し、そして輸出するという、典型的なフリーゾーン産品であることを考えれば、純粋なニカラグア産品としては、葉巻は、金、牛肉、コーヒーに続く第4位の輸出産品とも言えそうです。
 なお、輸出状況全般については、次の項目(3.(2))でもう少し詳しく説明したいと思います。

イ 大きな雇用創出源
 雇用創出の観点でも葉巻たばこ産業は大きく貢献しています。同産業は、農業(タバコの葉の栽培)から製造、流通に至るまで幅広く、聖都エステリを中心に、多くの国民が同産業に従事しています。
 ニカラグア・タバコ生産者商工会議所(CNT:la Cámara Nicaragüense de Tabacaleros)会長が、2024年1月のテレビインタビューで語ったところによれば、CNT加盟企業全体で年間6万5千人強を雇用しており、うち3万2千人がエステリ在住だそうです。この6万5千人は、農業(タバコの葉の栽培)、前作業工程、そして葉巻工場の3分野で働いている労働者の合計だそうです。農業分野では、労働期間は年間8ヶ月弱で、約3万2千人が北部地域とオメテペ島で雇用。タバコを乾燥・発酵・熟成させたりする前作業工程では約8千人が、葉巻工場では約2万5千人が働いているとのことです。
 なお、CNTは、主に大規模生産者が加盟する団体ですので、これに加入していない中小業者や周辺産業の従事者を含めると、その数はさらに膨らみます。

ウ 観光業にも寄与~シガー・ツーリズム~
 葉巻産業の成長は観光業にも寄与しています。葉巻工場見学ツアー(注:新型コロナウイルス・パンデミック以降、2024年8月現在、多くの工場は観光客の受入れを中止しています。再開が望まれます)や葉巻の試煙(?)体験などは、外国人観光客の人気を博しています。
 私も、現地旅行代理店主催のタバコ畑と葉巻工場を巡る見学ツアーに参加したことがありますが、非常に面白かったです。その様子については、以下【コラム⑤】もご参照ください。初期に作成した特に拙いものですが、動画で紹介しています。
 後述しますが、毎年1月、ニカラグア・タバコ生産者商工会議所(CNT)主催により、聖都エステリにおいて、国際葉巻フェスティバル「Puro Sabor」(Nicaraguan Cigar Festival: Puro Sabor)が開催されており、この機会に多くの葉巻愛好家がニカラグアを訪れています(以下、【コラム⑥】参照)。こうした取組が功を奏し、ニカラグアは葉巻愛好者にとっての旅行先としても知られるようになってきています。

国際葉巻フェスティバル「Puro Sabor」公式Webサイト

(2)輸出状況

ア 生産されたほとんどの葉巻が輸出用~約86%が米国へ~
 以下グラフが示すとおり、近年ニカラグア産葉巻の輸出は着実に増加しており、今や世界のトッププレイヤーとなっています。

ニカラグア産葉巻 全輸出量の推移

 特にここ最近は、ドミニカ共和国やホンジュラスといった他の主要国を押しのけ(注:キューバ産葉巻は米国により禁輸措置を受けている)、ニカラグアがハンドメイド・プレミアムシガーの対米最大輸出国となっています
 米国の葉巻雑誌「Cigar Aficionado」によれば、2023年に米国が輸入したプレミアムシガーは合計4億6760万本で、そのうちニカラグア産は2億4630万本となっています。実に米国が輸入した葉巻全体の52.67%を占めています
 ニカラグアにとっても米国は最大の輸出相手国です。上述のニカラグア・タバコ生産者商工会議所(CNT)会長によれば、2023年に輸出されたニカラグア産葉巻の総本数は2億8,845万本で、そのうち86%が米国に輸出されたとのことです。なお、残りの葉巻のうち、12%はヨーロッパ市場に輸出されています。
 また、ニカラグアは、完成品の葉巻のみならず、素材としてのタバコの葉も輸出しています(2023年は32.2百万ドル)。その主な輸出先は、同じく葉巻生産国であるドミニカ共和国とホンジュラスになっています。ドミニカ共和国に拠点を構えるDavidoffなどは、同国工場において、ニカラグアで栽培されたタバコの葉のみを使って、Davidoff Nicaragua Diademaといった葉巻を生産したりしています(こう考えると、ニカラグア産葉巻の定義って一体何?と思ってしまいますね。本書では、ニカラグア国内にある工場で作られた葉巻をニカラグア産葉巻としています)。

イ 対日輸出 
 対日輸出の状況についても調べてみたのですが、正直よく分かりませんでした(苦笑)。残念ながら、ニカラグア側の資料では、勧業・産業・通商省(MIFIC)の少々古い資料で、2020年:0.1百万ドル、2021年:0.1百万ドル、2022年:0.2百万ドルという数字が見つかったのみです。
 一方で、日本側の財務省貿易統計では、2003年以降、以下のような推移になっています。

 直近の2023年では、日本の輸入額は約1億1千万円程度です(少ない!)。2022年、2023年と急激に伸びていますが、これはキューバ産葉巻の品薄と高価格化を原因とする、いわゆるノンキューバ産葉巻の需要増加の影響でしょうか。いずれにせよ、日本の経済規模を考えると、この数字は少なすぎるような気がしますので、ニカラグアの良質な葉巻が日本にもっと入ってくるといいなと思います(嫌煙の雰囲気が強いご時世だと難しいですかね???)。
 なお、これらの数字は、ニカラグアから直接日本に輸出(輸入)された葉巻についてのものです。ネットなどで葉巻の輸入経路を調べていると、日本のシガー業者は、欧米や香港などの代理店を通じてニカラグア産葉巻を購入しているようですので、この数字がそのままの輸入絶対量ではないことを補足いたします。
 以下【コラム⑦】として、『「アロマ・デ・ニカ」~日本人プロデュースによるニカラグア産葉巻!?~』という記事を書きました。日本人企業家が、ニカラグアまで足を伸ばして自社工場を立ち上げ、20年弱にわたってオリジナルブランドのニカラグア産葉巻を日本で販売していることを知って、非常に興味深いなあと思いました。ニカラグア推しの私(笑)としては、このような日本企業がもっと増えてほしいところです。

4.ニカラグア国内の主要タバコ栽培地域

 ここでは、ニカラグアの主なタバコ栽培地域について、それぞれ簡単な特徴をまとめて紹介します。エステリ、コンデガ、ハラパ、オメテペ島の 4 つの主要地域には、それぞれ独自の土壌があり、そこで栽培されるタバコに独特の品質をもたらしています。
 以下の各地域の説明は、Holt’s Club HouseというWebサイトの「Nicaraguan Tobacco(J. Bennett Alexander著、6 Jan 2023)」を参照させていただきました。

ニカラグア主要タバコ栽培地域

(1)エステリ(Estelí)

 エステリはニカラグア葉巻タバコ産業の中心地で、火山性の硬い黒土が特徴的です。この土壌は濃厚でスパイシーな味わいを持つタバコを育てます。特に、この地域で栽培されている葉は、リヘロ葉としてよく使われます。
 同地には、1959年キューバ革命前後にニカラグアに亡命してきた同国葉巻生産者が初の葉巻工場を設立しました。その後、エステリは葉巻産業の中心地として発展し、現在も多くの著名な葉巻メーカーが拠点を構えています。

(2)コンデガ(Condega) 

 コンデガはエステリの北に位置し、岩が多い土壌です。この地域のタバコは日光を多く浴び、薄めの葉が多く育ちます。コンデガのタバコはアースィー(earthy)で、スパイシーな味わいが特徴です。

(3)ハラパ(Jalapa)

 ハラパは、エステリの北東、ホンジュラスとの国境近くに位置し、肥沃な赤土が広がる地域です。ここでは、滑らかでクリーミーなタバコの葉が育ち、多くの美しいラッパーが供給されています。

(4)オメテペ島(Isla de Ometepe)

 オメテペ島はニカラグア湖に浮かぶ火山島で、肥沃な火山性土壌が特徴です。比較的新しい栽培地域ですが、そのユニークな地理的条件から、ここで育つタバコの葉は力強い味わいがあり、葉巻業界において特別な位置を占めるようになっています。

双子火山のオメテペ島
オメテペ島:プンタ・ヘスス・マリア

5.主要ブランド

 ニカラグアの葉巻は、力強く、甘く、土の香りとスパイシーなアロマが特徴です(La Couronne S.A. Webサイトより)。あまりにも多くのブランドがあるため、全てをご紹介することはできませんが、Cigar Aficionadoのベスト・シガーにランクインするような葉巻ブランドをいくつか紹介させていただきます。
 それぞれの説明については、公式Webサイトや、HalfwheelHolt’s Club Houseといった販売店のWebサイトを参考にさせていただきました。

(1)パドロン(Padrón)

 1964年、マイアミにおいて、キューバからの移民であるホセ・オルランド・パドロンによって設立。エステリに生産拠点を置くパドロンの葉巻は、リッチでフルボディの風味が特徴。すべてニカラグア産のタバコの葉を使用。「パドロン1964アニバーサリーシリーズ」が多くの賞を受賞しています。

(2)オリバ(Oliva)

 その歴史は、1880年代にキューバでメラニオ・オリバがタバコ栽培を始めたことに端を発しています。キューバ革命の影響で、メラニオの孫ヒルベルトが、タバコ栽培に適した土地を探し求めニカラグアにたどり着きました。特に「オリバ・セリエV」は、その複雑さと強さで高く評価されています。

(3)マイ・ファザー(My Father)

 葉巻作りの伝説的存在、「キューバ産葉巻の王」であるホセ・「ペピン」・ガルシアによって作られたブランドです。マイ・ファザーの葉巻は、キューバの葉巻製造の伝統を守ったその緻密なクラフトマンシップと力強い風味で知られています。「フロール・デ・ラス・アンティジャス」や「ル・ビジュー1922」など、多くの賞を受賞した高品質な葉巻を生産しています。

(4)A.J.フェルナンデス(A.J. Fernández)

 比較的新しいながらも急成長している葉巻業界のスター。革新的なブレンド技術で知られ、「サン・ロタノ」や「ニュー・ワールド」などの高評価の葉巻を生産しています。

エステリにあるA.J.フェルナンデスの工場(再掲)

(5)ホヤ・デ・ニカラグア(Joya de Nicaragua)

 1968年に設立された、ニカラグアで最も歴史ある葉巻ブランド。ホヤ・デ・ニカラグアは、「ホワイトハウスの公式葉巻」とも称され、ニカラグア産葉巻を世界に広める上で重要な役割を果たしました。特に「アンターニョ1970」のようなフルボディの葉巻は、ニカラグア産タバコの強さとリッチさを反映しています。詳細は、【コラム③】及び【コラム④】を参照。

(6)プラセンシア(Plasencia)

 5世代にわたってタバコ栽培と葉巻製造に携わるプラセンシア家によって運営されているブランド。ニカラグア最大規模を誇る農園を所有し、自社ブランドの葉巻だけではなく、他の有名ブランドの葉巻も製造する高品質な生産者として知られています。

(7)ペルドモ(Perdomo)

 ニック・ペルドモ氏によって設立された同ブランドは、品質へのこだわりと、全ての生産プロセスをコントロールする垂直統合された運営で知られています。「ペルドモ20周年記念」や「ペルドモ・リザーブ・シャンパーニュ」などのラインが人気です。

ニカラグア産葉巻

6.首都マナグアの葉巻スポット

 この章では、首都マナグア市内でニカラグア産葉巻を購入できる場所等を紹介します(ニカラグア在住者ならでは!)。ニカラグアの大手葉巻企業は、フリーゾーン制度下での生産、つまり輸出が前提の生産を行っており、国内に流通する量はごくごく限られています。そうした事情ゆえ、逆にニカラグア国内の方が良質なニカラグア産葉巻を購入しにくいという皮肉な状況があります。

(1)THE CLUB Cigar Lounge

 マナグア市内の目抜き通り「マサヤ街道」沿いにあるログハウス風の建物。葉巻の購入ができるほか、ドリンクを飲みつつ、その場で喫煙も可能。地下にビリヤード場あり。ほぼ隣にニカラグア牛ステーキの名店「ポーターハウス」があるので、おいしいチュラスコを食べた後に立ち寄ることもできる。

(2)Nostalgia de Nicaragua

 マサヤ街道沿いに店を構えるシガーショップ。

(3)ホテル・インターコンチネンタル・マナグア

 市内中心部に位置する高級ホテル。その一階にあるプールサイドのバーでは、ニカラグア最高級銘柄とされるパドロン(Padrón)の葉巻を購入し、喫煙することもできる。

(4)Flor de Caña直営店

 ショッピングモール「ガレリアス・サント・ドミンゴ(Galerías Santo Domingo)」内にある、ラム酒メーカーFlor de Cañaの直営店。同社のラム酒及び関連グッズの販売がメインであるが、ホヤ・デ・ニカラグアの葉巻を購入することが可能。

(5)マナグア国際空港出発ロビー内「パドロン」ショップ

 マナグア国際空港で出国手続きを済ませ、出発ロビーに進むと、「パドロン」の店舗(直営店?)があります。ここが、ニカラグアで葉巻を購入できる最後の場所です。

(6)注意点

 マナグア市内の市場、例えば、外国人観光客もよく訪れるロベルト・ウエンベス市場(Mercado Roberto Huembes)などでも葉巻が売られていますが、ほとんどが偽物とされています。くれぐれもご注意ください。

7.終わりに

 ニカラグアコーヒーに関する記事を書き上げ、さあ次はニカラグアの何について紹介しようかと、単なる思いつきで始めた葉巻タバコ産業に関するこの記事。調べている過程で、自分でも意外なほど葉巻に興味を引かれ、書き終えてみれば結構な長文になってしまいました。
 いかんせん葉巻素人なので、葉巻とはなんぞやと、葉巻のイロハから始めざるを得ませんでした。ただ、その過程で葉巻全般についての知識を得ることができましたし、新しい世界が開けたので、非常に良かったと思っています。ただ、記事本文に入れるには余計だけど、捨てるにはもったいないなというものが増えてしまいましたので、これらを【コラム】としてこの後に突っ込んでいます。結果、本文よりも【コラム】の方が長くなってしまいました・・・

タバコ畑

 調査を始めた当初は、資料がなくて本当に困りました。ニカラグアコーヒーに関する記事を書いたことがあるので、まあ葉巻についても何かは書けるだろうと楽観視していました。しかし、葉巻に関しては本当にまとまった資料がなくて困りました。
 それもこれも、比較的歴史が浅いのと、コーヒーと比べて市場規模が小さいので、国際機関はおろか、民間の研究機関もあまりないというのがその理由なんだと思っています。
 そのようなわけで、日本語、英語、スペイン語の文献をネットで当たって、少しずつつまみ食いをする形でまとめざるを得ませんでした。いろいろと資料を参照した中で、基礎知識を得る上で、「ザ・シガーライフ」(広見護、中村孝則著、オータパブリケイションズ)は大変役に立ちました。勝手に参照しておいてなんですが、著者の広見護様、中村孝則様には感謝申し上げます。特に、広見様におかれては、20年以上もニカラグアと関わられ、ご自身プロデュースによるニカラグア産葉巻を生産・販売されていると知るに至り、素直にすごいなと思わされました。遠いニカラグアの空から引き続きの成功をお祈り申し上げます。

 私自身、今回の記事執筆過程を通して、葉巻にさらなる関心を抱きました。もちろん、歴史や文化、製造過程などが面白いのはもちろんのこと、一本一本丁寧に作られたハンドメイド・プレミアムシガーって、なんだか見ていて本当に美しいんですよね
 今後、私がこのニカラグアの地に留まっている限り、同記事をアップデートしていきたいと考えております(本記事に間違い等が見つかったら、しれっと修正します(笑))。今回の調査である程度葉巻に関する基礎知識は得ることができましたので、次回アップデートではもっと精度の高い内容にできるものと考えております(いつ更新できるか分かりませんが・・・)。
 普段の関連ニュースに注目してみたり、できれば来年1月の国際葉巻フェスティバル「Puro Sabor」をのぞいてみたり、もし時間があれば、再度タバコ畑や葉巻工場を訪問して、今のニカラグア葉巻たばこ産業のダイナミズムについて報告したいと思います。
 同記事を通して、「ニカラグアって意外にいいよね!」と思っていただけたらうれしいです

■■コラム■■

【コラム①】ニカラグアという国について

 ニカラグア共和国は、中央アメリカ(中米)に位置し、北はホンジュラス、南はコスタリカに接し、東はカリブ海、西は太平洋に面しています。首都はマナグアで、国土面積は約13万平方キロメートル(北海道と九州を合わせた広さ)、人口は約660万人(2024年現在)です。公用語はスペイン語で、多様な先住民の文化が色濃く残る国です。

(1)歴史 
 ニカラグアの歴史は古代から先住民族が住んでいたことに始まります。その後、16世紀初頭、スペインの探検家クリストファー・コロンブスがカリブ海沿岸を探検し、その後スペインによる植民地化が進みました。1821年に中央アメリカ諸国と共にスペインから独立し、その後、短期間の中央アメリカ連邦の一部を経て、1838年に独立した国家となりました。

 20世紀初頭にはアメリカの影響が強まるにつれ、反米感情が高まりました。特に1927年から1933年にかけてのサンディーノ将軍(注:後のサンディニスタ民族解放戦線(FSLN)の名前の由来となった国民的英雄)による抵抗戦が有名です。

ニカラグア国内の至るところで見られる「サンディーノ将軍像」

 1979年にはサンディニスタ民族解放戦線(FSLN)がアナスタシオ・ソモサ独裁政権を打倒し(サンディニスタ革命)、社会主義を志向する政権が誕生しました。その後、アメリカが支援する反政府勢力「コントラ」との内戦や数々の経済危機を経て、2007年以降現在まで、FSLNを率いたリーダーの一人であるダニエル・オルテガ氏が大統領を務めています。

(2)文化 
 ニカラグアは、多様な文化を持つ国です。先住民族の文化、スペイン植民地時代の影響、そしてアフリカ系カリブ海地域からの移民文化が融合しています。ニカラグア音楽には、カリブ海沿岸で発展した「パロ・デ・マヨ」や、「マリンバ」という伝統楽器を使った音楽があります。また、ニカラグアは詩人の国としても知られ、20世紀初頭の詩人ルベン・ダリオは、スペイン語圏の文学に多大な影響を与えました。

ニカラグアのカリブ海側の音楽「パロ・デ・マヨ」
毎年5月に、このような華やかなお祭りが開催されている
ニカラグア出身の世界的詩人「ルベン・ダリオ」

(3)地理と経済 
 ニカラグアは、火山と湖の国としても知られています。特に大きなマナグア湖とニカラグア湖の湖畔には多くの都市が発展しています。また、国内には活火山も多く、観光資源としても利用されています。

最も多くの観光客が訪れる「マサヤ火山国立公園」
美しいアポヨ湖

 経済的には農牧業が主力で、牛肉、コーヒー、バナナ、タバコなどが主要な産品です。特に、本書で紹介しているニカラグア産の葉巻は世界的に高い評価を受けています。

ニカラグアコーヒーも世界的評価が高い!

【コラム②】米「Cigar Aficionado誌」ベストシガー 2022年及び2023年

 以下のとおり、アメリカの有名な葉巻雑誌「Cigar Aficionado誌」が選ぶベストシガーにおいて、2022年はニカラグア産葉巻がベスト25中14本(56%)、2023年は同じくベスト25中13本(52%)がランクインしています。ニカラグア産葉巻の活躍ぶりが伺えます。

「Cigar Aficionado」の「Best Cigar 25」(2023年及び2022年)(再掲)

【コラム③】ニカラグアで最も歴史ある葉巻ブランド「ホヤ・デ・ニカラグア」(Joya de Nicaragua)~ホワイトハウス公式葉巻!?~

 「ニカラグアの宝石」を意味するホヤ・デ・ニカラグアの公式Webサイト内のour historyを参考に、同社の歴史について説明します。一企業の話ですが、ニカラグアの葉巻タバコ産業の歴史そのものです。
 1968年、創業者であるシモン・カマチョとフアン・フランシスコ・ベルメホの二人は、他の葉巻生産者と同様、革命最中のキューバから逃れ、ニカラグアで葉巻事業を開始しました。エステリに工場を設立し、「ホヤ・デ・ニカラグア」と呼ばれていた「ニカラグアン・シガー・カンパニー」の黎明期が始まりました。
 その頃、米国によるキューバ産品禁輸のおかげで、ニカラグア産葉巻はその存在感を増してきていました。ある時、ニカラグアの独裁者ソモサが、ニクソン大統領に招かれホワイトハウスを訪問した際、葉巻を勧められました。その時、ソモサは、葉巻が納められている箱の中に、自国の「ニカラグアン・シガー・カンパニー」のリングが付けられた葉巻を見つけ、驚きで手が止まってしまいました(これが、ホヤ・デ・ニカラグアが、ホワイトハウス公式葉巻と言われる所以です)。これを機に、ソモサはニカラグアにおける葉巻生産の利を認識し、自らタバコ産業を拡大しました。
 70年代後半になると、サンディニスタ・ゲリラの攻勢が強まり、ソモサ独裁政権との対立が激化しました。1979年、同ゲリラがエステリを掌握したとき、彼ら自身の空爆によってホヤ・デ・ニカラグアの工場も破壊され、生産が一時的に停止しました。同年、革命が成就すると、サンディニスタ政権は、他の葉巻工場同様、ホヤ・デ・ニカラグアの工場を国有化しました。
 その後、アメリカによる禁輸、反政府勢力コントラとの内戦、未曽有の大型ハリケーン「ミッチ」の到来、さらには「ホヤ・デ・ニカラグア」商標の無断売却問題など、様々な困難に直面しましたが、労働者たちは葉巻の品質を維持しつつ生産を続けました。
 1990年、内戦による影響で国全体が疲弊する中、非サンディニスタのチャモロ政権が発足しました。新しい時代が到来する中、ホヤ・デ・ニカラグアの労働者達は、工場をより発展させることができるリーダーを探していました。その結果、1992年クエンカ博士がリーダーシップを取り、90年代半ばの世界的な葉巻ブームにも押される形で、工場は再び繁栄し始めました。その後も、クエンカ博士とその息子ファン・マルティネス氏に率いられ、ホヤ・デ・ニカラグアは、家族経営の伝統を守りながら、世界60カ国以上で展開されるプレミアム葉巻ブランドとして成長を続けています。

【コラム④】葉巻生産プロセス~ホヤ・デ・ニカラグアの場合~

 葉巻の生産プロセスについて、ホヤ・デ・ニカラグア公式Webサイトから引用・翻訳し、簡単に説明いたします。
 なお、同公式サイトでは、写真付きで説明(スペイン語または英語)がなされていますので、以下の翻訳もご参照の上、是非のぞいてみてください。
(注1:本コラム内で掲載した写真は、必ずしもホヤ・デ・ニカラグアのものではありません。私が撮影したり、既存の写真を参考として掲載したものです。)
(注2:専門用語の翻訳・解釈が間違っていたら申し訳ございません。専門用語の翻訳は本当に難しい・・・)

01. 種まきから喫煙まで(De la siembra al fumado)
 優れた葉巻を作るには、優れたタバコの葉が必要です。ホヤ・デ・ニカラグアの葉巻がお客様のお手元に届くまでには、300人以上の人の手を経ており、使用されるタバコの葉の栽培には少なくとも4年以上かかっています。ホヤ・デ・ニカラグアは素晴らしいタバコを以下のように生産し、最終的に「知る人ぞ知る(For Those In The Know)」葉巻に仕上げています。

02. 発芽(Germinación)
 このプロセスは、堆肥を入れた苗床に包まれた、厳選されたタバコの種を蒔くことから始まります。8日後、最も丈夫な芽を分離し、栄養を最大限に取れるようにするため専用のポットに移し替えます。約30日後には、その芽は世に出る準備が整います。タバコ畑の溝切りした中に植え付けられ、大空を求めて成長していきます。

タバコの苗(イメージ)
タバコ畑(イメージ)

03. 収穫(Priming)
 タバコの葉を下から上に収穫していきます。下から、セコ(seco)、ビソ(viso)、そしてリヘロ(ligero)と呼ばれます。

04. カサ・デ・クラド(養生ハウス、Casa de curado)
 緑の葉は糸で括られ、タバコ畑の中にあるカサ・デ・クラドの垂木に吊るされます。45~60日間そのままの状態にされます。(乾燥し)チョコレート色になった葉は丁寧に梱包され、工場に運ばれます。

カサ・デ・クラド(イメージ)
カサ・デ・クラド(イメージ)
葉が吊るされるとこのような感じ(イメージ)

05. パイロン(Pilones) 
 パイロン(タバコの葉が積み重ねられたもの)の重みと加えられた湿度(水)が熱を発生させ、天然の化合物の酸化と放出を通して、葉の化学成分に自然な変化をもたらします。これは、発酵プロセスと呼ばれるものであり、これにより葉の風味とアロマが変化します。

06. 葉に湿り気を与える(Moja de capa)
 パイロンの工程でその重さによってくっついた葉を分離するために、湿り気を与えます。濡れた葉は束ねやすく、巻きやすくなります。

07. 葉脈の除去と葉の選別(Despalillo y selección de capa)
 熟成の工程がピークに達すると、中央に走る太い葉脈が手作業で取り除かれ、中骨(葉脈)も除去されます。これは、ホヤ・デ・ニカラグア特有の作業です。葉脈が取り除かれた後、タバコの葉はボンチェロとロレラ(los boncheros y roleras)に送られます。

08. ボンチャド(Bonchado) 
 ホヤ・デ・ニカラグアのボンチャドとロラド(注)のチームは、それぞれ男女(時には夫婦)で構成され、明るくフレンドリーな環境で、おしゃべりをしたり音楽を聴いたりしながら働いています。我らの笑顔のアリスト(注:ホヤ・デ・ニカラグアの昔の職人)のように、お気に入りの葉巻を楽しむ人もいます。

ボンチャドとロラド(イメージ)

注:「ボンチャド」(bonchado)と「ロラド」(rolado)
これらは、葉巻の生産プロセスにおいて重要な2つの工程を指します。
●ボンチャド(Bonchado):ボンチャドは、葉巻の中身を成形する工程です。具体的には、フィラー(中詰め葉)を適切に選び、これをバインダー(結束葉)で包んで葉巻の芯を形成します。ボンチャドを担当する職人は「ボンチェロ(bonchero)」と呼ばれます。
●ロラド(Rolado):ロラドは、葉巻を完成させるための最終工程で、フィラーとバインダーをラッパー(外装葉)で巻き、葉巻の外観を整えます。ロラドを担当する職人は「ロレラ(rolera)」と呼ばれ、ラッパーを均一に巻きつける技術が求められます。

09. 品質管理(Control de calidad)
 各シガーは次の工程に進む前に検査され、パフテストが行われます。

10. エスカパラテ(Escaparates)
 エスカパラテは、葉巻の人生におけるもう一つの節目です。ここで、葉巻は畑と工場での工程を終えて休息し、タバコの葉のペアリングとフレーバーの結合が行われます。この段階は、強さやブレンドによって90日から数年かかることもあります。ホヤ・デ・ニカラグアでは、この段階をプレミアムシガーの製造において最も重要なもののひとつと考えています。

休息中・・・(イメージ)

11. パッケージング(Empaque)
 葉巻は色別に選別された後、濃い色から薄い色へ、左から右へと並べられます。それぞれの葉巻にリングが付けられ、セロハンのプロテクターにくるまれ、それぞれの木箱に納められます。葉巻には、ニカラグア産であることを保証する、ホヤ・デ・ニカラグア工場の原産地シールが貼られます。その葉巻は、ニカラグアの国名を誇り高く冠し、陸路、空路、海路で世界中のあらゆる大陸に届けられます。こうして作られたホヤ・デ・ニカラグアの葉巻は、全てのニカラグア産葉巻の中で、最もニカラグアらしいものです。

【コラム⑤】2021年ニカラグア・タバコ農園及び葉巻工場訪問

 私は、現地旅行代理店にアレンジをお願いして、2021年頃にエステリ近郊のタバコ農園及び葉巻工場を訪問したことがあります。この時の様子を動画にもしていますので、ご関心があればご覧ください。
 なお、当時は、動画作成を始めたばかりで、かつ葉巻に関する知識も今よりはるかに乏しかったので、本当に稚拙な出来となっています。ただ、雰囲気程度は分かっていただけるのではないかと思います。

【コラム⑥】ニカラグア・タバコ生産者商工会議所(CNT)と国際葉巻フェスティバル「Puro Sabor」

(1)ニカラグア・タバコ生産者商工会議所(CNT)は、2008年にニカラグアで最も重要な葉巻・タバコ生産者の利益を代表する組織として設立、加盟27社、加盟団体でタバコと葉巻の国内総生産量の95%を占めます。その目的は、消費者、企業、労働者の利益を守りながら、ニカラグア産タバコと葉巻のイメージ促進を図ることです(以上、CNT公式Facebookページより)。
(2)CNTの重要な活動の一つが、国際葉巻フェスティバル「Puro Sabor」(Nicaraguan Cigar Festival: Puro Sabor)の開催です。毎年1月、聖都エステリ市を中心に開催され、次期2025年のフェスティバルで12回目を迎えます(2025年1月20日~24日に開催予定)。
 同フェスティバルの日程表を見ると、スペイン植民地時代の雰囲気が残る古都グラナダ観光、エステリのタバコ畑や葉巻工場視察などが組まれていて、葉巻好きにはたまらない内容となっています。昼食や夕食の会場が、プラセンシアやA.J.フェルナンデスの工場になっていたりすることも、なかなか凝った趣向で楽しそうです。
 しかし、空港送迎、食事、移動、そしてアクティビティ等全て含んだチケットが一人2500ドル(!)と高額なこと、また、ホワイトスーツがドレスコードに設定された「ホワイトパーティ(!)」なるものが予定に組み込まれていたりと、ちょっと私のような庶民には手が届かない世界だなと思ってしまいます(笑)
 日本人で、ホワイトスーツを持っている人ってどれだけいます???

ホワイトスーツ(イメージ)

【コラム⑦】「アロマ・デ・ニカ」~日本人プロデュースによるニカラグア産葉巻!~

アロマ・デ・ニカ公式Webサイト

 日本の全国たばこショップリーダースクラブ(TLC)とヒロミエンタープライズが共同で立ち上げたシガーブランド「アロマ・デ・ニカ」。2007年発売。2013年にその生産を自社工場に切り替え、葉巻の製造・輸出入・卸・小売までの垂直統合を日本で初めて完成。ブランド名は、社長の広見護氏がニカラグアのシガー工場を視察した際の現地の新聞記事のタイトル「ニカラグアシガーの香りが太平洋を渡る(Aroma de puros nica cruza el Pacífico)」に由来。(以上、「アロマ・デ・ニカ」公式Webサイトから適宜引用)
 日本人企業家が、ニカラグアまで足を伸ばして自社工場を立ち上げ、20年弱もオリジナルブランドの葉巻を販売しているって、本当にすごい!

注:現地紙「La Prensa」:ニカラグアシガーの香りが太平洋を渡る(2005年当時の記事がまだ残っていました!)https://www.laprensani.com/2005/04/27/economia/933043-aroma-de-puros-nica-cruza-el-pacfico

【コラム⑧】日本人と葉巻との出会い

 日本人と葉巻との出会いについて、「ザ・シガーライフ」(広見護、中村孝則著、オータパブリケイションズ)に興味深い記述がありましたので、以下引用して紹介します。

 「タバコの日本への伝来をはっきり物語る文献はないが、1543年、ポルトガル人が種子島に漂着し鉄砲を伝えたことで始まった、南蛮貿易によることは間違いないであろう。天正年間(1573年~1591年)にはタバコの種が日本に持ち込まれ、慶長年間(1596年~1614年)になると、全国各地でタバコの栽培が行われ、喫煙の習慣が広まったとされている。つまり、コロンブスの発見からわずか100年足らずで、タバコははるか日本にまで伝わってきたことになる。
 こうした欧米列強の風習は、明治維新後の日本にも伝わってきた。やはりステータスの象徴として上流階級の中で地歩を築いていったが、今日では個人の愉しみに変わった。シガーが特権階級にのみ許された時代が終わりを告げ、今やすべての人が自由に愉しめるようになったのだ。
 アメリカでは1992年のコロンブスの新大陸発見500周年を機にシガーブームが巻き起こった。雑誌「Cigar Aficionado」が創刊され、それと前後して、日本でも本格的なシガーショップが次々と誕生していった。それに追随して、バーなどでシガーを扱うお店が増えていったのである。」

「ザ・シガーライフ」(広見護、中村孝則著、オータパブリケイションズ)
イメージ

【コラム⑨】シガーを愛した男達

 皆さんは、葉巻を嗜んでいる人と言うと、誰を想像されますか。葉巻は、たびたび歴史の舞台に登場しますので、何人かの顔は浮かぶのではないでしょうか(私の場合は、まず最初にチェ・ゲバラ! そして、最近の著名人では麻生太郎自民党副総裁、霜降り明星の粗品さんでしょうか・・・(笑))。
 ここでは、「ザ・シガーライフ」に掲載されている「シガーを愛した男達」を抜き出してみました。以下には簡単な略歴しか掲載していませんので、これら歴史的な偉人とシガーとの関わりについて知りたければ、是非同書をご覧ください。

(1)エドワード7世
 イギリス国王(在位1901–1910)。ヴィクトリア女王の長男で、彼の治世はエドワード朝として知られています。
(2)ジークムント・フロイト
 オーストリアの精神分析学者。無意識の研究と精神分析の創始者として知られ、現代心理学に大きな影響を与えました。
(3)ウィンストン・チャーチル
 イギリスの首相(1940–1945, 1951–1955)。第二次世界大戦中の指導者として、イギリスをナチス・ドイツから守り、歴史的なスピーチで知られています。
(4)サマセット・モーム
 イギリスの作家、劇作家。彼の作品『月と六ペンス』や『人間の絆』は世界的に有名です。
(5)トーマス・マン
 ドイツの作家、ノーベル文学賞受賞者(1929年)。代表作に『魔の山』や『ブッデンブローク家の人々』があります。
(6)吉田茂
 日本の政治家、首相(1946–1947, 1948–1954)。戦後の日本再建とサンフランシスコ平和条約の締結に尽力しました。最近の日本の政治家では、麻生太郎元総理が有名でしょうか。
(7)チャールズ・チャップリン
 イギリス出身の映画俳優、監督。サイレント映画の時代に活躍し、『モダン・タイムス』や『独裁者』などの作品で知られています。
(8)エドワード・G・ロビンソン
 アメリカの俳優。ギャング映画での悪役で有名で、映画『リトル・シーザー』での演技が特に評価されています。
(9)アルフレド・ヒッチコック
 イギリスの映画監督、プロデューサー。『サイコ』や『裏窓』などのサスペンス映画で知られ、「サスペンスの巨匠」と称されます。
(10)アル・カポネ
 アメリカのギャング。禁酒法時代のシカゴでの活動が有名で、脱税で逮捕されたことが知られています。
(11)オーソン・ウェルズ
 アメリカの映画監督、俳優。映画『市民ケーン』の監督・主演として映画史に残る影響を与えました。
(12)ジョン・F・ケネディ
 アメリカ第35代大統領(1961–1963)。冷戦時代におけるキューバ危機や宇宙開発競争などで知られています。
(13)フィデル・カストロ
 キューバの革命家、政治家。1959年のキューバ革命後、キューバの首相、のちに国家評議会議長として長期にわたり統治しました。
(14)チェ・ゲバラ
 アルゼンチン出身の革命家、医師。キューバ革命で重要な役割を果たし、世界的に左翼の象徴となっています。

【参考文献等】

「ザ・シガーライフ」(広見護、中村孝則著、オータパブリケイションズ)
「マイアミ最新葉巻事情」(渡邉尚人著、連載エッセイ307、一般社団法人ラテンアメリカ協会)
・「葉巻 キューバに追随する勢い」(渡邉尚人著、明石書店「ニカラグアを知るための55章」)
「A History of Cigars in Nicaragua」(J. Bennett Alexander著)(英語)
「Nicaraguan Cigars Light Up Global Market」(Tico Times、2024.1.27)(英語)
ニカラグア政府広報サイト「El 19」(スペイン語)
アメリカ葉巻雑誌・Webサイト「Cigar Aficionado」(英語)
Holt’s Cigar Company(英語)
Halfwheel(英語)
・Cigar Makers of Nicaragua(Omar Rodríguez著)(英語) 

【注意事項】

 私は、紙巻きタバコすら吸わない人間で、この分野の専門家でもありません。公開情報(主な引用元上記)を元に、なるべく正確な記述を心がけてはおりますが、いかんせん専門分野はなかなか難しく(苦笑)。万が一間違いがあったとしても、責任を負うことはいたしませんので、この点ご承知おきください。
 事実関係の間違い等がありましたら、コメント欄で「優しく」ご指摘いただけましたら助かります。次回更新時に(しれっと)修正させていただきます(笑) 
 また、葉巻業界の方で、葉巻及び葉巻産業について教えてあげてもいいよという奇特な方がいらっしゃいましたら是非ご連絡ください。ニカラグアまたは日本で意見交換させていただけましたらありがたく思います。

「ニカラグアって意外にいいよね!」と思ってくれたら、うれしい!



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