ナイス滝
ここ1週間くらいネタを書きに喫茶店に行くが、ノートに生産性のない落書きをして帰ってくるということを続けていたため、いよいよ精神的に焦ってきた。頭の中が空っぽという表現がぴったりで脳内の風通しがすこぶるいい。何も思いつかないのはひとえに刺激が足りないのではないか。大好きな燃え殻さんのエッセイの新刊を読んで、燃え殻さんはいろんなことを足を運んで経験しに行っているのに、私は一体どうなんだ。高円寺のマクド、高円寺の上島珈琲、高円寺のコメダ珈琲だけである。たまに気分を変えて野方のマクド。ひとまず環七から離れよう。環七にへばりつくな。私はまいばすけっとではない。
西武線を利用したとき、大層魅力的な秩父のポスターが目に入る。「ちょっとラビューで秩父まで」というポスターである。駅周辺に入浴を含めた複合施設があり、少し足を伸ばすと観光客と地元の人たちをどちらも大切にしている通りがある。自然を見たいときには徒歩で到着できる広い公園もある。しかも西武池袋駅から77分、1700円。感謝が止まらない。
大阪出身の私は関東への旅行の経験がそこまでない。箱根、熱海など遠くて行けるわけのない場所だったが、上京のおかげさまで距離に対しての怖さは少ない。エッセイの2~3本、ネタの1~2本くらいはここで書き上げてやるぜと、自分で決めた7:30の起床で、半ギレになりながら池袋へ向かった。
秩父が埼玉だと知ったのは秩父に到着してからであった。車が熊谷ナンバーで熊谷は暑いところだ、暑いところは埼玉にあったはずという偏った知識で脳のシナプスを繋げていく。10:30には秩父に到着し、あたりを見て勝ちを確信する。クラフトビールの店の向かいに地酒の店があった。同時に負けも確信する。今日ネタとnoteとライブの詳細を考えないといけない日じゃなければ。
秩父はジビエと味噌ポテトとわらじかつとそばが有名だという。素人の私にはこれらは関係性がわからず個性派アイドルのようなメンツであるが、蕎麦が食べたくなった。と同時に蕎麦を選んだ私の大人の落ち着きを誰かに見てほしい気持ちになった。蕎麦屋さんに到着すると私が一番乗りだった。座敷と椅子が選べ、座敷の方に座った。座敷の方がお得感があったから。せいろ蕎麦を頼んだ。特にトッピングはしなかった。運ばれた瞬間から蕎麦のいい匂いが顔の周りを浮遊する。どの向きに顔を持っていってもそばに包まれているようで心が洗われる。
まずはつゆにつけずにするるといただく。鼻腔を通る香ばしさを感じることで自分が何者かになった気がする。調子に乗って塩をつけて食べた。後方から従業員が何者なのかを査定しているような目で見ている。それもそのはずオープンと同時に入店し、せいろ蕎麦しか頼まず、座敷で1人そばに塩をつけて食べている。残念ながら、私はただの食いしん坊だったが、従業員の一抹の夢を壊さないように、全神経を集中させ信州の何者かであるような背中に仕上げてみた。
蕎麦湯が運ばれてきた。蕎麦湯にはビタミンなどの栄養が豊富でごくごく飲んだ方がいいと自然派オーガニック系の記事で読んだ気がしてひとまず全て飲んだ。小さいペットボトルくらい飲んだ。ビタミンみなぎりながら蕎麦屋を後にした。
少し調べると牧水の滝というのを見つけた。蕎麦屋から20分くらい歩けばいけるそうで腹ごなしに歩いてみることにした。急勾配の連続で、特急ラビューから降りた時に自分を褒めた上着も今や激怒に達するくらいに汗だくで歩いた。秩父は山だった。滝の手前に池がありたくさんの金魚が泳いでいた。金魚を見るのが好きである。いい具合に太った大小さまざまな金魚を見て、私のことをも金魚を見るような目で見ている未確認生物が地球外にいるような感覚になり、これなんかネタになりそうと思ってメモを取り出したが、汗が垂れるほどの暑さで「金魚」と書いて疲れて終わった。明日にはなんの金魚かわからくなる金魚を産んだ。金魚を眺めていると急激なもよおしに見舞われた。ビタミンと引き換えた代償はかなり大きなものだった。それでも滝を見たい。私は滝を見にきたしネタを書きにきた。
金魚池を登ると滝があると言うのでチョコザップのレッグプレスの終盤のように振り絞り登った。今日はレッグプレスしないでいい。
登って登って、やっとお待ちかねの滝との邂逅だ。
人生ってのはいろいろあると思う。気がついたら私は秩父駅に戻っており、ネタも書かずにクラフトビールの飲み比べを楽しんでいた。黒ビールが一番美味かった。缶で売っていたら買って帰ろうと思う。
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