ぴったりするときしないとき

　マクドで一生懸命クレームを伝えているおばはんがいた。聞いている感じかなり理不尽で氷の量の細かな欲求を店員さんに伝えている。対する店員さんはあどけなさの残る女子大生。このまま屈してしまうのかと思いきや、同年代でも達観した精神性をお持ちのようで「おっしゃる通りでございます」や「こちらの連携ミスです」など(おそらく)思ってもいないような言葉があたかも思っているような心地よいリズムで放たれる。
　結果、女子大生のスキルが高すぎておばはんの燃料切れとなり、最後には「頑張ってね」とまで言わしめた。精神達観女子大生はその場を去った後、心配したバイト仲間に愚痴ることなく、爽やかな潤った笑顔で「大丈夫」と一言添えて業務に戻っていった。今目の前で起こったことなんて私の人生に一ミリも影響させないわといった感じだった。

　気分の良くなったおばはんはそのまま帰り、空いてる席におそらく若手芸人が2人来た。ネタを書くのかパソコンやノートをいそいそと広げた。話を聞くとM-1のエントリーを先ほど済ませたようだった。ネタのことをしこたま話した後、衣装の相談をしだした。インターネットを泳ぎながらこれは？これは？と話している姿は真剣そのもので、ときどきガハハと笑い声が聞こえたり、時に真剣に黙り込んだりと目の前のことに一点集中ですがすがしかった。こんな芸人の街のマクドなんて私以外にも私が確認している時点で芸人が複数人いる。あそことあそこと、さっき3階に上がっていったあの人も。そんなことは気にしない、自分たちのM-1を戦っているといった感じだった。