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【読了】宙わたる教室
あまりにも良すぎた。
私、人生で1番好きな小説は宮部みゆきさんの『小暮写眞館』かなと思っているのです。
ただ、なぜ好きなのかを考えると悩むんですよね。
とても感動して泣ける小説ですが、それは決して悲しいからではなくて、とても前向きで清々しい感じでした。
その前向きで泣ける感じの小説っていうのがよかったのかなと。
物語りとして惹き込まれるエンタメ性もあり、読後の気分の爽快さも心地いい。
こんなに幸せになれるなんて、これこそ小説という媒体の最高傑作だと個人的には絶賛している小説なのです。
その『小暮写眞館』を読んでからもう10年。
ついに同じく前向きで、気持ちのいい読後感の小説に出会いました!
定時制高校の教室に「火星」を作り出す――胸が熱くなる青春科学小説
ー中略ー
「もう一度学校に通いたい」という思いのもとに集った生徒たちは、理科教師の藤竹を顧問として科学部を結成し、学会で発表することを目標に、「火星のクレーター」を再現する実験を始める――。
作者の伊与原新さんは、直近の直木賞を受賞された作家さんです。
これまで短編を3作読んだくらいの浅い知識ですが、気象や天体など、地学の知識がうまく物語と溶け合っている、素敵な小説を書く方だなという印象をもっていました。
もちろんこの『宙わたる教室』でも地学の話はたくさん出てきます。
あらすじにもあるように、定時制高校で科学部を作り、火星に見立てた実験を繰り返すのですから。
突然ですが実は私、理科って苦手なんですよ。
好きな科目は完全に文系寄りで、理数系の授業は正直苦痛でした。
もちろん地学も特別好きではなく、知識もほとんどありません。
それでもこの小説は本当に面白かった。
舞台の定時制高校では、いろんな事情で学校に通っている生徒がいます。
優秀な父親のもとに生まれたのに、どう頑張っても教科書を読むことができなかった男性。
日系フィリピン人で、幼い頃にお世話になった先生に憧れ教師になりたいと思ったものの、家庭の事情で学校に通えなかった女性。
長年のしっかり勤め上げ、自分の工場を畳んだあと、学ぶことへの憧れから高齢ながら高校に通う男性など。
彼らには学校という場所や、学ぶことへの憧れがあるんですよね。
でもこれまで、家庭や時代などの様々な要因から満足に勉強することができませんでした。
学びたい欲求を思い出し、それを満たすために学校へ通っている人たちの姿は本当に尊いです。
個人的にではありますが、人間ってだれでも学ぶことが好きなんじゃないかと思うんですよね。
もちろん嫌いな教科はあるものだし、学校の勉強は全て嫌いな人もいるかもしれません。
でも人が考えていることだったり、あと美容だったり、何かしら「知る」ことや「理解」することって楽しいものだと思うのです。
でも勉強は楽しいということを知る機会って、全ての人にあるわけではない。
家庭の裕福さや、時代、あとは良い先生に出会えるかなど、いろんな運が関係すると思います。
学ぶ楽しみを知るのは本当に幸福なことだと思います。
無理矢理やらされる勉強は苦痛でしかないですが、「知る」喜びは人間の原始的な喜びなんじゃないかなと思うのです。
勉強においてたくさんの壁に阻まれ、いろいろな挫折をしたものの、「学ぶ」という原始的な喜びを追求し始める定時制高校に通う生徒たちの姿は眩しいばかり。
仲間を得、学びを得、将来への希望を持ち始める、とても幸せな物語でした。
できることなら全ての人に読んでみてほしい。
そう思わずにいられない尊い小説でした。