マリアビートル:伊坂幸太郎
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伊坂幸太郎の殺し屋シリーズ3部作を読み返すということで、再読。
舞台は殺し屋だらけ新幹線の車内。この状況から謎めいた緊張感があります。
前作に続き、殺し屋という特異な存在たちの「命の重さ?なにそれ?」という価値観で物語が進んでいきますが、途中「なぜ人を殺してはいけないのか?」という世界観を覆すような命題が浮上します。
これは「王子」というサイコパスな中学生の発言です。これに対し、前作『グラスホッパー』に引き続き登場する塾講師の「鈴木」が答えを出しますが、この答えが個人的に納得、というか、この手の質問をもし自分がされた場合には、大人として、この鈴木のように「ありきたりでうすっぺらい」と思われないような答えを持っていたいと思わせるものでした。
鈴木の出した答えは、命がなくなると悲しいという個人的な感情から始まり、この命題自体をよくよく見つめ直すことでみえてくる質問者の意図といった深層に迫り、それに対する問いかけ、からの最終的な答えに至るというとても丁寧で磨き抜かれたものでした。
で、ここからが面白いのだけれど、このとてつもない命題に対する答えが提示されながらも、登場人物たちの価値観どころか空気も、そして物語そのものにもほとんど影響がないんです。ウケますよね。いわばこの命題は物語のストーリー、つまりは殺し屋たちの喜劇を彩る飾りに過ぎないということです。
しかし、だがしかし!命題の影響は限定的でありながら、その命題自体は物語の中で巧みに、繊細に扱われているんです。だから物語の面白さ云々とは別の流れで読者にはずっとこの答えが残る。
さてさて飾りに彩られた物語はいつも通りスピーディーに転がっていきます。そして毎度のことながら広げた風呂敷をキレイに畳む伊坂の名人芸。
個人的には前作の「グラスホッパー」より、「マリアビートル」推しかな。
さて、次は三部作の最後「AX」を読もうと思います。