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【モンハン考察】昔書きかけで放置したモンハン獣竜種の話と生態樹形図についての走り書き

 端的に言うと、モンスターハンターにおける生物分類項目の一つである「獣竜種」は、二翼四脚型の所謂「ドス古龍」および「マガラ骨格」の古龍らと同起源なのではないか、ということである。獣竜種とドス古龍は親戚説、である。
 もちろん、ハンター大全その他のモンハン公式設定資料にあたる書籍などにはそんなこと微塵も書いていない。モンハン世界内における生物系統樹、「生態樹形図」にも古龍は独立して分類されている。ただし、この生態樹形図、モンハン世界内の研究成果による分類に過ぎない、というメタ的な構造をよく注意したい。

生態樹形図は信用ならない


 言ってしまえば、「生態樹形図は正しいとは言えない」。少なくとも、我々現実の人間が思うような正しさはない。大小様々な根拠があるが、わかりやすいところで言えば、三点ある。

1.まず、「古龍」という分類項目は、生物学的な分類としては機能していない


 冒頭でわざわざ二翼四脚やら「ドス古龍」やらと但し書きをつけなければいけない理由は、ある程度長くやっているモンハンプレイヤーならお分かりだろうが、草食獣のような外見の「キリン」や一見タコのように見えるがギリギリ四足動物かもしれない「ヤマツカミ」などの古龍は、「アルバトリオン」「クシャルダオラ」「シャガルマガラ」などとは根本的に違う生物であることは自明であろう。「古龍」は、そもそも分類不可能で生態系から逸脱したように見える生物の総称として使用されており、特に人類の脅威となる場合が多い。そのような文化的分類であって、現実で言えば「毒虫」や「魚介」などと変わらない。ムカデとサソリは全然違う生き物だし、マグロとカキも同様だ。このような分類項目が生態樹形図という生物学的な分類系統樹に紛れ込んで他の項目と肩を並べている時点で、かなり怪しむべきだ。

2.プケプケ・パオウルムー問題


 「モンスターハンター:ワールド」では海の向こうの新大陸の調査を行っているワケだが、そこで見つかった現地の新種モンスターに「プケプケ」と「パオウルムー」がいる。

毒妖鳥プケプケ


 「プケプケ」は主に森林のような環境の「古代樹の森」に生息しており、カメレオンのような顔つきと羽毛の伴う色彩豊かな体、口および尾の先端から毒を吐くモンスター。植物食の傾向が強い雑食らしい。長い舌で食物を絡めとって食べる。

浮空竜パオウルムー


 一方「パオウルムー」は「古代樹の森」などから大峡谷を抜けて隔絶した地にある「陸珊瑚の台地」に生息するモンスターだ。陸珊瑚の放出するタマゴを主食とし、首から胸にかけて風船のように発達した構造に空気を吸い込んで浮き、またその肺活量で宙に浮くタマゴを捕食する。珊瑚は言うまでもなく動物であり、肉食の傾向が強いと言える。体毛は白色で、肌は桃色、顔は齧歯類か猿類に似る。
 問題は、プケプケが鳥竜種に分類されていて、パオウルムーが飛竜種に分類されているのに、両者の翼の骨格がほとんど同じ(そして特徴的な)形をしているということである。ついでに足の形も同じである。
 そもそも、ランポス系やジャギィ系などの二足歩行の鳥竜種(走竜下目)と明らかに鳥に見えるガーグァ(真鳥下目)を除いた、ワイバーンの体型を持ったイャンクック、イャンガルルガなどの鳥竜種(鳥竜下目)と飛竜種との区別はどこで付けているのかが曖昧で、これも生態系における強さ弱さに依存した分類の可能性を捨てきれないが、ことプケプケとパオウルムーに関しては外見的にほぼ一致し、かつ独特な部位を共有している点で問題含みと言える。鳥竜と飛竜、本当に彼らの分類がこのレベルでラディカルに違うのならば、二つの種は収斂進化を遂げた、という説明を付け加える他無い。しかしながら、この二種の間には、「(ワールド当時の)現状では新大陸にのみ住んでいること」と「飛ぶこと」以外に生息環境も食性もまるで違うのである。収斂進化は環境から受ける圧力が同じ場合に同じような器官の進化の道筋を辿ることを言うので、これにも当てはまるとは言いづらい。つまり生態樹形図は間違っているのである。
 なお、鳥竜種と飛竜種を互いに独立した妥当性のある分類項目として仮定した場合、この二種はどちらに寄るのか、という話については、どちらとも言える。イャンクックやイャンガルルガにはないが、ヒプノックやクルペッコには羽毛がある。プケプケは羽根を素材として持っているし、パオウルムーから剥ぎ取れるのは毛皮だが、実はモンスターハンター:ワールドでは、この種(そしてプケプケ)の痕跡として羽毛が手に入るのだ。体毛のある飛竜種としてはベリオロスやナルガクルガなどがいるが、彼らは羽毛ではない点で峻別できる。この体毛の点では、鳥竜種に部があるように見える。
 しかし、翼を持つ鳥竜種は基本的に嘴を備えている。プケプケの口は形だけならヨダカのようだが完全な嘴とは言えず、パオウルムーは明らかに哺乳類のような口をしている。哺乳類のような顔つき、という点ではベリオロスが該当するし、嘴だけで判断するとなるとナルガクルガがミミズクと猫を掛け合わせたような面構えなので分類の根拠にはし難い。鳥竜種のほうが数が少なく特徴も排他的であるから、羽毛という点を妥協して飛竜種に分類し直すのが懸命かもしれない。
 一番納得が行くのは、新しく独立した分類を作ることである。

3.生態樹形図は未だ作製途中


 鱗や鰓蓋、ヒレの様な手足や尾など、魚のような特徴を持っているモンスターをまとめて魚竜種と呼ぶが、魚竜種であるガノトトスなどは初代モンハンの作中現代以前には飛竜種として認定されていた。モンハン世界における調査研究で、新たに魚竜種として分類を用意し、受け入れた歴史がある。
 また、今では蛇竜種に分類されている古龍の兆し、ガブラスだが、元々はこの種も飛竜の一種として扱われていた。「4」でのガララアジャラの発見によって分類を改められた形だ。
 このように、生態樹形図は未だ研究の終わらない分類学の中途成果であり、参考になりこそすれ、盲信は禁物なのである。

 以上に述べた理由などから生態樹形図=モンハン世界の正しい生物分類ではない、ということが分かる。

アンジャナフの翼膜とクシャルダオラの翼


 話を戻すと、モンスターハンター:ワールドのプロモーションムービーでアンジャナフを見たとき、丁度「ティラノサウルスモフモフ説」が話題になった後だったこともあり、かなり現実の生物に寄せたデザインのモンハンらしからぬモンスターを出すんだな、と思った。実際は、怒り状態で鼻腔がグロテスクに拡張し、腰のあたりから扇のような翼膜を張り上げる点で特異的だった。
 この翼膜は、どうやら軟骨組織で骨組みされているようで、骨格標本には反映されていない。しかしながら、脊椎動物において可動部位がいきなり意味不明な位置に増えるものなのだろうか、という疑問が起こった。背鰭などの類にしては、左右一対が不自然であるし、公式の生態見解としての体温調整部位としても形状に無駄がある。翼のような形である必然性はないはずだ。
 一点から骨格が放射状に伸びるという構造を見たとき、ワールドより前のクシャルダオラの翼のデザインを連想した。

古いクシャルダオラのモデル。
翼の骨格が胴体から直に分かれて伸びている。
ワールド以降のクシャルダオラのモデル。
翼の骨格が、腕と指間に翼膜を張っているような形で、
より現実的な構造に変化している。

 こういうモデルの変更は、例えばリオレウスの後足の親指が前向きだったものが、「3」で後ろ向きに変更され、地域差として扱われたが、このような形で処理できるとして、以前のモデルのクシャルダオラの翼骨格に、アンジャナフの翼は似ているし、胴体に対して付いている位置も近い。クシャルダオラが他の似通った骨格の古龍と比較的近縁だとすれば、アンジャナフの翼と二翼四脚の古龍における翼が相同器官だ、という仮説を立ててみることは、大胆すぎるだろうか。

六脚生物と四脚生物


 二翼四脚型の古龍とワイバーン型の竜との最大の差異は、四脚とは独立して一対の翼が存在するか、四脚の前腕対が翼の機能を持っているかである。飛竜の祖の形質を色濃く残すと言われるティガレックスは、リオレウスなどと比べて前腕が飛翔機能に特化しておらず、大地を踏みしめる脚に翼膜がオマケされているような感じである。

轟竜ティガレックス

 元が翼だったものが歩行機能を獲得する、というのは現実の進化の過程から考えてもほとんどありえないから、元はアカムトルムやウカムルバスのように、飛竜種の祖先はその前腕翼の機能を持たない四足歩行の動物だったと考えられる。

巨戟龍ゴグマジオス
体の構造が分かりやすかったため、フィギュアを参照した。


 これと同じことが、二翼四脚型の古龍にも言えると思われる。例にあげたクシャルダオラやテオ・テスカトルなどは完全に飛行用の翼を持っているが、ゴア・マガラやシャガルマガラ、ゴグマジオスなどの「翼脚」を持つグループは、二翼四脚型古龍の一対の翼が元々は四肢ならぬ六肢の一対であったことを示しているだろう。ゼロから飛翔する器官を得るのは難しい、という理由の他にも、特にゴグマジオスが非常に長命で世代交代が少なく、他の種に比べて原始的な形質を留めている、という特徴が、二翼四脚が元は六脚であったことを裏付けている。ゴグマジオスのような体構造をもつ、あるいは翼の機能を持たない六脚の生物が、より原初的な、これらの種の祖先にあたる、ということは想像に難くない。

先祖返り


 六脚の脊椎動物というグループは現実の地球上では未発見であるが、実際の進化の過程をそれなりに辿っていると考えると、元来四脚のグループと思われる飛竜種や獣竜種その他は、六脚生物のグループから一対だけ脚を失ったグループを祖先としているか、それとも根本的に違うがある程度収斂進化が起こっていると考えられる。前者を取る場合、現状どのモンスターでも祖先が三対の脚を持っていた可能性があるということになるが、そうなるとやはりアンジャナフの可動する翼膜は非常に怪しい。
 先祖代々残ってきたというわけでなくとも、先祖返りを起こした個体群が種として定着したということは充分有り得る。現実でも実際に、進化の過程で過去に失った後脚由来のヒレを先祖返りで取り戻したイルカが発見されたことがある(和歌山県で発見された「はるか」)。

先祖返りして腹びれが復活したイルカ

 また、獣竜種は現実の獣脚類とかなり体構造が似ているが、本来恐竜はどの種も四足歩行の祖先を持ち、脚が地面と垂直に生えていることから、二翼四脚型古龍から翼の一対を取り外した形と合致する。飛竜種はその点、前腕は真横に向いて付いているため、関係があっても遠縁かと思われる。
 更に、非怒り状態の容姿が現実の恐竜に酷似していることや、「古代樹の森」という太古の環境を背負ったモンスターであることを踏まえれば、開発的な意図としてもアンジャナフが原始的な形質を持つという仮説に沿う。
 勿論、獣竜種全体が二翼四脚型古龍と共通祖先を持つかどうかはわからない。アンジャナフだけがそうで、たまたまほかの獣竜種と非常に似通った進化をしているばかりに誤分類されている可能性も否定できないが、可能性としては充分検討に値する仮説であると思う。

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