2. 『働かないと価値がない』を乗り越えたい

今、わたしは生まれて初めての専業主婦をやっている。

20代は自分探しという名のもと職を転々とし、その経験を丸ごと活かせる人材業界へ飛び込んだ。運よく仕事にどハマりしてガムシャラに働くこと10年超。その間結婚して家を買って、色んな人と出会って、吐きそうになりながら不妊治療と仕事の両立もして、残念ながら子どもには恵まれなかったので子育ては経験できていないけれど充実した30代だった。我ながら特に仕事はよく頑張ったと思う。

わたしの両親はもうすぐ70代に突入するのだけれど、小さな飲食店を経営していて、今尚現役で働いている。わたしが物心ついたときから二人は物凄く働いていた。今でも両親のことを思い浮かべるとき、わたしの頭の中の二人はお店の制服を着ている。

3人兄弟の長女であるわたしは、朝から晩まで働く母の代わりに、小学生の頃からごはんを作るのも下二人の面倒を見るのも当たり前だった。寂しいと思うことはあったけれど、わたしの寂しさ解消のために両親が家にいてくれることはあり得ないということもわかっていたから何となくやり過ごしていた。とにかく働く二人の背中をずっと見てきたから、働かざるもの食うべからず、人間は働かないとダメな生き物なんだということを幼少期に自然と叩き込まれた気がする。

大人になっていざ自分が働いてみると、いつも『働き足りない』という感覚に陥った。思い浮かぶのは飲食店の制服を着た両親の背中。二人に比べたら全然働いてないわ、わたし。もっと一生懸命頑張らなくちゃね、と思いながら働いてきた。

目の前に仕事があったらやる、出来るだけ翌日には持ち越さない、誰かが困ってたらサポートする、いつも頭の中はランナーズハイみたいになっていて、夜中まで残業して家に帰っても仕事のことを考えたりしていた。それを苦だとも思っておらず、わたしはワークアズアライフの人間なんだと思っていた。

それが、仕事にも慣れて一通りのことが出来るようになり、チームをまとめるようなポジションになり、実績も出て会社からも評価してもらえるようになったけれど、年を重ねるごとにわたしはどんどん疲弊して擦り減っていった。

人材業界は年度末が忙しいのだけれど、その時期になると夜ベットの中で身体は疲れているのに頭は妙に冴えていて眠れないということがよくあった。眠れない自分に嫌気がさしてベットの中でこっそり泣いたりもした。その度に夫からは「少し手を抜いて仕事をした方がいい」とか「有給を使って休んだら?」「ちょっと長めに休んだら?」と言われた。だけど、手が抜けなかった。手の抜き方がわからなかった。のちに上司から、「ニシさんは、アクセルを踏み込んで120キロで爆走するのに思いっきり急ブレーキを踏むよね。ブレーキが痛むよ。」言われた。

いづれ詳しく書こうと思うけれど、色々な経緯があって大手企業を辞め、その後ベンチャー企業に転職したが残念ながらミスマッチで退職をして、今に至る。

今まで奥さんらしいことをほとんど出来ていなかったので、3食ごはんを作って、家を掃除して整えて、夫の帰りを待つという生活は割と楽しい。わたし主婦向いているな、とも思う。

だけど、専業主婦になってからすぐの頃に昼間スーパーへ行った際にお寿司が目に入って、自分のお昼ごはんにしよう!と思ったのだけれど、何とその後、わたしはスーパー内をぐるぐる2周して、結局お寿司を買わずに帰った。働かざるもの食うべからず、働いていない専業主婦は寿司を食べるべきでない、と思った。

これはつい最近なのだけれど、会社を辞めて、今まで給与から天引きされていた住民税の納付書が送られてきた。5月末までの分一括払い。冷や汗。働いていないのに、息をするだけでお金がどんどん出ていく。家計費から払いたいけれど、納付期限日までの2ヶ月間、夫に言い出せなかった。働いていないのに、お金使ってごめん。

働かないと価値がない

誰にもそんな風に言われていない。なんなら、わたしの周りには「今まで頑張って働いてきたんだから少しゆっくりすればいいじゃない」と言ってくれる人が大半で、誰からもまだ「働け!」と言われていない。自分で自分を働かないと価値がないって思っているみたいだ。

母親の顔もチラつく。ちなみに母からも「少しゆっくりして、また自分に合う仕事を見つけたらいいよ、焦らずにね」と言われているのにも関わらずだ。今も働いている母を思うと、働いていないわたし、ごめん・・・となる。

わたしはまた働くと思う。でも、前みたいな働き方はもう出来ない。だから自分に合った働き方を絶対に見つけたいのだけれど、働かない自分には価値がないなんて寂しい考え方は30代に置いていきたいと思う。


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