給湯器が壊れて記憶の蓋が開いた
先日の大寒波で、給湯器が凍結破損した。蛇口やシャワーからお湯が出ず、小さな不便を感じながらここ数日を過ごしている。
震災の時は電気と水道の復旧、それから一月ほどしてからガスの復旧だった。それに比べれば、水道も出るし追い焚きで風呂にも入れる。
ちょっとした非日常に、少しワクワクも感じながら不便な日々を過ごす。
朝、鍋で沸かした湯を洗面ボールに溜めて洗顔をしていると、子供の頃のことを思い出した。
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適温のお湯を張った洗面器を母が用意してくれていたこと。
生まれてから小学校3年生の一学期まで過ごした家は社宅で、台所には瞬間湯沸かし器があった。ゴワッと音をたてて種火から火がつき、お湯が出ていた。洗面も歯磨きもそこでしていたのだと思うがその記憶はない。母が用意してくれた洗面器のお湯のことだけを覚えている。
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長く忘れていた事だったので、母に電話して話してみた。
『そんなこともあったね。』
あっさり答える母。
覚えていたようだ。
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週に2〜3度、家族で銭湯に行き、私はその日の気分で母と入るか父と入るか、つまり女湯か男湯どちらにするか決めていた。
女児は何歳まで男湯に入れたのだろう。今考えるとかなり無防備な時代だった。他の子供たちも、番台の横にある男湯と女湯を区切ったのれんをバタバタと行き来していた。
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ガス屋さんに見てもらって、貯湯タンクかそこから出る配管に穴が開いているらしいことが分かっている。蛇口からお湯が出ないだけで、水から追い焚きをすれば風呂の湯を沸かすことは出来る。
入浴時は湯船のお湯をなるべく最後まで汚さないように、洗面器に汲んで洗髪や洗顔をする。
洗面器が小さすぎて濯ぎ辛い。
洗面器がもう少し大きければなぁ。
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銭湯にはケロヨンに似たケロリンと書いてある黄色い洗面器が置いてあったが、洗髪用として家からひとまわり大きな洗面器を持って行った。
それにリンス、シャンプーのボトルと浴用タオルとバスタオルを載せ、風呂敷に包んだものが風呂行きセットだった。
当時、リンスと言えばお湯で薄めて使うものだった。
その大きめ洗面器にお湯を三分の一ほど入れてキャップ一杯のリンスを溶かし、濯いだあとの髪を浸す。
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小さい洗面器で顔を濯ぎながら、そんな記憶が蘇った。
あれがあれば顔も濯ぎやすいのに。
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給湯器の故障をきっかけに引き摺り出された記憶を味わい、そして今夜、交換工事まであと2日というところで追い焚きができなくなった。
次はどんなことを思い出すことになるのだろう。
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追記・銭湯に行ったのをきっかけに思い出したことを書きました。