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片付けのアマちゃん

日曜日。
朝早く、出かけていく家族を駅まで送ったあと、丸一日わたしだけの時間になった。
やることは決まっている。
昨日までまったく手を付けられなかった和室を片付けること。

もし急に誰かが訪ねて来ることになって、泊めて欲しいとでも言われたら、一時間で片付けることは出来る。
広がったものたちを二階の一室にでも押し込めれば良い。

でも今日したいのは単にものをどかす片付けじゃなく、
あるべき場所・・・あるべき場所を決めて、そこへいい感じに収納する片付けがしたいのだ。

散らかる発端は、5月のある日にした自室の模様替えだった。
夜に思いついたにも関わらず、翌日の午前中にはタンスや机まで移動でき、配置が完了した。
ご機嫌になったわたしは、自分の能力を過信してしまった。

部屋の押し入れの中のものを片付ける時が来たのだと思ったのだった。
中途半端に分別したノートやファイル、紙類、保証書、取扱説明書、思い出の品、部品やグッズ類、それらすべてを階下に運び、和室に並べた。
ここで分類して自室に戻す計画を立てた。

整理するファイルやラベルを買いに出かけ、一揃い購入。
と同時に、チューリップとビオラが終わったあとのプランターに植える花苗と野菜苗も買った。

翌日は植え替えや植え付けに勤しみ、花の寄せ植えと、トマトの苗を4株植えつけた。
翌日から苗の観察がわたしの趣味となり日課となり、特にトマトの成長に目が離せなくなった。

6月には家族に着物を着せる予定が入り、和室に積んだものをとりあえず奥に押しやることになる。
着付け当日をクリアし、肌着類はすぐ洗濯したが、着物と長襦袢はクリーニングに出すつもりで和室にどんと場所を取る。
出張があり何を着ていけば良いのか迷って、候補となった洋服が和室に吊るされていく。

5月の初めに一瞬できる子ちゃんだったわたしが、6月、7月と完全に片付けられない子ちゃんになっていた。

その間もこれじゃいけないと思う気持ちが、YouTubeのお片付け動画に向かう。
「いや、見てる時間があったら手を動かせよ」と心の声がするが重い腰が上がらない。

そんな2か月を過ごした後の7月10日、参議院選挙の日。
今日こそは、今日中に、和室を片付けようと決めた。

そうは言っても簡単には取り掛からない。

トマトの苗をチェック。
ハモグリバエ(ジカキムシ、エカキムシ)に葉を食われ、カメムシに実の汁を吸われているのを発見。
対策を考える。

クリーニングに出しに行くより家で洗う方がハードルが低くなることに気づき、着物と長襦袢を洗濯。

片付け後のご褒美に、コーヒーゼリーを作る。

洗濯している間に洋服類をタンスへ運ぶ。

着物を干して、お昼ご飯を食べ、コーヒーゼリーを食べながら見たTwitterで、岸田奈美さんの投稿を見る。

そうか、ハッシュタグを付けてnoteに日記書くのね。
何としても今日中に片付けよう。ハードルが一気に上がる。
テンションも上がった。

でもお腹いっぱいになったからちょっと眠いな。
今朝も早かったし。
15分だけ、横になろう。

軽い仮眠のあともだるさが去らないので、散歩がてらに投票に行くことにした。いつもは後回しにするから、閉める寸前に車で行って滑り込み投票している。日中に行くなんて初めてかも。

朝方の雨はすっかり乾き、カンカン照りになっていた。
ノースリーブに日傘、日に焼けたいんだか焼けたくないんだか分からない恰好で家を出た。近所を歩くのは久しぶり。

数歩も歩かないうち、母に電話してみる。
選挙は早朝に済ませ、買い物にも出かけ、家でテレビを見ているらしい。
話している間も電話の向こうからテレビからの声が大音量で聞こえてくる。

昨日は明菜ちゃんの番組を見ていたという。
やっぱり昔の歌の方がええな。
何歌ってるのかちゃんと分かる。
ほんで今はいっぱいで歌うし踊るからよう分からへんわ。

そやな。みんなそう言うよね。
おばあちゃんは三波春夫が好きやったし、お母さんはアリスが好きやったやん、おばあちゃんには3人の区別がつかんかったんと違う?
お母さんは、SMAPも嵐も分かるよね。

そらわかるわ。

5人も区別つくって、凄いことやで。
おばあちゃんには想像できんことやったん違うか。

まあな。

なかなか良い誘導に乗ってくれた。
この調子で実家に行ったときには「なにわ男子」のメンバーを一人ずつ、覚えて行ってもらおう。すみっコぐらしもちょっとずつ覚えてくれてるし。

話している途中に、スマホが鳴り出して音の止め方が分からないと言い始めた。

横押して。
前の真ん中押して。

一旦は音が止まるも、すぐに鳴り出す。
土砂災害の警報が溜まっていたのかな。
音量ボタンを説明しかけた頃に鳴らなくなった。
今度行ったときに見てみないと。

母は普段、携帯電話を使っている。
昔は実家では父しか使っていなかったが、それで事足りていた。
父が亡くなった後こっちが不便となり、母の名義で初めて契約してもらった。そして10年は過ぎた。

母にスマホを買い、試しに使ってみてもらってはいるが、タッチパネルの操作が難しい。表示されるアイコンの数を最小限にして、フォントも最大にしてあるが、どの操作も苦手な様子。
最近、病院の化学療法の点滴のときに有線のイヤホンを挿して、Spotifyを聴くことができるようになった。
けれど病院Wi-Fiの接続時間が切れたら繋ぎなおすことは出来ない。

結果、スマホは台所に置いたホルダーに立てたまんまで、以前からの携帯を使い続けている。
先日それが壊れ、同型の携帯を中古で手に入れてカードを差し替えて更新した。機種が変わると操作を覚えるのにストレスがかかりそうだったから。

もう着いたん?

いや、もうちょっと。
暑いから誰もおらんね。
あ、向こうから誰か歩いて来たわ。
ほな、切るね。

カンカン照りながら、風があり、ゆっくり歩いて10分の道のり。
会場直前で向こうから2人づれが歩いて来られたので外していたマスクを慌ててつける。

投票所に着くと私の他に投票者はなく、おそらくさっきすれ違った二人がわたしの前に来た人だ。

案内の人、チェックしてくれる婦人部のひと、選挙人の区役所のひと。立会の自治会や地区のひと。
小さい会場なので、持ち場にいる人それぞれに、ご苦労様です。どうも。ぺこり。声掛けや会釈をして回っていく。

投票を終え、帰る途中、一人とすれ違う。
多分この人が私の次に投票する人だ。

往復に3人としかすれ違わず、快適な散歩だった。
鳩と、ツバメと、スズメと、文鳥を見た。文鳥?思わず二度見する。確かに文鳥。って野生にいるんだ。

帰宅して止まった途端、汗が吹き出した。
慌てて着替え、お茶で水分補給。

さあ、もう時間がないぞ。
気合を入れるため、YouTubeの力を借りることにする。
本要約チャンネルをシャープのサウンドパートナーで聞きながら。

「あなたの強さは、あなたの弱さから生まれる」
「今日がもっと楽しくなる行動最適化大全」
「あなたはあなたが使っている言葉でできている」
「整える習慣」
「「運がいい人」になるための小さな習慣」
「エフォートレス思考 努力を最小化して成果を最大化する」
「なぜ、あの人は「お金」にも「時間」にも余裕があるのか」
「幸福優位7つの法則」

なだめられ、叱咤激励され、感心させられながら、作業が捗る。

片付けながら気付いたこと。
全部出して片付ける方法は、私にとって
車の免許を持ってるんだから運転できるかもー
なんて、コースでスーパーカーの運転席に座るようなもの。

いやいや、経験も練習もなしに、無理だし。

片付けはプロではなく、アマチュアだと自覚した。
いま出来ることと、後でゆっくり分類やファイルするものを分けて、
そのまましまったり、新しい山を作ったりした。

和室に掃除機を掛け、最後にもう一個コーヒーゼリーを食べて終了。

今日できたことは奇跡に近い。
後でやる宿題を残してあるとはいえ、2か月ぶりに和室の畳が見えた。
謙虚に、無茶をせずに地道に、片付けていこう。