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戦時下で

多くのネット民が軍事専門家に的外れな批判をしているのをよく見る
軍事専門家は予言者ではなく『戦場の霧』(クラウゼヴィッツ)を完全に消すことなど出来ない(衛星やドローンでも完全には払拭出来ない
シンクタンクなどで研究をされている専門家の先生方は公開されている情報から現状分析をされているのであり『今後の予想』などメディアが求めるから現状の情報で一応話しているに過ぎない(こんなにも西側からの支援が遅れると誰が予想出来ただろうか
YouTubeなどで戦況予測にすらならない『ロシア軍崩壊』とか言っている人々など論外であるしセンセーショナルな事柄を耳障りよく『解説』する輩というのは基本的に噓をついて衆目を集めたいだけである

『事前予想よりロシアが弱くウクライナが強かった』という事実すら場面ごとに違うと言える
ウクライナが最初の1ヵ月間を凌ぎ切ったのが大きかった訳だがジャベリンが猛威を振るったのではなくロシア側が市街地に機甲戦力を随伴歩兵なしで突っ込んだ無謀さの結果であり初日の制空地上支援なしでのヘリボーン作戦(壊滅した)と同じようにウクライナ軍を舐め切った作戦の結果だ
初動でチェルノブイリ原発を抑えたのは正規軍ではくチェチェンのカディロフ首長の私兵部隊だったし無茶苦茶だったのだ
一方北部での撤退戦ではロシアはかなり上手であったが第二次ハルキウ反攻では前線部隊の指揮系統が統一されておらずウクライナ軍が旧日本軍のような浸透包囲殲滅戦を決めてしまった(太平洋戦争で米軍には旧日本軍が浸透包囲に拘り柔軟性がないと評価されたが
ウクライナ春期攻勢は西側援助の遅れにより実質夏期攻勢となっているし南部が主戦線と考えられているのに南部であまり進軍できず東部のバフムトで必死に包囲戦をやろうとしている(23年7月中旬現在
ロシアは南部で幾重もの防衛線を引きつつ数は東部に集中している

残念ながらこの戦争は今年などの短期では終わるまい
ウォーゲームを我々は観戦しているのではない
隣国が反対側で明らかな国際法違反で侵攻しているのだし
我が国は敵性国認定され入国禁止リストすら出されている
自由民主主義とウクライナの主権を認めロシアへ経済制裁をしている
ISWの地図をメディアでみると陣取り合戦のように感じるかもしれないがその土地には農地などがあり地域住民もいるのだ
その住民と土地と主権を放棄して降伏するなどウクライナの選択肢はないだろうし(日本に置き換えれば分かるだろう
既にロシア領に編入宣言してしまったプーチンにも引き際は見えない

2千数百キロの戦線で両軍合わせ100万を超える軍が殴り合うなど本当に今が21世紀なのかと途方に暮れる
勿論一時的に『高地』を疑似的に作ってしまう廉価なドローンにより砲兵部隊の弾着観測射撃が自由に出来るようになったが『高地』の重要性が喪失した訳ではないのだし
前線の映像がSNSにより世界に波及し民間衛星でも戦況を見る事が出来るのは新しい事だがそれでも7月まで15万の動員ロシア兵の行方が分からなかったのだ
現代戦争で天候により進軍できるのかが左右されるなど衝撃的ですらある(泥濘地は機甲や砲兵が進撃出来ない

まだロシアには質を問わなければ十分な火力があるし部分動員も経済に大きな打撃のない地方の少数民族(特にアジア系)中心に行われている
『T-55まで引っ張り出している』などとロシアは笑われているが例のペンタゴン流出文書を信じるならばウクライナ側も主力の1個戦車旅団はT-55だ(世界で最も生産された戦車
ロシアは予備役に回した兵器を延々と保管し定期的に訓練で整備する習慣すらあるし弾薬を捨てたりなどしない
旧くとも戦車には使いではあるのだしT-55は自動装填装置が無いので装填手が一人多く必要になるがビックリ箱にはならないのかもしれない

砲兵火力で敵を圧倒するのはロシアの伝統である
現在は両軍共にソ連系のクラスター弾を使用し不発弾が大きな人道的危機と言われているが恐らく湾岸戦争での米MMRSより不発弾率は同じか高いだろうと思われる
米国もロシアもウクライナもクラスター弾禁止条約を批准していない
なので米国製の不発弾率の低いクラスター弾供与を糾弾するのは愚かだ
どちらにしても現在進行形でウクライナのとんでもない面積の農地が地雷と不発弾で汚染されている
日本が直接武器供与出来ないのであればこういった除去作業支援を大がかりにやるべきだと私は思う(既に東大先端研の小泉先生が指摘されているが

日本含む西側は団結しウクライナを如何に勝たせるのかについて知恵を絞らなければならない(なので日本の首相がNATOの会議に出るのだ
武器供与だけで核エスカレートは起きないだろうし(総動員はあるだろうが
かといってクリミアを奪還されればロシア人は戦争をやめようとはしないだろう(伝統的にロシア領でありソ連のフルシチョフ時代にウクライナになった
しかしロシアが全ての暴力装置を統一指揮系統に再編成出来れば大負けすら有り得るのだ(ロシアは国家が暴力を独占できていない中世的国家だが
ここで間違ったシグナルを西側が送ってしまうと現状変更を志向するアジアの国家へも悪影響があるだろう

日本の役割は核の脅しに屈せずロシアの思い通りにしない事だと思う
最後の戦時被爆地は長崎にしなければならない
核にはリアリスティックに対応しなければならない
哀しいが『平和を求めるものは戦争の準備をしなければならない』のだ

私の亡祖母は長崎県諫早の軍病院の看護婦であったのでピカドンを目撃しているし次々と運び込まれる被爆被害者の治療にあたった
「水を飲ませると亡くなってしまうのに水を求めながら母親を呼ぶ姿は忘れられないし自分は何もしてあげられなかった…戦争なんてするものじゃない」そう終生私に言っていた

一日でも早く平和が戻る事を切に願う

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