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ロストマイン ♯2

『ねぇこれで満足ですか…?』


『満足ですか。』


―――


「若なんか元気ないっすね。」


「やっぱり無理やり決めたからっすか?」


あの後山下さんたちは帰宅し、久しぶりにいつものメンバーで夕飯を食べた


○○:いや、クラスメイトに飛んだ奴がいるんだけどさ。いくつか引っかかることがあって。


一番引っかかるのは学校で飛び降りをしたこと


自殺を諮るということは、恐らくいじめがあったものと思われる


そこに様々な要素が複雑に絡み合って、最終的に引き金を引いたということだろう


ただ、なぜ学校という忌まわしき場所を現場に選んだのか?


「いじめってことはそいつにとっては戦場も同然だろ?戦場で死ぬことはおかしなことじゃないっすよね。」


○○:いや、そいつ女なんだわ。


「えっ!若に向井ちゃん以外に気になる女の子が!?」


「山下組の嬢ちゃんも可愛いしこれは若に春が来てますね。」


○○:おい。


父:ウチで調べるか?○○が気持ちよく付き合えるように。


○○:何もそこまでしてほしいとは言ってないぞ。


父:○○のおかげで一時休戦だし、暇だしなみんな。


なぜかやる気満々なので任せることにした


こういう裏のことは得意だろう


―――


政略的おみあいの意向が強いとはいえ、初めて彼女ができた


朝食をみんなで食べて学校へ


彼女を名目に送迎を断れるのは助かったかもしれない。


山下さんの家に着いた


しかしとても緊張する


傍から見ればただ家に来た人


立場を明確にすると敵対組織の居城のインターホンを押そうとしている人だ。


意を決して予備鈴鳴らすと昨日見た方が出てきた。


「おう。ちょっと待っとれ。」


「お嬢~八鎩會の坊主来てまっせ~」


待つこと10分、制服姿の山下さんが出てきた


瞳月:ごめんね、私朝弱くて。


○○:会合に遅刻したら指詰められません?


瞳月:あ~確かにそれ考えるとまずいかも。


極道の世界はルールや決まり事にとても厳しい


破ったらそれ相応の罰が下る


学校まで山下さんと色々と話をした


主に家のことをメインに趣味とかも聞けた


○○:問題は学校でどうするかだね。


瞳月:そのままでいいと思うんだよね。バレて困るものでもないでしょ?


○○:家のことは学校に言ってある?


瞳月:太陽光発電業者ってことにしてる。


○○:じゃあ付き合ってることは隠した方がいいな。


ちなみにうちは不動産会社ということになっている


付き合った理由が恋愛感情ではなくお互いの組の抗争を止めるためとか死んでも言えない


この日の体育はスポーツ測定があった


男子がハンドボール投げをしているとき、反対側では女子が走り高跳びをしていた


俺が見た時、ちょうど山下さんが高跳びをしようとしていた


すると、とんでもないフォームで棒に引っかかっていた


○○:どんくさ…


「瞳月ちゃんってかわいいよなー。」「推せるわー。」


クラスメイトのほとんどが彼女が極道の娘とは思わないだろう


しかも運動神経と人が殺せるかどうかは必ずしもイコールで結ばれない


硝煙と薬莢の香りが染みついている彼女なら組の英才教育は受けているはずだ


・・・ただ押し付けたというわけじゃなさそうだ


―――


純葉:瞳月さ~今日○○と一緒に来てなかった?


瞳月:うん。一緒だったけどどうして?


純葉:○○が純葉以外の女の子と話してるのは珍しいなと思って。


瞳月:女子苦手なの?


純葉:多分恥ずかしいだけだと思うけどね~


瞳月:そうは見えなかったけど。


純葉:○○んち実家が大変でさ~「俺は絶対に後継がない!」って言ってめっちゃ勉強してんの。運動もできるのにモテないんだよね~性格かなぁ。


純葉がうらやましいなと思った。○○君は純葉に家のことを話すくらいには信用してるんだろうなって


同時に純葉は○○君のことが好きなんじゃないかとも思った


○○君のこと話してる純葉はめっちゃ嬉しそうだし、めっちゃ可愛い


○○君純葉と付き合えばよかったのになんで断らなかったんだろう


抗争の都合上仕方なかったのかな


純葉:瞳月~お~い。


瞳月:あ、ごめん何?


純葉:めっちゃ考え込んでるようだったけど大丈夫?


瞳月:うん。大丈夫。


純葉とは絶対に友達でいようって決めた。


―――


飛び降りの一件があってから、屋上は封鎖され立ち入り禁止になった


今までもふんわりと禁止ではあったが、外付けの階段からいけるためあってないような禁止であった


あの時はお昼時に屋上に行けば仲のいい誰かがいた


弁当を持って屋上に行き、昼を食べて与太話をして午後の授業に備える


優は屋上で昼を食べていた別の女子グループの1人だった


優たちのグループはかなり顔が良く、屋上界隈では話題であった


優はその中でも中心というわけではなく隣で話を聞いていたイメージ


でも、話をすると面白い。よく笑うというより笑わせてくれる感じ。


あのグループの誰と付き合いたいか、屋上界隈での主要な議題の一つだった


「○○は誰がいい?」


○○:村井、かな。あれは付き合ったら楽しそうだ。


「あまり向井と比べない方がいいぞ。」


○○:なんでここで純葉が出てくるんだよ。


「仲いいじゃん。一部では付き合ってるんじゃね?とまで言われてるぞ。」


○○:残念ながら付き合っていないんだなぁ。これ。


純葉は幼馴染だし、これといって特に意識したことはないな


俺と違って純葉はモテるんだし、俺じゃなくてもいいだろ


ある日屋上に行ったら優一人で昼を食べていた


屋上界隈が誰一人いなかったわけだ


優と目が合った。そしてノータイムで一緒に食べる?と聞いてきた。


優:今日は1人なんだね。


○○:昼練と委員会だって。そっちは?


優:野球部の大会で有志がやるチアに参加するんだって。偉いよね~


確かに自分に自信があってチアに向いていそうだった


優は向いているかと言われると首を傾げざるを得ない


優:○○君のお弁当おいしそう。自分で作ってるの?


○○:うちは家庭が特殊だからね。母さん居ないの。あ、ただの離婚ね。


優:偉いな~、唐揚げもーらい。



○○:おい。


優:うわっおいしい!すごーい!


○○:そりゃどーも。


凄い嬉しいし、モテる理由がよくわかる


俺じゃなければ今ので落ちていただろう


優:お礼に玉子焼きあげる。自信作だよ。


○○:誰の自信作?


優:お母さんの。


○○:おい。


貰った玉子焼きはめっちゃ美味しかった


母の味というものはとうに知らないが、こういう味なんだろうなと思った


優:これも何かの偶然だし連絡先交換しようよ。


○○:いいよ。


同じクラスでありながらちゃんと話したのは多分これが初めて


以降は屋上で別々のグループで昼を食べながら裏で連絡をとるという奇妙な関係が出来上がった


屋上が封鎖された後、屋上界隈は自然消滅した


学年も変わり何となく忙しくなったからだ


昼の場所も会議室で食べることが多くなった


あそこなら、誰もいない


誰かを失うことも、もうない


屋上への扉の鍵なんざいつでも開けられる


久しぶりに屋上に来た


いつもと変わらない風景と、誰もいない変わった光景だ


そこに、電話がかかってくる


「若、今電話大丈夫です?」


「若が気になってた飛んだ件を調べてたんすけど、闇が深そうです。」


電話先で告げられたのは衝撃の内容だった


○○:ちょっと待て、優がいないってこと?

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