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伸縮自在の愛

中二病という病をご存知だろうか。


初期症状の発現が中学二年生に多いことからその名がつけられている。


症例としては、右目が疼く、左腕が疼くなど身体的症状のほか、存在しない闇の団体が見えるといった幻覚症状まである。


指笛でペンギンを呼ぼうとしたり、正義の鉄拳をやろうとして滑って尻を打った


なんて心当たりがある人は男性であれば多いだろう。


通常は発症しても1年程度で完治するのだが、症状が重篤化するとなかなか治らず高校生まで持ち越してしまうことも。


もちろんその頃には周りに中二病患者がいないので学校生活はかなり苦しいものとなってしまうが…


ーーー

謎の気配で目が覚めた。昨日よりも『奴等』が近づいている気がする。


母上の朝食を頂き学び舎へ。


俺の正体を学校内でばれるといけないので部活動時間以外は『薬』を飲むことによって『内なる衝動』を抑えつけている。


高校二年生の大半の授業範囲は把握している。


これで俺はごく普通の男子高校生として社会に溶け込んでいるわけだ。


目下、学級内では秋の文化祭に行われる劇の内容について討論していた。


主人公役の挙手を募るが全く上がらない。


この物語の主人公は俺じゃないからしょうがないな。


サッカー部やバスケ部などのキラキラした連中がやればいいんだこんなの。


俺は『魔道具』なんかをつくって『裏』から支配する方が性に合ってる。


「○○君がいいと思いまーす」


「○○君表現力あるし雰囲気ありそうじゃないっすか?」


結局、『権力者』の一声で主役を半ば押し付けられる立場となってしまった。


どうせ、めんどくさい役回りで成功したとしても得られるものはなし、失敗したら嘲笑できるという考えなのだろうな。


『はぁ~』


俺の身体から『溜息』が漏れる。


優秀な『創造者』が脚本を書いてくれるからいいものの、一抹の不安はどうしても残る。


所属する『研究会』PC研の『同志』に相談しても当たり障りのない回答しか返ってこない。


「文化祭の間だけ我慢すればいいから大丈夫でしょ。」


文化祭の間で済めばむしろ御の字だろう。


出来が悪ければ高校卒業まで一生『権力者』に擦られネタにされるにきまってる



『創造者』から『魔導書』が上がってきた。具体的な『訓練』が始まる。


「おおロミオ!どうしてあなたはロミオなの?」


この劇におけるヒロイン役、池田


世にも珍しい『こちら側』の人間だ。


主人公役が俺だから、ヒロイン役は池田でいいんじゃないかという『権力者』どうしの汚い井戸端会議があったのだろう。


ニヤニヤしてる面が目に浮かぶわ。


彼女には彼女にしか見えないものがあるらしく、それを現実にするため美術部に入ったんだとか。


池田:あなたには見えないの?『聖なる行進隊』が!


○○:俺に見えるのは『♰漆黒の愚連隊♰』だけだ。


池田:あなたにも見えているのね…


こうして俺たちは意気投合した。


『創造者』から届いた『魔導書』について『討論』を重ねた。


池田:やっぱりうちら『理解度』が足りないのかな。


○○:まあこの物語を『創造者』以上に『理解』している『人間』はいないだろうな。


この『魔導書』はかの『ロミオとジュリエット』を題材としたもののはずだが、どうも改変が多い。


いくら俺でも『異世界』から『龍』を『召喚』することは流石にできない。


池田も同じことは感じていたようで、それなら『創造者』に意図を確認した方が早い。


○○:なぁ、この台本変わりすぎてはいないか?


「わざとそうしてるの。私2人がロミジュリやるって聞いてガッツポーズしたんだからね?もちろん冗談でも嘲笑でもなくてね。」


池田:だからってあの脚本になる理由にはならないでしょう?


「あの作品は擦られすぎてて、普通の人がやっても普通の作品にしかならないの。所詮は『文化祭レベル』だし演者も観客も納得すると思うけど。」


「あの作品を『最高』にする手段が一つだけある。それは『普通じゃない人』が主役をやること。」


やはりディスられているようにしか聞こえない。


隣の池田もいい気分ではないように見える。


それでも『創造者』は淡々と続ける


「2人は私も含め全人類が捨ててしまったものをまだ持っている。これはとてつもないアドバンテージなの。」


若干言いくるめられている感じは否めないがそこまで言うなら…ということで折れた。


しかしまだ疑問は残っている。


最後、クライマックスの長台詞が『台詞』としか書かれていないのだ。


「そこは最後、告白のセリフ。告白するときの気持ちなんて台本に書いても野暮でしょ?」


つまり、自分で考えろということだ。


流れ的に俺から告白するようで、それに対して池田が返すことになる。


おそらくはこのシーンで作品全体の良し悪しが決まってしまう。


それも『創造者』の助けなしでだ。


「2人っぽい素直な気持ちを表現してくれたら絶対うまくいく。約束するよ。」


ーーー

○○:なぁ、池田って恋人いるか?


池田:今はいない。でもなんでかこの年でクズ男に引っかかるんだよね。


池田はすごい美人だ。スタイルもよく頭もいい。


中二病患者でなければもっとモテていただろう。


高校ではまだ恋人ができていないというが、中学時代であればありがちな個性とされていたものが高校では受け入れられないのだろう。


いやな時代になったものだ。


○○:俺は池田とこの役出来てうれしいよ。1人だったら絶対飛んでる。


池田:まぁ不幸中の幸いってやつだよね。


自分と同じ人間はいないと思っていた、でもそんな中池田と出会った。


これは恋愛感情というよりも仲間を見つけた時の感動に近い。


これは『創造者』も言っていたことだが、人が皆持っていてかつ皆捨てたものがある。


それは『童心』だ。


我々は『童心』を徐々になくし、『現実』を受け入れる。


最後まで『現実』にあらがったのが我々2人ということだ。


○○:池田、一つ考えがあるんだけど聞いてくれる?


池田:…それは流石に『大馬鹿』じゃない?


○○:でも『実現』させ、『成功』させたなら『馬鹿』でも『無謀』でもなくなる。


池田:『命を賭ける』必要は本当にあるの?


○○:いくら『童心』を失おうが『期待』されたら嬉しいし、『期待』に応えられたら嬉しいだろ。

ーーー

こうして文化祭当日を迎えた


ロミオとジュリエットは本来『悲劇』なのだが、尺の都合上、出会って告白するまでとなっている


『創造者』曰く、大事なセリフはすべて自分で考えろとのこと


それが偽らざる本当の気持ちになるんだとか。


舞台は初恋の女を忘れられないロミオが舞踏会に誘われるシーンから


「お前も舞踏会に行って女を浴びてきたらどうだ。」


○○:だめだ。俺はあの女が忘れられない。


「貴族しかいないんだからきっとお目当ての女性が見つかるさ。」


友人の口車に乗せられるようにして舞踏会へ


仮面をつけているからすぐに身分がバレることはない。


流石は仮面舞踏会、ここには濃い『魔』が満ちている。


そんななか、ひときわ目を引く女性を見つけた。


○○:よければ一曲踊りませんか?


池田:お手柔らかにお願いします。


この時ばかりは時間を忘れるほどに楽しかった


後で知ったことなのだが、彼女はうちと対立している貴族の家の娘なんだとか


そんなこと、知ったことか


私は絶対に彼女に思いを伝える


話によると敵方が今夜攻め込んでくるらしい。


その隙に私は敵方の城に忍び込んで彼女に思いを伝えんとする算段を立てた。


前日に城を抜け出し彼女のもとへ


竜の力は引き裂く息吹!レーヴァテインドラゴン・ブラストモード!


―――


○○:俺に策がある。


「まさか本当に竜を出せと言われるとはな。」


○○:池田の所属する美術部に絵コンテ書いてもらえるようになったから、うちでホログラムアニメーションとして顕現させる。


「やるからには全部失敗すんじゃねえぞ。」


○○:任せろ、120点出してやんよ。


―――


○○:お待たせいたしました姫。


池田:何で来たの!?見つかったらあなたまで…


○○:リスクを冒さずしてどうしてリターンを得ようと思うのでしょうか。


「いたぞあそこだ!」


○○:抜け出しましょう。


ドラゴンに乗り、森の奥へ。


奥にある泉にたどり着いた。


○○:両家は今対立しあっています。我々二人で平和に導きませんか?平和な明日を二人一緒に見てくれませんか?


池田:…約束だからね?


○○:必ず。


―――

劇は無事閉幕を迎える

我々のクラスは最優秀演目賞というものをいただいた。

○○:池田、あのセリフ、劇だけのものじゃないからね。

池田:えっ……それってどういう……?

○○:じゃあ、また。

池田:ちょっとー!

私はその背中に、確かに竜を見た。

〜fin〜

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