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#6 新たなスタッフを雇用する前に -業務の棚卸しを意識する-

こんにちは。Soul-inです。
本noteはクリニック院長の頭の中を言語化するnoteです。

今回は「業務の棚卸し」についての話です。

クリニックで人を雇用する意味とは、院長先生がやりたい医療を実現することを手伝ってもらうためです。

・院長先生以外でもできることを、常勤医師にしてもらう。
・医師以外でもできることを、看護師さんにしてもらう。
・看護師さん以外でもできることを、非資格職にしてもらう。

そんな風にスタッフの数は増えていきます。

『遊⭐︎戯⭐︎王』(高橋和希/集英社)


スタッフが増える時に行わなければならないのは、常に業務を再編成することです。

【意識すべき業務の再編成】
A. 有資格者がすべきこと
B. 機械がすべきこと
C. 機械では代替できないもの
D. 本当に必要か見直した方がよいもの

この後で例に出しますが、看護師ではなく看護助手(無資格者)を雇う場合は「C. 機械では代替できないもの」を担当させることになります。

さて、みなさんのクリニックではC. にはどんな業務が該当するでしょうか?

今日はスタッフを雇用する際に「何をしてもらうか?」という業務を作り出す視点と具体的な手順についてお話をしたいと思います。


1.資格職の業務を代替する

まず最初に考えるべきは、「医師・看護師にしてもらう業務を選別する」です。言わずもがなコストが高いからです。

例として「患者さんを診察室へ呼び入れる」を考えてみましょう。

例:「患者さんを診察室へ呼び入れる」を医師にさせた場合
〇 メリット
・医師が直接呼んでくれることで好印象
・歩行の具合などで体調の悪さを観察できる
・複数診の場合に「(あらっ、優しそうな先生ね)」など初診の患者さんが他の先生の様子をうかがえる

△    デメリット
・患者さんが入室するまでの間、他の業務ができない
・耳が遠い、車椅子などで移動に時間がかかる方の補助をせねばならない
・医師により呼びかけ方など対応が違う場合に、ルール設定が必要

メリットをメリットに感じない方も、デメリットをデメリットに感じない方もいるかもしれません。それは皆さんのクリニックの景色によるからです。

一人一人呼び込むのも、小さな時間ですが1日100人対応するとなるとチリツモです。若い方と杖歩行の方では、声かけに反応する耳の良さも移動時間も違います。

一人単価10万円で1日20人の人間ドックなら、医師が呼び込んで丁寧に時間をとっても良いかもしれませんね。

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こんな風に、顧客とコンテンツによりオペレーションは異なります。当院ではこれを看護助手さんにしてもらっています。

看護助手(または医療助手)の役割は、主に医療スタッフ(医師・看護師)の補助業務がメインです。まずは助手さん(非資格者)にさせるべき業務の切り分けを考えていきたいと思います。

看護助手さんと一緒に仕事をするご経験がない方もいらっしゃると思います。一般的な看護助手の業務は以下の通りです。

【看護助手の業務】
①診療補助業務

• 診察室への患者案内,移動(退室)のサポート
• 診療に必要な備品や器具の準備
(例:聴診器、血圧計、直腸診の準備など)
• 簡単な医療機器の操作補助
(例:心電図、スパイロメーターなど)
• 診療後の清掃・消毒
(診察台、器具の片付け・消毒)

②検査・処置の補助
• 採血・点滴の準備(※実施は看護師)
• 内視鏡検査の準備・片付け
• 検査前の患者誘導や説明(検査着への着替え案内など)
• 医療廃棄物やリネンの管理(洗濯・乾燥)

③環境整備・衛生管理
• 診察室・処置室・待合室の清掃
• 医療器具の洗浄・消毒・整理
• 消耗品(ガーゼ・手袋・検査キットなど)の補充・在庫管理

④事務・受付補助
• 受付や会計の補助(患者呼び出し、保険証確認など)
• 電話対応(予約確認・変更、問い合わせ対応)

上記のように、クリニックの業務の中には資格者でなくともできるたくさんのことがあります。皆さんのクリニックでは、誰がしているでしょうか?

大事なことは、資格者かどうかにかかわらず、業務を棚卸しし、何かで代替可能かを吟味することです。

スムーズな診療オペレーションを組み立てる時に、助手さんは業務のすき間を埋めてもらうのに有用です。そのために最も大切なことは、業務の棚卸しと分担を明確にすることです。

2.  例)看護助手導入のステップ

①集患+オペレーションの洗練

前提として、クリニックにより忙しさは様々です。内科の院長先生は常にこう思っています。「ああ、毎日キッチリ100人患者さんが来てくれればなあ」と。

毎日の来院患者数が読めないから人数配置に悩み、午前より午後の方が少ないから非常勤(パート)スタッフを午前のみの出勤などで調節弁とし、事前に来院患者数を予測したいから予約制にせざるをえないのです。

それは仕方のないことです。我々は集患と労務管理の狭間で日々葛藤しています。だからこそ常勤スタッフを増やすことや、看護師・事務以外のスタッフを入れる時は常に「業務の組み立てと切り分け」を意識しなければなりません。

分かりやすく例を出すなら、常勤を雇うのなら「午後にしてもらう業務」がなければなりません。このnoteでは繰り返し言っていますが、内科の「一日100人受診」は午前80と午後20というふうに受診人数がまったく違うのです。

院長先生が午後に集患コンテンツを作る、もしくは午後にできる業務を創造できなければ雇用過多(人件費過剰)になります。

まずは自分のクリニックがどういう受診の仕方をする患者層かを把握することと、スタッフを増やさねばならないほど集患することです。

一つ例を出すと、うちは常勤の臨床検査技師がいます。午前はドックでエコーをあてて忙しいですが、午後は検査が少ないため人間ドックの帳票の整理やチェックをしてもらっています。

ドックの判定に目を通すようになると、ドック学会の判定基準が頭に入り、レポートも変わってきます。これは良い業務の組み合わせだなと思っています。もちろん資格職は書類仕事をしてもらうための雇用ではないので、午後の検査の集患は怠ってはいけません。

現在の人員で無駄のない配置を作り、院長が限界までオペレーションをシャープにする。それでも過剰となる業務を請け負う人材を入れるという流れが良いと思います。

②業務の棚卸し

棚卸し=自分の仕事がどのようなステップで成り立っているか、何のためにどの業務があるのかを洗い出していくこと

棚卸しはとても大事な作業です。各職種の業務を棚卸し、常に見直すことが必要です。それくらい自分以外の人間に業務手順の構築を任せると、無駄が生まれやすいです。

前述しましたが、業務の再編成は以下の4つに分類されます。

A. 有資格者がすべきこと
B. 機械がすべきこと
C. 機械では代替できないもの
D. 本当に必要か見直した方がよいもの

医師の業務(臨床)であれば、院長先生は容易に下記のようにイメージがつくと思います。

医師の業務(臨床編)


では、皆さんは看護師さんや事務さんの業務については棚卸しできるでしょうか?

スタッフは「人をもっと増やしてほしい」と声をあげます。
本当に業務過多になっていることはあるでしょう。ただ、増やした人材はなかなか減らすことはできませんし、昨今では新たに人を雇うのも困難になってきています。

人件費が増えれば利益が減ります。
利益が減ればボーナスも減ります。
いまいるメンバーでなるべく業務をこなし、利益を上げることが回り回ってボーナスを増やす近道なのです。

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この業務の棚卸しを丁寧にして、何のために人を増やすのか、それにより空いた手を何に費やすのかを院長先生は示さねばなりません。

人が増えればそれは楽でしょう。
ただ、その先にスタッフはどんなことに時間を割きたいと思っているのかを把握せねばなりません。


以上から、業務の棚卸しと切り分けは院長先生が考えた方が良いです。
なぜなら、クリニックのAs-Is(現状の問題点)とTo-Be(目指すべき理想像)は院長先生の頭の中にしかありません。

人件費というコストは、院長先生の理念とそれをきれいに反映させたオペレーション構築により最も効能を発揮するのです。

3.何のために業務を代替させるのか  -DXの裏を考える-


業務の棚卸しの中でDX化(Digital Transformation)が今は注目されていますが、それでもまだまだ医療の現場では、人がやるべきことが多いです。

DXといえば、機械やシステムに任せることを目指しますが、「機械にさせる」=「人がやらねばならない業務を削る」は、「人の手が入るべき仕事をデザインする」とセットで考えなければならなりません。

「機械にさせる仕事を仕分けする」は「その分、手が空いた人間がすべき仕事を創造する」こととセットということです。

例えば「看護師から主任への確認事項が多くて仕事が進まない」があるとします。これをリアルタイムでの声かけではなく、メールフォームやLINEのような電子でのやり取りにし、優先順位をAIがソートし、対応の骨子を考えてくれるようなシステムを構築したとします。

その結果、最初はタイムラグがあったりAIの対応に慣れないこともあるでしょうが、上手く回ってきたとしてもスタッフには「やはり主任と直接確認したいのに対応してくれない」「主任が冷たい」とユーザーが感じるという新たな問題が生まれることがあります。

しかし、主任は個別の対応に自分の時間を奪われることがなくなった分、非常勤や事務スタッフのいる場所にもこまめに足を運び、報告すら十分にできていない部分に声をかけることができるでしょう。受動的→能動的なコミュニケーションへと形態が変化していますね。

このように機械化できることで生まれるメリットにばかり目を向けず、いまの雑務により省かれていた業務を掘り起こすことも必要です。

もちろん「細やかに一例ずつ主任が対応する」は個別で人間がすべきコミュニケーションの一形態なわけで、それはそれでも良いかもしれません。

まとめると、「機械化したらコミュニケーション減ったよね」というのは小さなPDCAだったわけです。その場合は、やはり「主任が一例ずつ対応すること」を人間がすべき仕事と定義して他の業務を自動化する方へと舵を切ります。

4.業務の切り分けはスタッフを巻き込む

偉そうに業務の棚卸しについて書いてきましたが、院長はすべての業務をつぶさに把握しているわけではありません。

Google カレンダーをわざわざ印刷していたり、電子カルテがあるのに付箋をメモにして渡してきたりと、現場の業務は横で見ているといろいろなことが起きています。

院長先生はもし他の医師に外来を任せられる日があれば一度、受付や看護師の業務をじっくり横で見てみましょう。

院長先生の知らないマイナなルールが跋扈していたり、現場第一の局所最適とミスの回避を目指した業務編成は、ときに非効率なオペレーションへと変貌していることが多いです。それらの源泉はすべてクリニックの人件費です。

それを一つ一つ修正するのは……本当に大変です。

本当はこれやりたい


院長先生は、業務の切り分けをする時には現場から吸い上げましょう。まずは徹底したインタビューです。

その上で優先順位を決め、利害関係を整理し、皆の問題を解決できるアイディアをひねり出します。そこで出たアイディアの中で、お金がかかる部分は院長が吟味し採用に足れば解決に繋げましょう。

また、その過程で「それ、もうやめちゃっていいんじゃない?(^ ^)」と院長先生から提案できればスタッフは大喜び……かと思えば、意外とそうではありません。

「今まで一生懸命やってきたのにもう必要ないなんてヒドイ!!」となって一気に悪役になることもあります。良かれと思っても、気を付けて発言しましょう。

これで楽になれば……と思って言った一言にどんな火が付くかは分かりません。いまの業務の大変さを労いつつ、そこにミスなく時間をコミットしてきた職員へ感謝を述べながら、丁寧に業務を整理していきましょう。

おわり

もう一度言いますが、「これはダブルチェックしよう」「健康診断の結果はA4でコピーしましょう」「まず付箋に書いて、後でまとめてExcelに入力しよう」など、現場ではミスを起こさないためのルールが無限に生まれます。

職員の仕事を減らせるのは院長だけです。
特にレアケースのトラブルへのリスクヘッジのために、手順を増やし、結果として現場が大量のリソースを投下してしまうのはよく見る光景です。

すべてそれは院長先生の人件費が溶けているのです。「もっと人を増やしてください」と言われたら一度立ち止まって、現場の業務を見直してみる時間を持ってみましょう。

ここまでお読みいただいてありがとうございます😊先輩開業医の先生方や、開業志望の方、同じように雇われ院長をしている方は、見えている光景も自分とは違うかもしれませんが、あたたかく見守っていただけると幸いです🙏

あなたのクリニックが、ウハクリかつ人事労務で無問題になりますように
🍀

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