見出し画像

#1 都心開業編(患者層・競合・雇用)

こんにちは。Soul-inです。
自分は東京のドがつく都心の内科クリニックで雇われ院長(勤務医)をしています。早いもので34歳で院長になりもう5年が経ちました。

いままでnoteでは婚活、DXを話題にしてきましたが、ここらで本業である開業医事情について語りたいと思います。

このnoteを書こうと思った理由は、以下の3点です。

①30年目の開業医の姿を発信できる
当院は開院30年目で、自分は2代目の院長です。基本的なスペック(集患、レセプト、検査オペレーション、スタッフ配置)が一周して整っており、一言で言うとうまくできています。これも先代院長のおかげです。

もちろん全てが思い通りではなく、先代院長と考え方も違うところもあります。ただ30年目の先生が発信をすることはないので、長年続く開業医生活を共有できると思います。

②開業医はどんな悩みを持ち, 解決していくか
院長が集まると皆それぞれ悩みがありますが、悩みの質も解決策も一様ではありません。それは院長、スタッフ、クリニックのすべてのスペックが異なるからです。

Xでは140字のため抽象化されていますが、その悩みの色は様々です。

これから開業しようか悩んでる先生は、ゼロイチの挑戦なので自分から何か参考になることは話せないかもしれませんが、「開業するとこういう生活が待っているよ」はそこそこ解像度高くお伝えできると思います。

③非医師のオーナーによる経営
自分は起業家のオーナーに雇われて仕事をしています。いわゆる非医師による経営です。自分で言うのもなんですが関係性は良く、将来的に承継を見越して医療も経営も非常に勉強になる参加の仕方をさせてもらっています。

これは昨今警鐘が鳴らされていますが、雇われ院長問題に対する一つの答えになるのではと感じています。

いまのクリニックの経営が上手く言っているのは、決して自分の力ではないですが、自分が楽しく院長をさせてもらえているのも、オーナーの経営の上手な点なのだと感じています。では「経営が上手」とは何なのかを、少しずつ言語化できればと思います。


一般的な開業の話を語る本はたくさんありますので、自分なりに当院の状況を俯瞰してまとめたいと思います。

これは開業医をしていなかった時の自分が知りたかったことを自分に向けて話す手紙のようなものです。

1.当院のスペック

Soul-inのスペック
・神奈川県出身 横浜在住 両親は非医師
・医師14年目 都内私立大学卒
・専門医:総合内科専門医、消化器病専門医、肝臓専門医
・産業医資格:あり
・強み:ジェネラリスト思考、勉強家、コミュ強
・弱み:内視鏡が好きでない、行政の書類を読めない

当院のスペック(承継予定)
・開院30年目 週5.5日営業(休:土PM・日・祝)
・JR駅直結 徒歩30秒
・内科(消化器)、人間ドック、訪問診療
・予約制なし。webで当日順番受付あり
・売上:保険診療6割、自由診療4割
・常勤医師3人、非常勤医師4人、スタッフ総勢25人
・事務長あり

先日こちらのポストが目に入りました。
結論から言うと全部その通りだと思います。ただもう少しだけ、解像度を上げてひも解いてみようと思います。

2.患者数・患者層

当院の最新のカルテ番号は120,000前後です。一日100-130人ほど訪れ、うち自由診療(健診、ワクチン)が約20人、新患率は9%です。

①どんな患者さんが来ているか

自分は少し郊外の開業したばかりのクリニックで立ち上げのお手伝いもしていますが、都心と郊外の違いは下記のように患者層に現れるなと思います。都心だと平日も若い人が多く、土曜日は受診者自体が少なくて当院は午前で50名ほどです。

都心は仕事中に抜け出してきたり、昼休みに受診したりという方もあり、ご高齢の方ばかりでなく、コミュニケーションは取りやすいと感じています。

これは自分(院長)の得意分野にも表れていて、自分は若い方相手の方がロジカルに説明ができ、くわえて産業医をしているためか「働いている人の力になりたい」と思う気持ちも強いため都心での診療は適性があると感じています。

②土曜日の違い

当院は消化器内科が主の診療科で、企業健診での集患を多くしています。当然ながら土曜日は出勤していないので、企業健診は少なめで、自治体の健診を受ける方が多いです。

郊外のクリニックだと、土曜日は逆に若い人で混み合っているイメージです。若い方は郊外に住む方も多いので、仕事の休める土曜日に受診するのでしょう。郊外では平日はご高齢の方ばかりです。

この違いは診療する疾患=検査や、それに付随する院内のスタッフオペレーションに違いが出ると思います。ご年配の患者さんの方が院内の移動も検査の説明も、予約を取るのも何かと時間がかかるものです。

3.競合

①家賃高すぎて死にそう

競合するクリニックは多いです。しかし、消化器内科の新規開業は自分が院長になってから5年経ちますがありません。糖尿病内科、眼科、ペインクリニックの開業は観測しました。

まず原因としては家賃が高すぎます。皆さんが思っているのの3倍は高いです(適当)

全国一律同じ診療報酬であれば、家賃があまりに高い所で開業するのは、固定費が高くなるぶん悪手なので、当たり前だと思います
(※ここで血を吐く)

②固定費が高いなら、自由診療をやればいいじゃない

「保険診療だけでやっていくのが無理ならば、自由診療をやっていけばよいのでは?」と思われるかもしれませんが、売上の柱と言えるほど自由診療を並行でやっていくのは、保険診療で生きてきた医師には難しいです。断言します。

自分は院長になろうと思ったときに、3か所から雇われ院長のお誘いをもらいました。千葉県船橋市、東京都23区外でしたが、「せやかて工藤、これからは自由診療やろ!」とノー天気な考えで最も都心のクリニックに就職しました。しかし経験のない自由診療のコンテンツを伸ばすのはただ事ではないです。これはまた別の機会に。

結論として家賃が高い都心では、やってみたら意外と競合は現れにくいかもしれません。ただし、保険診療での集患ならびに自由診療での売り上げをたてる算段が必要です。

③保険診療での診療コンテンツ

都心だから、と言うわけではありませんが駅チカの弊害として、標榜科以外の患者さんもやってきます。帯状疱疹、眠れない、耳が聞こえないなど、多様な患者層と言わざるを得ません。

その原因としては、当院が古くにできたクリニックのため、「🔵🔵クリニック」という名前で、診療科が入っていません。パッと見て何科かわかりにくく、一般内科を標榜していることもあり「腰が痛い」「皮疹がある」「耳が痛い」→「でもまず内科で診てほしい」がやってくるのです。

これは内科で解決すればラッキーだし、内科医は物知りだから病状と何科に行けばいいか説明してくれそうという需要があるのだと思います。

それぞれの専門科の先生方にとってはアグリーはできない診療事情だと思いますが、駅チカだとそういう立ち位置にならざるを得ないということです。

立地は大事と言いますが、それは便利だからです。駅から近ければ近いほど便利であることが求められます。もちろん診療を断っても良いですが、その余裕があるときとない時があるので、診ざるをえないこともあるということは知っておいた方が良いです。

4.雇用(スタッフ・医師)

まずスタッフに関しては、どこも同じで人手不足です。ただ、同法人内の埼玉の分院と比べるとまだ応募はある方だなと感じています。しかし医師の雇用とその他のスタッフ(Ns.・事務)の雇用はまた事情が異なります。

①医師雇用(非常勤)

まず非常勤をどのように配置しているかについてお話します。うちは内科の非常勤が3人います。

・元院長先生(消化器・外科)
・女医さん(膠原病内科)
・某大学元教授(循環器内科)

この三名は全員60歳以上ですが、自分が来る何年も前からクリニックで勤務していたので患者もついており、受診者も多いです。半日で30-40人は診療してくださります。

循環器内科の先生は週1回で予約診のみですが、健診の心電図の読影などお世話になっております。この3名とプラス整形外科の先生がいます。

当院の外来表

当院では院長と異なる診療科をコンテンツとして作りたいときに、非常勤医師を勤務の中で当て込んでいます。

たとえば、月曜日以外は必ず院長+女医さんとなる体制をつくっています。人間ドックや女性が大腸カメラを受ける時に女医さんの希望は一定数いるからです。

都心の非常勤雇用で良いことは、応募が多いことと、安価でも雇用が可能なことでしょうか。うちの内科非常勤は時給1万円(半日4万円)で依頼しており、自分は土曜日は出勤していません。

非常勤の先生が普段から出入りしていると、自分がコロナになったり、家族の冠婚葬祭などとっさの時に土曜日の午前だけお願いしたりできる(ことがある)のです。完全に院長ワンオペでいくよりもコストはかかりますが、助かることは多いです。

この辺は開業されている先生は皆さん実感されると思います。余裕のある時に非常勤医師は雇用してみて、院内オペレーションに慣れた方がいるようにしておくと良いかもしれませんね。

応募としてはやはり都心なので、お子さんのいる女医さんが多いです。常勤医師も同じような傾向なのですが、常勤採用は語りだすと止まらないので別の機会に。

②スタッフ(Ns・事務)

こちらは郊外に比べて雇用しやすいかと言えばそんなことはありません。給与ベースで考えれば、都心へ勤務していても住むのは郊外のことが多く、通勤に片道1時間以上かかっている方も多いです。

このように生活が負担になることは、募集にはかなりブレーキをかけてしまいます。雇用の際には、その方の日々の生活をイメージした方が良いです。

応募者のタイプ分類
①地方から上京、夫の転勤で引っ越してきて土地勘がない
②習い事があるなど、就労以外に都心に出る理由がある
③子育てもあり、実家の近くに住んでいる(クリニックが近い)
④結婚していて、収入に不安はない(技術を保つため)
⑤当院でスキルアップしたい

応募者を分類すると上記でマッチするケースが多いです。この中でなんだかんだ最も雇用が長く続くのは③です。

勤務先に求めるものの中には定数と変数があります。土曜勤務の有無、通勤時間、院長の診療科といった定数(変わらないもの)でマッチする方が、辞めづらいなと感じます。

意外にもたないのは①⑤です。すっぱり辞めるわけでもなく、辞めるときも何か月か悩まれていて、印象として自分軸がない方が多いです。

①はパートナーの事情によるので仕方ないですが、おそらく⑤スキルアップは社会人になると最も優先順位が高くなるわけではなくなるのだと思います。

家族のこともそうですし、年齢が上がるとやはり体力を保ち生活にリソースを割く方に頭と体が向いてきます。「スキルアップはしたい(でも思ったより大変なら辞める)」という方が多いのだと思います。


以上、今回は都心開業の患者層、競合、雇用の事情でした。
週2回ほどのペースでXで話題のポストや、クリニックで起こったトラブルについて共有していきたいと思います。

先輩開業医の先生方や、開業志望の方、同じように雇われ院長をしている方は、あたたかく見守っていただけると幸いです。
お付き合いのほど、よろしくお願いします。

いいなと思ったら応援しよう!