
#4 常勤医師の雇用
こんにちは。Soul-inです。
本noteはクリニック院長の頭の中を言語化するnoteです。
今回は常勤医師の雇用についての話です。
クリニックを新規開業すると、まずは院長一馬力で診療を開始し、集患が進むと他に医師を雇用することを考えることになると思います。
1.常勤医師を雇用するタイミング
まず、医師の複数診にする意味について整理します。
常勤医師を雇用するタイミング
①患者さんが多すぎて、待ち時間対策
②院長と同じコンテンツをしてもらう
③院長にないコンテンツを作る
④非常勤医師が多い場合にコスト削減
⑤後継者の育成
①患者が多すぎて、待ち時間対策
ウハクリの羨ましい悩みです。現実的に予約システムなどを用いていても1日に80人以上など診療していると、待ち時間が発生します。たとえテンポよく診療できていても、イレギュラーな病状の対応などで時間を取ることはあります。
それが回らなくなると初診お断りや、完全予約制などに移行せざるを得なくなります。初診率はクリニックの未来の成長率なので、そんな風に制限はしたくないところです。
そして内科は80人の受診風景は午前40人午後40人ではなく、午前60人午後20人です。ウハクリにとって待ち時間対策は日々向き合うべき課題なのです。
内視鏡クリニックでは、開業当初は院長が外来もして、手を止めて内視鏡やエコーもするといったスタートのことが多いですが、外来患者数が増えてくるとなかなか続きません。
エコーは臨床検査技師の雇用で代替できますが、内視鏡・外来のどちらかは複数医師にする方がベターです。そこでまた問題になるのは、外来を別の医師にもしてもらうことは可能ですが、「内視鏡だけ完全に別の医師にする」はなかなか難しいです。
健診クリニックならまだしも、消化器内科のクリニックであればやはり「外来も診てくれている院長先生にカメラをしてほしい」という需要は多いです。
気持ちは分かります。僕も10年同じ美容院で同じ美容師さんに切ってもらってますが、そこではカットしてくれるスタイリストの人がすごく美人シャンプーもブローもしてくれます。それと同じで同じ医師と少しでも長くコミュニケーションをとりたいと思うのは患者心かもしれませんね。
②院長と同じコンテンツをしてもらう
これができると、院長先生が休めます。
「土曜日くらいは休みたい」「木曜日は一日外来をせずに管理業務」といったことができます。まさに外来・検査に関しては自分のコピーを作るという意味合いです。
消化器内科の場合は、消化器内科2人体制が最強です。カメラもエコーもできる上に、腹痛診療もできるとなると自分がいなくても外来が回るわけです。
ただ、院長と同じコンテンツができても、院長と同じハートを持つ常勤医はいません。ちょっとした患者さんへの声かけ、きめ細やかなフォロー、念のためにと検査をひと手間加えるなど、やはりサービス精神は違うものです。圧倒的に違うのは売上です。院長以上に保険点数に敏感な医者は院内にいないでしょう。
これは院長が儲け主義に走っているというわけではなく、診療報酬と言うのは適切にコマンドを入力せねば点が発生しないスクリューパイルドライバーのような類のものが多く、そのコマンドを心得ているのはやはりレセプト業務を行う事務スタッフよりも病態をよく把握している院長なのです。
しかし、これは言い出すとキリがないものです。自分と同じ人間はいないのですから。しかし診療内容、診療報酬は、やはり院長にもなると気になるものです。
これに対する解決としては、自分と同じ教育環境の人間はやはり気が合うものです。同じ研修病院、同じ医局出身の医師はやはりやりやすいと思います。すでに関係ができている医師ならコミュニケーションコストも低いです。研修病院をはじめ、医局の先輩後輩は大切にしましょう。
③院長にないコンテンツを作る
当院の場合は、わかりやすく女医さんです。やはり一定数「女医さん希望」という患者さんはいます。特に大腸カメラは女性が受ける場合は女医さんがいると明らかに検査へのハードルは低くなります。
また、当院では自分が消化器内科の中でも肝胆膵疾患の専門なので、肝機能障害、脂肪肝、生活習慣病といった内科っぽい分野を主に見ています。逆に自分はあまり内視鏡にあまり熱意がないので、内視鏡が好きな医師が入るともっと内視鏡検査が入ると思います。
そういった自分がやりたくないこと・苦手なことを代わりにしてもらうというのも相性が良い常勤医の雇用の仕方です。
内科×整形外科、内科×小児科、内科×訪問診療など良い組み合わせは色々あります。しかし、問題はいつも二人同時にいるわけではないので、ある程度お互いがお互いをフォローできる科の方が完全分業にならなくてよいと思います。
やはり最終的には院長が責任を持つため、たとえ自分ができないコンテンツでもきちんと把握し、かつ「お互い助け合う」という相補的な関係が長く一緒に働くには必要だと感じています。
④非常勤医師が多い場合にコスト削減
単純に給料だけで比べると社会保険料があるので、比較は難しいですが、コストとは人件費だけではありません。
医師の雇用で最も大変なのはコミュニケーション管理コストです。
医師の管理コスト
・休みたい日を相談して合意形成する
・医師が休みを取るときに変わりの医師を探す
・診療内容についてフィードバックする
・患者さんからのクレームに院長が対応する
・スタッフからのクレームに院長が対応する
・経営方針を理解してもらい、従ってもらう
非常勤医師が複数いれば、上記のことを複数医師にやらねばなりません。
たとえば、火曜日に来ている医師の処方や検査について問い合わせがあっても、他の曜日では院長が対応するしかありません。オーダーした採血結果も、パニック値が出ていても院長が対応します。
こういったものも毎日いる常勤医なら「先生、昨日の先生が出した検査で異常値が出ているので患者さんに連絡してもらえますか?」と分担できます。
それに、診療の姿勢というものは非常勤と常勤ではやはり違うものです。もちろん非常勤でもきっちりと診療してくれる人はいます。でも一定数「自分のいない時に誰かに対応してもらえばいいや」という対応の不十分な医師はいます。
診療への責任感も常勤医の方が自然と強くなると思います。そうなると院長先生が診療内容についてフィードバックするコストが下がります。
人件費との兼ね合いですが、ちゃんとした常勤医がいるに越したことはないのです。
⑤後継者の育成
これはいつか自分が診療から引退するときのためです。承継含めて、院長との併走期間は長い方が患者さんもスタッフへもショックは小さいので早め早めが良いです。
院長先生が必要とする職能を持ち合わせているか、人格的に良い方かなど、クリニックにより求める資質は違うと思います。
承継を考えるタイミング
・院長先生が高齢
・院長先生が現場での仕事を引退したい
・競合も多く、クリニック全体のリメイクが必要
・コロナ、診療報酬改定のような外部環境の変化についていくのが難しい
・モームリ
世代交代してでも続けたいか、潰してしまうかは院長先生次第です。院長が変わると、不思議なもので全然違うクリニックになります。それは患者さんも気づくものです。ただし、他のクリニックを見ていると現院長の引き際というものは様々でこれが揉める一端となっていることも多いです。
自分は承継予定でいまのクリニックに院長職で入りました。経営やマネジメントは委譲すると、新たな体制も次第に整ってくるものですね。ついてこれない方は入れ替わることもありました。
柔軟性のある若いスタッフを入れれば、空気も変わり、今までやっていた当たり前に疑問を持つことも増え、業務改善につながります。しかも年齢給も下がります。新たな院長の色を出すためには世代交代は必須なので、それを現クリニックが受け入れなければなりませんね。
2.常勤医師はどんな医師が良いか
ぼくがかんがえるさいきょうの常勤医師
・専門医持ちで院長と同等の診療能力を持つ
・外来を丁寧に行える
・クリニックの診療方針に合わせてくれる
・スタッフと仲良くやれる
・「クリニックのために」を考えて仕事をしてくれる
=部分最適でなく、全体最適を考えてくれる
・診療以外の業務も分担してくれる
・診療体制の変更に柔軟に対応してくれる
上記のようなことは言い出せばキリがないので、実際に雇用した時に起こる実務的な問題点から考える「良い常勤医」のポイントを生々しく述べたいと思います。
①コミュニケーションコストが低い
これにつきます。
特に入職当初は院内のマイナーなルールへアジャストできず、様々なところで交通事故が起きます。スタッフも院長以外の医師になじめず、苦情は院長へ集中します。
これをひとつひとつ院長からフィードバックするのは大変です。スタッフからの一言でも耳を傾けて真摯に対応してくれる社会性が必要です。
「外来が上手にやっていけるから、自分はコミュ力が高い」と思っている医師は多いです。自分もそうでした。
・事務が電話対応で困らないように、カルテに丁寧に患者さんとのやりとりを書く
・看護師さんが間違えないようにオーダーの変更を細かく声をかける
・自分の患者さんを他の医師が診療することもあるかもしれないから、あらかじめ相談と引き継ぎをする
・高齢独居の患者さんのご家族へケアマネを紹介し、病状共有とカルテ記載をする
これらはすべて自分とは利害関係が異なる方のためにギブする行為です。
医師は自分を守ることは得意です。ガイドラインを遵守すれば良いのですから。しかし、仕事における本当のコミュニケーション力が高いとは、自分と利害が異なる方でも同じ職場のメンバーなのだからと共闘できるきめ細やかな気遣いと理解し合おうとする前向きな姿勢があることです。
この点を院長先生とすら共有できない医師はかなり厳しいです。なぜなら医師を動かすのは、本来スタッフだからです。クリニックが拡大した時に必要なのは、院長がすべてを動かすことではなく、院長先生の思考と想いを理解したスタッフと習熟した仕組みが他の医師を動かし、医師をクリニックの歯車としての大きさを相対的に小さくすることです。
医療とは自分一人でしているわけではなく、多職種と共に行うものです。そうして患者さんをとりまく医療のつながりに思いを馳せられる姿勢が必要です。
②院長と勤務体制を分担できる
たとえば勤務日程です。非常勤医師は医局に属している方などが多いので土曜日に働いてくれる方も多いですが、常勤医は土曜日休みたい方も多いです。

ここで大事な話をします。
常勤には有給が発生します。いや非常勤にもあるのですが、日数は全然違います。
有給休暇の件で補足
— あらきん 👩🏻💻弁護士 (@arakin_1019) January 5, 2022
勤務医の先生は、圧倒的に3月末退職が多いので、退職時に有給休暇を消化しようとすると希望が重なって難色を示されるかもしれません🙏
強行突破して有給消化するか有給消化の一部を諦めるか悩ましい事態になると思います😵💫 pic.twitter.com/ykm5kNH6DH
何を当たり前なことをと思うかもしれませんが、「休みたい」と言われたら休ませねばならないということです。
そしてその日程は基本的に希望を呑まざるをえません。あえて対策するなら、「2ヶ月前までに申請すること」とか院内ルールを作るくらいです。

非常勤の場合はあらかじめ、「ここで来てもらえませんか?」と院長が声をかけることになります。医師の場合は定期非常勤が多いと思いますので、こういったやりとりは少ないと思いますが、パートの看護師さんなどはこの手のやり取りは多いです。
もちろん非常勤スタッフは「今日子供が熱が出たので休みます」などのことがあるので、突然休みになるリスクがないわけではありません。ただそれは常勤でも変わりません。
何が言いたいかと言うと、院長先生のペースで先手が取れるのはどちらかと言うことでした。ここは人によると思いますし、院内ルールでカバーできると思います。
・「ここで休んでもいいですか?」と思いもよらぬタイミングで言われるのが常勤
・「ここは来てもらっていいですか?」と院長のペースで言えるのが非常勤
3.常勤医師との付き合い方

①小さなことは気にしない
大前提として、自分と同じ人間はいません。院長が2人いれば良いですが、そんなことはできません。
常勤医の診療に対して、どうしても気になることが出てきてしまう時の対策ですが、それは気にしないことです(Σえぇっ)
患者さんからクレームが入ったり口コミに悪く書かれてしまうなどは対応すべき案件ですが、あくまで自分が採用した人間がしたことなのだからと思ってぐっとこらえてその先生を立てることです。
くわえて何か月か経つとスタッフも外来の患者さんもその先生に慣れてきます。春夏秋冬が過ぎるまでは、よほど角が立たなければ良いというくらいで見守る胆力も必要です。
もちろんクレームが入った場合は、注意を促すチャンスでもあります。ただ、たまたま患者さんと相性が悪かっただけのこともあります。院長が対応していても同じようにクレームが入っていたかもしれません。
マインドセットとして「クリニックのために」と思って診療する先生は少ないです。院長ほど強い思いで診療している人はいません。多くの人は自分のために仕事をしている人が多いです。その人にクリニックのために働いてもらうためには、やはりその先生が「ここが自分の居場所なんだ」と思ってもらうことです。そのためにはやはり時間が必要です。
転職してきた医師はまた転職するかもしれません。採用フィーは年収の20-30%と高額なので、それを無駄にしないためにも、長く一緒にやっていける道を模索した方がお互いのためだと自分は考えます。
②院長は常勤医の味方になる
新しいスタッフが入ると、まずあれこれと問題が起こります。細かい院内ルールにアジャストさせなければならないからです。大体はスタッフから「〇〇先生が△△してくれなくて困ってます」というようなフレーズで院長の耳に入ってきます。
その根幹には、医師がその院内ルールを知らないこと、そもそも誰も教えてなかったりすることがあります。
ですが、転職したばかりの医師は色々とストレスも多いものです。
転職後の医師のストレス
・通勤が変わる、生活のリズムが変わる
・新しいスタッフと仕事をする
・新しい患者さんの診療をする
・自分のしたい診療ができなかったりする
・職場に友人や気安い仲間もいない
上記のストレスにまずは気を回した方が良いです。
そももそも転職してクリニックへ来た理由として、子供のことや介護など本人のストレスが増えたための可能性もあります。だから、新たなストレスを院長先生が増やすのは良くありません。
クリニックにいる時間だけではなく、クリニック以外の時間も思いを馳せてるとその人を見る目も変わってきます。常勤の先生に気持ちよく働いてもらうためにも、まずは普段からパフォーマンスが上がるような働き方をデザインするしかないと思います。院長にしかそれはできないと思います。
だから自分はやはり味方になること、そして仲良くなること、常勤医が力を発揮しやすい環境を整えることを目指しています。
③クリニックへのロイヤリティを高める
クリニックの中で常勤なのは院長先生と常勤医だけです。自分がいない時に助けてもらうこともあるでしょう。「そんなことないわ!」と思うような常勤医もいますが、それでもいるだけでもありがたいと言う時はあります。
その先生が働きやすいようになるべく変えられるところは変えていく姿勢も必要です。時にはそのために新たにコメディカルを雇わねばならないこともあるかもしれません。
少ない常勤医同士です。一緒にやっていくためにお互い建設的に話し合うという姿勢があれば、常勤医の先生も「やりやすいクリニックだな」と思ってくれるかもしれません。常勤の先生が何年いてくれるかは分かりません。辞めると言われれば仲介会社に払った採用フィーは無駄になり、新たに採用コストがかかります。
なるべく長く時間を共に過ごし、一緒に悩みながら診療することも含めて、自分が責任を持って診療していくうちに「先生に会いに来たよ」と言ってくれる患者さんが増えれば、クリニックへのロイヤリティ(忠誠心)は自然と上がってきます。院長先生がクレーマーから守ってあげるなんてこともあればより良いきっかけになるでしょう。
そこまでクリニック(院長)への信頼感と安心感を高めてから、常勤医には色々求める方がベターだと自分は思っています。
ここまでお読みいただいてありがとうございます😊先輩開業医の先生方や、開業志望の方、同じように雇われ院長をしている方は、見えている光景も自分とは違うかもしれませんが、あたたかく見守っていただけると幸いです🙏
あなたのクリニックが、ウハクリかつ人事労務で無問題になりますように🍀