不純

私のことが好きな人がいた。その人と話す時はいつも笑って、素直で純粋で鈍感な人だった。

初めの彼は、私に興味があるからか色々質問してくれて聞いてくれた。出会い系サイトで出会ったこともあり、彼は私を知るために探るように訊いていた。訊かれる内容は私も訊いてほしい内容だったのでベラベラ喋っていた。

ある時、彼が会いたいと言ってきた。正直、私は会う気力がなかった。別に彼のことは好きでも何でなかったし、恋愛する気もないし、会う理由なんて見つからなかった。私の暗黙のルールとして、出会い系で会った人は初回のみ顔を合わせるというのがあった。

とりあえず会ってみて良かったら考えてみようと思ったけど、こんなもんかって感じだった。ドライブに誘われたから行ったが、話す気になれず盛り上がらなかった（それはたしかに気分屋な私が悪いけど）。あまりにも話す内容がなかったのか、彼が痺れを切らして自分の過去を話し始めた。すごく重いもので、それに耐えきれず涙が出てきてしまったけど、彼は自分を受け止めてくれたんだと勘違いをしていた。そんな辛い過去を話し終えた彼は温もりを求めて私の手を握り始めた。私からしたら一方的に握られた感じだったので、あー何してるんだろ、と賢者タイムが訪れていた。さらには欲しがりな彼は｢手を握って｣と要求してきた。あー、ヤバいなぁと思いながら振り切れず少し手を握った。ギアを引くときも握っている反対側の手で引いた。そこまでしてでも私と手を握っていたんだと私は気を引いてしまった。

彼が家に返ったらまた電話していいかと訊かれた。まぁ、そりゃあほとんど話してないようなもんだし、そんなるわなぁと思って承諾をし、ちゃんと電話を引き継いだ。｢さっき会ったばかりなのにまた氏子さんに会いたいです｣なんて言われてしまって困ったが、私ははっきりと断った。なんだかんだ朝まで話してご満悦したらしいので切ったのだが、その時に彼はいじられた快感が忘れられず開拓してしまったらしかった。

その後に電話を掛けてこられて｢氏子さんにいじめられたいです｣と恐ろしいことを言い出した。前に｢敬語やめて欲しいな｣とも言っていたので、それを踏まえて、｢じゃあ、しません｣とだけ答えておいた。そうすると、｢えぇ……なんで……どうしてそういうこと言うんですか……？｣と本当に寂しそうに言った。私より歳上なはずなのに歳下に思えた。あの感じが忘れられなかった。実際のところ私だっていじっていたことに快感を得ていた。そう、私は彼をいじめたくなっていた。あの寂しく自分を求める感じがたまらなくなってしまった。本当に純粋なのだ。その純粋さを汚したくなる感じと言ったらいいのだろうか。ものすごく彼を傷つけたい、という汚い感情に気づいてしまった。彼が私の言ったことに対して傷ついていたことがあった。青菜に塩をふりかけたような、弱く下手したら消えてしまいそうだった。

その不純な思いをどう消化したらいいのか悩んでいる。まぁ、彼が喜ぶのであればwin-winでいいかなとも思い始めてきた。末期である。しかも、私はその彼とは別に特別な関係になりたいとも微塵も思っていないのが問題で困っている。彼の気持ちを利用していいのだろうか。おそらくこの問題は時間が解決してくれるだろう。