page 11 moon voice
it's story of the Miss 梛木 心羽
・
「もしもし
「ぁ、もしもし」
・
「えっと、こんばんは
改めて…神島蓮といいます」
胸が痛い程ドキドキと音を立てて
携帯を握る手に力が入ってしまう
「夜分の時間帯にかけちゃってるけど
今って時間大丈夫?」
低い声が優しく耳をくすぐる。
一瞬ふっと笑った声に胸の奥がキュッと
締め付けられて、思わず目を閉じた。
「こちらこそ
いつも私のブログに目を通して下さって
ありがとうございます」
・
早口に伝える言葉がどうしてこんなに
震えてしまうのか自分でもよく分からない
心の準備が出来ていないから?
耳元の声にドキンとしたから?
会話が止まったらと思うと
焦ってしまうから?
・
「今、ブログの投稿を終えて
一息ついていた所なので大丈夫ですよ」
「そっか。
良かった。
こちらこそいつも画像に癒されていて
嬉しいっていうか、
楽しみに覗かせてもらってます」
甘くて低い声って、
こういう声の人の事を指すんだろうな
よく聞こえるように
ぴったり耳に着ける携帯から聞こえる
優しい声
・
「今夜さ、月がすげー綺麗で…
そっちからも見える?」
「あ、これってもしかして
満月?」
・
ブラインドから漏れる
明るい光の正体を辿って
視線を上に向ける。
丸く柔らかな光が意外と眩しくて
一瞬目を閉じた。
・
「そうだね
満月なのかな」
「本当に明るい光…」
強く輝く柔らかな黄金の月
白く薄く透けるような雲が
月の周りを飾っている
・・・
「夏目漱石がさ・・・」
一瞬の沈黙の後、
彼は呟いた
「 え? 」
「“I love you”を
“月が綺麗ですね”って訳したかもしれない
って話、知ってる?」
〈11〉