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いろいろな喩 48連


はじめに

 修辞法(レトリック)は、ことばを豊かに使うための表現技法である。たとえば倒置法とか、反語とか、押韻とか……そしてこの記事の主役、比喩(譬喩)とかが含まれている。比喩には、直喩や暗喩、諷喩や提喩などのいろいろな喩が知られている。

 というわけでこの記事では、そういう最後が「喩」で終わる単語を「世界から48個抜粋」というかたちで見ていくことにする。なお、それらが本当に比喩の一種であるかはまた別の問題であり、比喩に関連するがそれ自体は比喩でないことばなども含まれている。が、阿喩(鮎のこと)みたいな、ただ喩で終わるだけのものは載せない。あくまで比喩とそのまわりにある喩のことば。

①②直喩、明喩(simile)

 直喩、或いは明喩比喩指標(「たとえば」「〜のような」などの言葉)を用いるなどして、比喩であることを明確にしてもののあいだの類似点を強調する表現技法である。

 英語だとsimile。これはラテン語のsimilis「似ている」に由来していて、similarとかsimulateとか simultaneouslyとかと同根。

「行手には、どこまでもどこまでも果しのない白い大道が続いていた。陽炎が、立並ぶ電柱を海草の様に揺すっていた。」

 江戸川乱歩『白昼夢』

 あとこれは恐らくマイナーだが、直喩の「雪のような肌」に対して、「雪のように白い肌」のように、より詳細な説明を添えたものを特に「明喩」として使い分けることもあるらしい。基本的には完全に同じ意味。

③反直喩(dissimile)

 逆に、「〇〇じゃあるまいし」などのように、相違点を強調するようなものは「反直喩」とよぶ。

「その頃はまだ三十になるやならずの元気一杯の奴が、青い瞳をしたセルロイドじゃあるめえし、言葉も通じなけあ西も東もわからねえ人間の山奥みてえな亜米利加三界へ連れて来られて、」

夢野久作『人間腸詰』

④⑤隠喩・暗喩(metaphor)

 隠喩、あるいは暗喩比喩指標を用いずにものの間の類似点を利用する表現技法。英語のメタファーに対応。”metaphor”はギリシャ語の”metapherein”「転移させる」に由来する。

「東京で蒼白い神経の枯木と化していた私はゆくりなくこの出来事をきいて、思わず卒倒してしまうほど感激した。」

坂口安吾『村のひと騒ぎ』

 「蒼白い神経の枯木と化していた私」のところがそう。ここで「私」は実際に枯れた木へ変化していたわけではない。あくまで生気のない状態のたとえ。

⑥死喩(dead metaphor)

 比喩由来の単語でそれが隠喩であることが意識されないくらい一般的になった隠喩のことを、「死喩」とか「慣習的メタファー」とよぶ。

 「月見そば」「猫舌」などが例。前者は蕎麦に浮かぶ生卵を夜空に浮かぶ月に喩えたもの。後者は猫のように熱いものが食べられない舌、あるいはそれをもつひとのこと。人びとは、マジでこいつまるで猫のような舌をもった状態にあるじゃんなどと毎回思いながら「猫舌」といっているわけではない。はず。

いらすとや『月見そば』

⑦⑧諷喩・寓喩(allegory)

 諷喩あるいは寓喩「喩えだけを提示して隠れた意味や概念を暗示する」比喩。英語のアレゴリーに対応する。

 「朱に交われば赤くなる」に於いて「朱」が(特に悪い)友人を喩え、「赤くなる」が影響を受けることを喩えている、みたいなもの。イメージとしては「シンボル」みたいなものに近い。他にも「覆水盆に返らず」(覆水が起きた出来事、盆水が元の状態)のように、諺や慣用句の事例が多い。

 諷喩あるいは寓喩には物語全体で隠れた意味を暗示しているというものもある:『うさぎとかめ』で「思い上がるとよくない・着実な進捗が大事」みたいなこと。

 このような、「物語などの全体での諷喩」を特に寓喩とよぶ使い分けもあるし、「諷喩のうち特に短いほう」を寓喩とよぶ使い分けもある(島村滝太郎『新美辞学』)。基本的には諷喩と同じ意味だが、寓喩の方は用法にややブレがあるみたい。まあ珍しいことでもない。

⑨換喩(metonymy)

 換喩は、言及したいものをそれに関連した事柄で置き換える表現技法。

 関連したものごとというのは結構幅が広く、人物を特徴で置き換える例では「赤ずきん」とか「白バイ」とかがある。これらの単語が頭巾とかバイク自体について言及しているわけではない場合、換喩になる。

 時系列で置き換えるものなら「お手洗い」でトイレだとかもそう。

 「ホワイトハウス」でアメリカ政府と大統領邸を指すとかも特徴で置き換える例で、「霞ヶ関」で日本の省庁を指すとかは地名で置き換える例。

 ところで、韓国の大統領府(青瓦台)(が以前置かれていた市民公園)はブルーハウス、アルゼンチンの大統領官邸(カサ・ロサダ)はピンクハウスと言ったりもする。これも見た目の特徴に由来する渾名。(後者は「Casa Rosada」自体が「ピンクの家」だから半分本名みたいなもの。だけど、よく考えたらホワイトハウスも本名みたいなものではある。本名が換喩的なことには変わりない。)

青瓦台(청와대)
Korea.net / Korean Culture and Information Service (JEON HAN)
カサ・ロサダ(La Casa Rosada)
Lars Curfs (Grashoofd)による撮影

⑩提喩(synecdoche)

 提喩は換喩の一種で、互いに包含し合うもので片方がもう片方を代表する表現技法。換喩の一種ともいえる。(換喩は種類、提喩は量的な関係として別々に使い分けることもある。)

 「ご飯を食べる」と言ったときの「ご飯」が食べ物全般を指している、だとかがそう。

 逆の包含関係のものでいうと、「古文で『花』といったら、奈良時代までは『梅』をさし、以降はだいたい『桜』」みたいなのも提喩

 もちろん提喩に限らないが、いまあげたような有名なものなどになると、「ご飯」自体に「食べ物全般」の語義がついちゃったりする。つまり、死喩てきな例が多い。

 英語で、the bookと言ったときに聖書を指す、とかもやっていることは提喩に似ている。あとは、ニューヨークでthe Cityというとマンハッタンを指すらしいが、これもそんな感じ。

⑪転喩(metalepsis)

 転喩は、既に知られている比喩などに関連したことばを新しい文章で比喩的に使う技法

 「こんな時に牡丹餅が降ってくるとは思わなかった」という文章があったとして、この牡丹餅が意味しているのは既知のたとえ「棚から牡丹餅」を踏まえた「思いがけない幸運」のこと。こういうのが転喩

 より狭義には、あることばを時間的な前後関係にある別のことばで置き換える技法のこともさす。つまり、「換喩のうち時系列で置き換えるもの」、換喩のところで挙げた「お手洗い」でトイレだとか、他には「ユニフォームを脱ぐ」で引退だとかがその例になる。

⑫濫喩(catachresis)

 濫喩は、まだ名称をもたないものごとに対して、他の既存のものごとから名前を借りてつかう表現

 最も有名な例が、「机や椅子の地面に接触している棒状の支柱部分」のことを「脚」とよぶもの。ハンバーガーメニューとかもそんな感じかも。なお、noteが採用しているのはミートボールメニュー。

⑬混喩(mixed metaphor)

 混喩(混合比喩)は、不調和な複数の比喩を一つの文にまぜこんで、複雑な、滑稽な、狂ったような、あるいは曖昧な、などの雰囲気を演出する技法

「A breeze blew through the room, blew curtains in at one end and out the other like pale flags, twisting them up toward the frosted wedding cake of the ceiling—and then rippled over the wine-colored rug, making a shadow on it as wind does on the sea.」

F. Scott Fitzgerald『The Great Gatsby』

 訳すなら、「部屋に割り入るそよ風は、カーテンを端から端まで、色褪せた旗みたいに靡かせて、そのまま吹き抜けていった。カーテンは、まるで飾られたウェディングケーキのような天井に向かって捻り上げられていき、絨毯に影を落とした。そうして、海が風に吹かれるように、さざなみが絨毯の上を駆け抜けていった。」みたいな感じか。

 上の例では、カーテンを旗、天井をウエディングケーキ、絨毯にできた影の波や影を風が海につくる波や影に喩えているが、それぞれの結びつきの親和性は高くない。

⑭活喩(prosopopoeia)

 活喩いわゆる擬人法のこと

⑮引喩(allusion)

 『いん-ゆ【引喩】比喩法の一。故事・ことわざや人の言葉をたとえに引用して、言いたいことを間接的に表現する方法。「四十にして惑わず、と論語でいう通り・・・」の類。引喩法。アリュージョン。』と『大辞泉 第二版』小学館 2012.でいわれているように、引喩はそういう表現技法。
 和歌でいう本歌取りとかもそんな感じ。

三輪山を しかも隠すか 春霞
 人に知られぬ 花や咲くらむ」

『古今和歌集』(紀貫之)

 上の句は下の句の本歌取りをしている。

三輪山を しかも隠すか 雲だにも
 心あらなも かくさふべしや」

『万葉集』(額田王)

⑯張喩(hyperbole)

 張喩は、事実を極端に誇張する表現技法。誇張法ともいう。諺でいえば「怒髪天を衝く」とかがそう(人間はマジギレしても髪で天を衝いたりはしない)。流石に言いすぎ。「傾国の美女」も故事成語だが、現代で使うなら張喩てきな側面はあるはず。

「路行く人を押しのけ、跳ねとばし、メロスは黒い風のように走った。野原で酒宴の、その宴席のまっただ中を駈け抜け、酒宴の人たちを仰天させ、犬を蹴とばし、小川を飛び越え、少しずつ沈んでゆく太陽の、十倍も早く走った。」

太宰治『走れメロス』

 『走れメロス』の、「少しずつ沈んでいく太陽の、十倍も早く走った」とかもそう。メロスが実際にマッハ10以上の速度で走ったわけではない。はず。

⑰声喩(onomatopeia)

 声喩は、いわゆるオノマトペ:ザーザーとか、ぬるぬるとか、かぷかぷとか、どんぶらこどんぶらことかのこと声喩は、音声的な擬音語と状態的な擬態語(擬容語)のどちらも含む。

「見わたすと、その檸檬の色彩はガチャガチャした色の階調をひっそりと紡錘形の身体の中へ吸収してしまって、カーンと冴えかえっていた。」

梶井基次郎『檸檬』

⑱音喩(sound symbolism)

 音喩は、いわゆるオノマトペ(声喩)を、文字として漫画に描くこと。あるいはそうして描かれたもの。夏目房之介が『マンガの力-成熟する戦後マンガ』で造語したのが始まりとされている。

 また、音喩には別の用法もある。→㉓音喩

⑲形喩

 形喩は、いわゆる漫符のこと。漫画等において額の汗を「し」みたいな形にしたり、怒りを💢にしたりする表現がその一種。ふきだしや集中線もそう。ふつうは漫符とよぶが、夏目房之介が『マンガはなぜ面白いのか その表現と文法』日本放送出版協会〈NHKライブラリー〉で造語したのが形喩よびの始まりとされている。

まじっすかの図

⑳字喩

 字喩は、文字のかたちなどを利用したことば遊び。単語でいえば喜寿や米寿、卒寿などがそう。「辛い」と「幸せ」とか、「忙しい」を「心を亡くす」みたいなのもそう。「大の字に〜」とか「人という字は〜」とかもそう。いろは唄とかもそうだし、回文も字喩てき。広い。字装法ともいう。

子子子子子子 子子子子子子
(ねこのここねこ ししのここじし)

『宇治拾遺物語集』(嵯峨天皇)

よ、僕らの使ふ文字では、お前の中にがいる。そしてよ、仏蘭西人の言葉では、あなたの中にがある。」

三好達治『郷愁』

 上の例は、母(mère)と 海(mer)での字喩。漢字とフランス語。

㉑詞喩

 詞喩は、同音異義語または音が似ている複数の単語を利用して、一つのことばや文章に複数の意味をもたせる技法。つまり、和歌でいう掛詞みたいなもの。ととのいました。

「山里は 冬ぞさびしさ まさりける
 人目も草も かれぬと思へば」

『古今和歌集』(百人一首28番、源宗于朝臣)

 上の句では「枯れ」と「離れ」がかかっている。

㉒類喩

 類喩は、関連する言葉同士を散りばめて、文章の背後にその影を漂わせる技法。つまり、和歌でいう縁語みたいなもの。類装法ともいう。

は たえて久しく なりぬれど
 名こそれて なほこえけれ」

『千載和歌集』(百人一首55番、大納言公任)

 上の句では水の音に関連したことばを散りばめている。

「朝凪に 鱸釣りにや 淡路潟 
  波なき沖に 船も出づらむ」

頓阿『草名十』

 上の句には草の名前が十個詠み込まれている(麻、水葱、薄、粟、茅、菜、荻、藻、藺、蘭)。こういうテーマの一貫した複数の題を詠み込んだ物名歌も類喩の一種といえる。

㉓音喩

 音喩ということばは、ことばのもつ音の類似性などを利用した表現技法のこともさす。⑱の音喩とは異なる用法。これは以下の継起的音喩、同時的音喩に大きく分けられる。これらは野内良三によって作られたらしい。

㉔継起的音喩

 継起的音喩は、同じ、あるいは似ている音を持つことばを繰り返す技法。「北海道はでっかいどう」みたいなこと。

㉕同時的音喩

 同時的音喩は、同じ、あるいは似ている音を持つことばを利用して、1つの表現に2つ以上の意味を持たせる技法。駄洒落や地口の類。小学生の「パンつくったことある?」とか「ねーちゃんと風呂はいってる?」みたいなやつとかはこれ。詞喩てきっていうか、詞喩ですよねこれ。

㉖能喩(vehicle)

 能喩は、比喩表現を担うもののこと。所喩に対応する。直喩「AのようにXなB」におけるAにあたる。喩詞。

㉗所喩(tenor)

 所喩は、比喩表現によって喩えられるもののこと。能喩に対応する。直喩「AのようにXなB」におけるBにあたる。被喩詞。

㉘虚喩

 虚喩は、「言語が発達する前、ストレートな物言いの前にあった直喩の前にあった暗喩のさらに前にあった言い方」。

 吉元隆明が提唱している。

㉙逆隠喩

 逆隠喩は、「通常の隠喩と内包・外包の関係が逆になっているもの」「ステレオタイプの形成する推論」。提喩の一種と解釈される。

 佐藤信夫が提唱している。

「是は僕の方ばかりではあるまい、千代子もおそらく同感だらうと思ふ。其證拠には長い交際の前後を通じて、僕は未だ曾てとして彼女から取り扱はれた経験を記憶する事が出来ない。彼女から見た僕は、怒らうが泣かうが、科をしやうが色眼を使はうが、常に変らない従兄に過ぎないのである。」

夏目漱石『彼岸過迄」

㉚借喩

 借喩は、本体(日本語でいう被喩詞)と比喩詞(日本語でいう比喩指標)が現れないで、直接喩体(日本語でいう喩詞)で本体を代替する比喩法。主に中国で用いられる用語。

㉛較喩

 較喩は、本体と喩体を程度の上で比較させる比喩法。中国で用いられる用語。

㉜〜㊴『大般涅槃経』での喩

 『大般涅槃経』では比喩を、順喩、逆喩、現喩、非喩、先喩、後喩、先後喩、遍喩の8種類に分類している。仏教経典なので、隙あらば説こうとしてくる。

㉜順喩:「順を追うて次第次第に喩を出し、その通りに法に合して説く」
㉝逆喩:「順喩の逆」
㉞現喩:「現に存在する物の上の喩」
㉟非喩:「現在存しない物の上の喩」
㊱先喩:「先に喩を出し後に法即ち喩えられる物を出す」
㊲後喩:「先喩と逆に、先に法を出し後に喩を説く」
㊳先後喩:「法の前と後ろ両方に喩のあるもの」
㊴遍喩:「喩の中の一々の事象すべてをそれぞれ法の合して遍く喩える」

㊵〜㊽『文則』での喩

 陳騤の『文則』では比喩を直喩、隠喩、類喩、詰喩、対喩、博喩、簡喩、詳喩、引喩、虚喩の10種類に分類している(比喩十法)。特徴として、陳騤は比喩の言語的構造というよりは表現の意味に注目するというものがある。

 なお、「直喩」は現代の「①直喩」と同形同義であるため、それと同一単語としノーカウント。

(①直喩:比喩詞を明示している比喩)
㊵隠喩:現代の㉚借喩に対応する。
㊶類喩:互いに関連した3つ(以上?)の直喩。現代では直喩。
㊷詰喩:不明
㊸対喩:本体と喩体が対句になっている。現代では直喩。
㊹博喩:不明
㊺簡喩:現代の隠喩にあたる。
㊻詳喩:「まず多くの解釈の辞句があって、はじめてその喩意が顕かとなる」特徴をもつ比喩。現代では直喩。
㊼引喩:不明
㊽虚喩:不明

あとがき

 流石に多い
 不明のところは判明次第更新します
 あと、サムネイルのやつはアルベール・カミュ『シーシュポスの神話』です
 フィネガンズ・ウェイクは例文にするにはいかつすぎるとおもいます

参考文献

[1] 『大辞泉 第二版』小学館 2012.
[2] 『日本国語大辞典 第二版』 小学館 2003. 小松原哲太他 (編) 2024.
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