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マイ国家の建設を前向きに検討しよう

はじめに

 そういえば、国家が成立し得るには、一体どのような条件を満たしている必要があっただろうか。いま、その条件の一例として、ゲオルグ・イェリネックの「国家の三要素」や、モンテビデオ条約の四要素を挙げることができる。

 それで、1933年のモンテビデオ条約第一条には、以下のような記述が存在している。

 The state as a person of international law should possess the following qualifications: a ) a permanent population; b ) a defined territory; c ) government; and d) capacity to enter into relations with the other states.

Article 1 of Convention on Rights and Duties of States

つまり、「国際法上の人格としての国には、Ⓐ永続的住民Ⓑ明確な領域Ⓒ政府Ⓓ外交能力、の存在が要求される」ということである。

 実質的にこの四要素は例の三要素「主権・領域・国民」を含んでいるので、逆にいえば、この4つを満たしてさえいれば、自分の国を建設できるのではないか?

「永続的住民」

 第一の要素「永続的な住民」は、国籍取得などを通じて国民としての主観的な合意を得た国家の構成員を要求している。(この主観説に対して、人種や民族、言語などの同質性を基準にしたものを客観説というが、現代では差別や攻撃を助長するものとして用いられなくなっている。)国家の国民として国際社会に認められるためには、一定の期間その国の領域内に居住しただとかではなく、国家と国民の間での、ノッテボーム事件で国際司法裁判所が主張した「真正な結合」の存在が重要であるとされている。

 さて、いま想定している国家にもともと国民がいなければ、所定の領域に人間を発生させるために、移住者を募集しなければならない。その方法で明らかなものは、「新国家の理念や価値観に共感する人々を集めること」で、イスラエル建国時のシオニズム運動とか、イスラム教徒のパキスタン独立などが方向性としてはそう。バングラデシュ独立は搾取や国語化、インフレなどパキスタン政府への反感による蜂起だった。非承認国家ではISIL(イスラム国)のジハード主義やサラフィー主義もその類とみることができる。つまり、新宗教を含む、ある誰かから見て魅力的な社会制度をもつ国家がいまアツい。ちなみに、安楽死制度だけでは永続的住民は得られない。死ぬので。

 多くの場合、領土を得れば住民も付属してくるため、それに関しては以下の「明確な領域」に付することになる。

「明確な領域」

 第二の要素「明確な領域」は、国家がその主権を行使する一定の領域(土地、海域、空域)が存在していることを要求している。なお、国際司法裁判所による北海大陸棚事件の判決で判断されているように、国境自体が国家間で矛盾なく明確にされている必要などはなく、該当の地域が一貫して支配されていれば、国境の曖昧さが「明確な領域」に直ちに反することにはならない。

 人類史に於いて、領域の獲得はさまざまな手法で頻繁になされてきた。

交渉による獲得

 19世紀のルイジアナ購入やアラスカ購入がそれにあたる(新国家建設の場合は領土がゼロの状態から購入することになる)。武力によるものも交渉ととらえることは可能だが、国連憲章第1章第2条4項に抵触する。四つめの要素である外交能力が実質的に国連の影響を強く受けるため、国家建設をスムーズに行なう為には推奨されないだろう。もちろん、相当の影響力があれば話は別で、武力によって生まれた国家が国連に加盟できる可能性や、国連に非加盟でも外交能力を持ち国家として認められる可能性も十分に考えられる。政府を持ち国家宣言を行った全盛期のISIL(イスラム国)が国家として全く扱われなかったのは、領域が明確でなく、国際法を無視した行動により他国との外交上の承認を得られていなかったためだろう。十分な力があっても、不法な武力行使は安定した国家建設には繋がらない。

すべての加盟国は、その国際関係において、武力による威嚇又は武力の行使を、いかなる国の領土保全又は政治的独立に対するものも、また、国際連合の目的と両立しない他のいかなる方法によるものも慎まなければならない。

国連憲章第1章第2条4項

独立・分離による獲得

 独立運動によっても、新たな国家がうまれることがある。1947年にイギリスによる植民地支配から脱したインドや、1962年までフランスの一部であったアルジェリア、最近でいえば2011年の南スーダン独立などがその例だ。

 独立運動の原因には、民族・宗教対立や、政府等による不満ある統治などがある。これらの顕著な地域で指導者になって独立を遂行することで、外国人でも住民の支持を得て国の最高指導者になることができる可能性はある。日本の独立運動を指導するという選択肢もないわけではないが、独立運動が盛んではないため非現実的。

 その国にとっての外国人だったとしても国の最高指導者になる事例がないわけではなく、アイルランド第3代大統領、アイルランド初代首相であるエイモン・デ・ヴァレラはアメリカ生まれでアメリカ国籍をもつ二重国籍者だし、ペルー第54代大統領アルベルト・フジモリは両親が日本人で日本国籍をもつ二重国籍者だった。とはいえ、前者は2歳でアイルランドに渡っているし、後者はペルー生まれ(とされている)で、深い関わりをもっていたのは確かである。

 近現代でそういう事例に最も近いのは、アルゼンチンで生まれ育ち、両親もアルゼンチン人であり、キューバ革命を指導してバティスタ政権を打倒したチェ・ゲバラだろう。大統領経験があるわけではないが、国連にキューバ主席として出席したこともある。もちろん大統領や最高指導者だからといって国を所有しているわけではないため、まだ「マイ国家」には程遠い。そもそも、すでに民族や社会があり、自由にすればすぐ打倒されてしまうような状態では真のマイ国家にはなり得ないだろう。これは独立・分離による獲得の致命的な欠点であるし、購入や武力行使による領域獲得の致命的な欠点にもなる。

 しかし、その点、民族や社会がなければよいため、自分の手の届く範囲に領域を絞って独立運動を行うことはできる。多くのミクロネーション(小国家)、例えばケビン・ボーのモロッシア共和国などはそれだ。ボーは自らを大統領とし、アメリカ合衆国内の家・私有地を領土とする国家を主張している。一般的に国として認められているような他国による国家承認はもちろん得られていない。

無主地の開拓

 同時に国民も付随してしまった上の二例とは違い、すでに他国の領土や先住民の住処になっていない無人島などの無主地を新たに開拓・先占して領域だけを得る方法もある。「すでに他国の領土になっていない無人島」は海底火山の噴火などにより生まれそうであるが、特定の国の領海であった場合にはその国に占有権があると判断される可能性が高いため、公海で生まれる必要がある。その場合は当然他国も領土領海領空を広げる為に獲得に乗り出すであろう。自分たちだけで領有の妥当性を国際司法裁判所などに訴えかけていかなければいけない。戦争に発展する可能性もある。もちろん南極は南極条約により領土権が凍結されているので選択肢には入らない。

 ミクロネーションのうち最も有名である(気がする)シーランド公国は、イギリスの領海外10km沖に浮かぶ人工建造物を領土として主張している自称国家である。そういう例もある。一般的に国として認められているような他国による国家承認はもちろん得られていない。が、他国により外交官が派遣され交渉を行ったことはあるし、イギリス司法に管轄外とされたこともある。(人工建造物が領土と認められた例はない。)

 同じくミクロネーションのリベルランドは、セルビアとクロアチアの間の、どちらも領有の主張・実効支配を行っていない地域(シガ)を領域として主張している。これは大陸内無主地の先占の例である。リベルランドはソマリランドと相互承認をしている。ソマリランドは、一般的に国として認められているような他国による国家承認は得られていないが、台湾など一部の地域が外交を結んでいて実質的に独立国家とほぼ同じような機能を持つ。ソマリランドもリベルランドも、国連加盟国からの承認はない。

「政府」

 第三の要素「政府」は、民主主義や共産主義などの形式を問わず、外部から独立して国内の法的秩序を維持し、統治を行う組織の存在を要求している。なお、既存の国家が一時的に統治力を喪っている場合などは一時的なものであることを理由として国家扱いはされ続けるため、政府が崩壊しているからといって直ちに非国家になるわけではないが、秩序維持の観点から、新国家の樹立に際しては明確な実効統治を強く要求する。1960年から国連加盟国であるソマリアは、無政府状態が続いていても基本的に国家扱いをされていた。国家の存在と認識はそう簡単に変わるものではないらしい。

 統治のために、憲法や国内法、三権などを実際に運用することなどが必要である。他の三要素と比べれば容易ではあるが、やはり経済的・人材的・技術的な不足は免れない。永続的住民たちに頑張ってもらおう。

 先ほど挙げたモロッシアやシーランド公国は立憲君主制で、君主が直接領土を統治しているといった立場をとっていて、モロッシアの法律では公用語をエスペラントにしたり、タバコや白熱電球を禁止したりしている。

「他国と関係を取り結ぶ能力」

 第四の要素「他国と関係を取り結ぶ能力」は、他国と外交関係を築き、自国の独立性を維持するための能力を要求している。「独立」や「主権」と呼ばれることもある。満洲国のような傀儡国家はこれを持たないために独立国としては認められない。

 国家承認がなければ第四の要素の十分な外交能力を持っているとはいえない。コソボは国連非加盟かつEU未承認であるが、セルビアからの独立が正当であるとして100カ国以上から広く承認されている。(国連非加盟なのは常任理事国の中露の拒否権によるものであると考えてよいだろう。)

 ニュージーランド王国と自由連合状態であり、その国民がニュージーランドの市民権を持つという小さな島国のニウエ王国は、国連加盟はしていないものの、領域と1000人以上の国民と実態のある政府を有し、日本を含む20カ国以上から承認を受けており、多くの国際機関に加盟しており、条約締結能力もあり、外交も行なっている。主な輸出品は農作物。いわゆる国家の中では最小規模クラスであるとはいえ、こうしてシーランドなどと比べると、やはりそれらとは明確に違う。承認を受けるに足る規模がある。ミクロネーションとは違うマイ国家にもそれが必要になる。十分な国家承認を受けていない理由は国連非加盟であることと、そのことの理由の一つでもあるであろうこと:ニュージーランドと自由連合状態にあり、国民がニュージーランドの国民でもあることによって、内政や外交があっても、「独立した主権や独立した国民を得ている」とは認識されないことが多いことによるだろう。

国家承認に関する主なその他の微妙な事例

クック諸島
 ニウエと同じくニュージーランドとの自由連合状態にあるクック諸島は、国連非加盟であるものの内政や外交を行い日本を含む多くの国家から国家承認されているが、ニウエと同様の理由で国家承認を行っていない国も多数存在している。この「主なその他の微妙な事例」欄に於いて日本が国家承認している唯一の国あるいは地域である。トケラウもニュージーランドとの自由連合国になる可能性があったが、住民投票により否決された。

台湾
 台湾は、元国連加盟国(中華民国として)であって、現在は国連非加盟国である。更に中国の影響が増した現在でも台湾を国家承認している国連加盟国家は少ないが現存し、国家承認はしていないものの外交関係を維持している国家も多数存在している。日本やアメリカもそう。領域も国民も政府も外交能力も十分持っているのに承認が不完全なのは中華人民共和国の影響によるものと考えてよいだろう。国家承認は国際関係にも依存する。

北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)
 北朝鮮は国連加盟国であり国家の要素ももちろん満たしているが、日韓基本条約第3条での韓国との取り決めもあって、日本は北朝鮮を国家承認していない。韓国と北朝鮮の主張は相反するものだが、両国家とも国家承認している国が多数派である(南北等距離外交)。北朝鮮のみを承認する国家は、シリアが唯一のそれだ。

西サハラ
 西サハラはサハラ・アラブ共和国(RASD)とモロッコが領有を主張している地域で、前者が独立運動を行なっているが、実際は西サハラの半分以上の領域がモロッコにより実効支配されている。RASDは国連非加盟だが、国家承認を行なっている国はそれなりにあり、アフリカ連合にも加入している。つまり、外交能力がある。日本はRASDの国家承認とモロッコの領有承認のどちらも行っていない。多くの地図で灰色にされている。

南オセチア
 南コーカサスを事実上実効支配している南オセチア共和国・アラニア国は、独立を主張しロシアやニカラグアなど一部の国家から承認されているが、国連非加盟であり、殆どの国連加盟国はジョージアの一部という認識をしている。ロシアに加入する可能性もある。南オセチアが一般に国家承認を受けていないのは国際関係からだろうか。

アブハジア
 アブハジア(自治)共和国も南オセチアと同様に、ジョージアの一部と認識されていて、独立を主張していて、ロシアやニカラグアから承認を受けている国連非加盟国である。

沿ドニエストル
 モルドバとウクライナの間の地域である沿ドニエストル・モルドバ共和国も事実上独立国家のような体制を持っているが、殆ど国家承認を受けておらず、モルドバの一部という扱いである。同じような状態にある沿ドニエストル、南オセチア、アブハジア、アルツァフは互いに友好で国家承認をしている。

アルツァフ(ナゴルノ=カラバフ)
 2023年にアゼルバイジャンの軍事作戦を受けたアルツァフ大統領がアルメニアに亡命して事実上崩壊するまで、上の3つの同様に、アルツァフ共和国はアゼルバイジャンの一部を実効支配していた未承認国家であった。

北キプロス
 北キプロス・トルコ共和国も、他国(キプロス)からの実効支配を受けていない未承認国家であるが、トルコ以外の国連加盟国からは一切承認を受けていない。

ソマリランド
 ソマリランド共和国も実質的に独立国家として機能している。ソマリランドを国家承認している国連加盟国はないが、外交能力ももっている。なんならソマリアよりも国家らしい状態にある。

マルタ騎士団
 エルサレム、ロードス及びマルタにおける聖ヨハネ主権軍事病院騎士修道会(通称マルタ騎士団)は特殊な例である。修道会の一種であり現在は領土をもたないが、かつて領土を有していたために主権実態として100以上の国と外交関係にある。委員会や共同体と同じ待遇で国連にも招待される。

ニューカレドニア
 フランスの海外領土のニューカレドニアでは独立運動が盛んであり、屢々独立の是非を問う住民投票が行われているが、独立派の多くが投票をボイコットした2021年以外の2回は何れも50数%でフランス残留派が勝利している。このような経緯で、30万人近くとニウエの100倍以上の人口があり自治も行われているが、現在独立国家ではない。外交権や国防・司法・通貨発行はフランスが権限をもっている。

カタルーニャ
 スペインのカタルーニャ州では独立運動が盛んであり、独立派が優勢ですらあるが、スペインとの対立により独立には至っていない。

香港
 中華人民共和国香港特別行政区とされ、中国から高度な自治を認められている香港も、民主主義や自由、経済などを理由に屢々独立を主張している。ほかに、新疆ウイグル自治区周辺も東トルキスタン共和国亡命政府などが屢々独立を主張している。何れも独立派が優勢ではないみたい。

検討

 以上より、マイ国家の建設を検討する。

・永続的住民:国家の理念や価値観に共感する人々を集めることで可能。例として、今回は𝐕𝐢𝐫𝐭𝐮𝐚𝐥国家を想定することにする。詳細にもよるが、それに魅力を感じる人々はたくさんいるであろう。弊国家との「真正な結合」のために、ひとはデフォルトでバーチャル状態にあるように進化する必要があるかもしれない。サーバー内で電子生命体として生まれついて、育ち、肉体屋さんで肉体を購入して現実旅行をするなどをしよう。

・明確な領域:サーバー空間を領域として認めさせられないようであれば、無主地を見つけるか国に交渉するなどして、既存の国土に属さないサーバールームを現実に置き、そこを実領(ない単語)として独立主張を開始することも可能。

・政府:時間をかければたぶんなんとかなる。憲法作ってみたとかやろう。無法地帯は避けなければならない。

・外交能力:経済的・文化的などの圧倒的影響力をつけ、既存の国家が𝐕𝐢𝐫𝐭𝐮𝐚𝐥国家の国家承認により莫大な利益を得られる状態にする。既存の国家から独立する必要があることをなんらかのそれっぽい理由をつけて認めさせていく、など。

結論

 つまり、あまり現実的ではない

参考文献

・各条文等

・Wikipedia『国家の資格要件』

・各国(地域)のWikipediaと各国(地域)のホームページ

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