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#大谷秀和/調整期間ほぼゼロで起点の縦パス。「やっぱり大先輩だから立てないと」【サッカー記者の独白 #01】


大谷のポジションはボランチ。カズは2得点。役者だった

▼「不安でしなかった(笑)」

62分、三門雄大との交代出場でピッチに立った大谷秀和の意識は、一点に集中していた。

「キタジさん(北嶋秀朗)ばっかり狙っていた」

71分だった。大谷からの縦パスを北嶋が野村直輝に展開し、野村のクロスに内田智也が飛び込む。6−6のタイスコアに持ち込む元横浜FC10番のゴールは、大谷の狙いが結実した瞬間だ。

「やっぱり大先輩だから立てないと。本人は「キツいキツい」と言っていましたが、走らせないとね(笑)」

柏レイソルのレジェンド主将が、いたずらな表情を浮かべた。

実は家族との欧州視察から帰国したのは試合前日。「ちょっと今も眠い」と目をこすった大谷は、南雄太引退試合に向けた自身の調整について「何もしていない(笑)」と本音を吐露。そして言葉を続ける。

「子どもたちと試合を見に行ったりしながら散歩だけはしてきたんで。でも不安でしたね。不安でしなかったです(笑)」

コンディションがたとえ万全ではなくても、できる限りの仕事は尽くす。現役を引退し、2年の時が過ぎたとはいえ、大谷秀和は大谷秀和だった。

時間帯によっては、BLUE LEGENDS MEMBERSの明神智和と、同じピッチに立っていた。その時間はNACK5スタジアム大宮に詰め掛けたレイソルサポーターにとっても、かけがえのない時間だったに違いない。

「憧れていた方と一緒にできるのはとてもうれしい」と大谷は顔を綻ばせながら、「南さんにこういう場を用意していただき、とてもありがたかった」と感謝した。またレイソルで南と共にした時間について、大谷はこう振り返る。

「加入当時からお世話になりましたし、家族ぐるみでも良くしていただきました。例えば南さんからキャプテンを引き継いだ時にも、キタジさんも含めて食事をしながら、いろいろな話をした中で自分を支えてくれました。自分が至らないところを南さんとキタジさんという先輩たちが、僕のことをフォローしながらサポートしてくれたことは精神的にもありがたかったです。小さい頃から知っている子どもたちもあんなに大きくなりましたし、ものすごく面倒を見てもらった先輩との時間は感慨深かったです」

帰国翌日に参戦した偉大な守護神の“現役ラストダンス”。「楽しく、温かい雰囲気の中でプレーできた」環境に対し、大谷はあらためて感謝の言葉を口にしていた。

(文中敬称略)
Text by 郡司 聡(Satoshi GUNJI)
Photo by 藤井 隆弘(Takahiro FUJII)

試合前の記念撮影。大谷も“(南)雄太の背中を見て育った”
プレーの合間にこぼれる笑顔。至福の時間だった


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