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Bon Iver / For Emma, Forever Ago (2007)
当時まだジャスティン・ヴァーノンの実質ソロ・プロジェクトだったボン・イヴェールのファースト・アルバム。
それまで活動してきたバンドが終わり、長年共にいた恋人とも別離し、ウィスコンシン州の森の中にある、父の所有する古い山小屋に一人籠って制作されたという本作は、圧倒的な孤独の表現に揺さぶられる傑作。
清廉なフォーク・スタイルを基調としながら、エレクトロなサウンド処理も絶妙に施され、それが雪に閉ざされた彼の故郷の冬の冷たさ(と暖かさ)を表現している。
ほぼ全てを一人でこなした本作は、匙加減の丁度良い演奏や澄んだ繊細なメロディなど楽曲の質ももちろん素晴らしいが、ジャスティンの美しいファルセット・ヴォーカルもまた真に迫る。
そして、実験的な作りで現代詩的とも称される詞も実によくフィットしている。
孤独と寂寥感に満ちた冬の3か月を経て、彼はその後の音楽人生の根幹となる表現技法を自らの手で導き出したのだろう。
次作での視界が開けたような、まさに春の訪れのような音の広がりも感動的だが、その基点としての本作も欠かすことのできない傑作。
冬来たりなば春遠からじ
アルバムには「ストーリー」が欠かせない。もちろん楽曲が良いことは不可欠な要素だが、そのレコードを作るに至った経緯や制作に纏わる出来事、必然性など、そういったものも大切だと、僕は思う。
優れた音楽はただ楽しむだけのものではなく、寄り添い、支えになり、一緒に人生を歩んでいくものだから。ときに涙を流し、ときに心を温めながら。
その意味では、このボン・イヴェール(フランス語で”良い冬”から派生した名前のようだ)のファースト・アルバムは、動機が結果に見事に昇華した、とても味わい深く意義深いレコードだと思う。
傷心の男が一人、雪に閉ざされた人里離れた場所で、ひたすら自身の現在の想いを捉えようと苦悩しながら、1曲1曲に丁寧に描いていく。そうして出来上がったこのレコードのなんと美しいことか。
僕は何年か前の冬の午後、雪に覆われた近所の公園で、夏場はつがいの鴨なんかが泳いでいた池の水面が氷に塞がれているのを遠目に眺めながら、このアルバムを聴いていた。不可逆な人生の残酷さを呪い、とめどない想いに歯を食いしばって耐えながら。
何年が経っても、僕は僕のまま、変わらずに(あるいは変われずに)時の流れに肩まで浸かり、身を委ねている。たまに溺れそうになりながら。
本作の孤独と寂寥と静謐の中から漂う無常感は、当時も今もこれからも僕を揺さぶり続けてくれる気がしている。
明日は仕事なのに、深酒してふらふらしてきた。いつまでたっても後悔しながら生きていこう。