Beck / Mellow Gold (1994)
1990年代におけるオルタナティヴ・ロックの象徴の一人であり、ローファイ・ブームの火付け役にもなった、ベックのメジャー・デビュー・アルバム。
奇しくもカート・コベインの死の直前というタイミングでリリースされた「メロウ・ゴールド」は、結果的に時代の空気を背負わされることとなってしまった90年代屈指のアンセム"Loser"から始まった(一般的には)ベックのキャリアの原点。
通算では3枚目のアルバムとなった本作は、インディーズからの過去2作での脱力感に覆われた緩くて雑多で怠慢で露悪的な音の隙間から零れ落ちるアコースティック・フォークの美しき哀愁と、鼻歌で作ったように軽快なメロディという芯の部分はそのままに、サンプリングやループの上にラップやトーキング・ブルースを絶妙なバランスで乗せ、ジャンルで括れない(=オルタナティヴ)歪な雑食サウンドと奇妙なポップ・センスにより、全体を通して強烈な引力が吸い寄せているかのよう。
フォークやカントリー、ブルースといったルーツ・ミュージックとヒップホップの融合という革新的な挑戦を、ローファイにベッドルーム・ミュージックとしてあくまで趣味的に進め、早くもメジャー・シーンでの成果(本人は欲していないだろうが)を得たベックは、その後、刺激と内省の”揺り戻し”が連なる飽くなき音楽探究を続けていくことになる。
4年に1回の閏日。
明日3月1日で30周年を迎える「メロウ・ゴールド」を。
学生時代に初めて聴いた時は、どういう気分で聴けばいいか困惑したものだが、今ならわかる。
全てがもうどうでも良くなって、破れかぶれで日常を逃げ出し、猥雑な裏通りの喧騒を抜けて家に帰り、ジャケットもシャツも靴下も投げ捨て、居間の真ん中に横になって、ビールやらウイスキーやらを飲みながら聴くような音楽。
どうでも良くなったはずなのに、消え失せてくれない後悔とか、あてのない「対策」とかが、いつの間にか頭の中を渦巻いている。
もやもやを、いらいらを、全部吐き出してすっきりしたい時の音楽。
僕が達した境地は「来るもの拒まず。でも、それを受け入れるか受け入れないかは自分で決める」ということ。
長いのか長くないのかよくわからない冬を潜り抜け、そこに春はやってくるのか。
こわいけど楽しみでもあるのさ。
少しセンチメンタルに過ぎるな。
こうして2月のアディショナル・タイムは終わりゆく。