見出し画像

('96) Belle and Sebastian / Tigermilk

グラスゴー出身のベル・アンド・セバスチャンの幻のファースト・アルバム。大学の実習の一環として作られた、わずか1,000枚のレコードの中にのみ存在した彼らの音楽と、ベルとセバスチャンの淡く儚い物語(ブックレットのストーリーは必読)はやがて、世界中の物憂げで内気で人生を諦めがちな人たちの心を揺らすことになる。

素朴な音楽性ながら、凝った管弦楽の挿入など細部まで手が行き届いた作品で、すでに彼らのスタイルは出来上がっている。そして根幹を成すスチュワート・マードックが紡ぎ出す珠玉のメロディは、繊細な揺らぎとともに、儚く美しい瞬間を10曲41分の中に何度も生み出している。

マイノリティの視点とモノトーンのアートワークは他でもなくスミスを彷彿させるし、日常に潜む哀しみや虚しさを余すことなく掬い上げるストーリーテリングはキンクスを想起させる。

ブリットポップ全盛の時代、華やかな喧騒から離れたところで、疲れ果てた人たちに寄り添うように、日陰に咲く一輪の花のように、彼らの音楽は優しく耳に届き、気づけば心の奥へと沁み渡っていく。

蒼さも滲む”ベルセバ”の処女作は、確信と予感に満ちた傑作でもある。



ニール・ヤングやトム・ウェイツ、スミス、R.E.M.、ストーン・ローゼズ、ウィルコ・・・。このあたりと並び、僕が音楽を求め続ける理由をもっとも端的に表現しているのがベルセバだ。

ベル・アンド・セバスチャン。略してベルセバ。
僕は日本風の略称なんかはわりかし嫌厭するのだけれど、なぜだかベルセバって響きは嫌いじゃない。なんだか拙さと淡い切なさが含まれている感じがする。

去年死ぬほど聴きまくった本作、通称「虎乳」。寅年にちなんで、今年の初めに書こうと思ったのだが機を逃し、気づけば年の瀬に…。

もうね、僕のようなHSP要素が日常に零れてしまう人間からすると、彼らの音楽は、メロディもサウンドも詞も声も、沁みすぎて心が震えてしまうわけで。

最初に書いたとおり、ブックレットに書かれた「ベルとセバスチャンの出逢い」の物語からしてもう素晴らしくて、彼らの音楽性を見事に言語化している。
出逢いの輝きが迸ると同時に、別れの予感すら漂っている気がして、優しい気持ちと哀しい気持ちが共存し、共鳴する。

ああ、こうして今回もまた溜め息をつきながら、うっとりしながら、このアルバムに入り込み、歌っているうちに視界が滲んでくる。
僕はまだ大丈夫、なんとかやっていける。そう思い直せる、幸せな40分。

兎にも角にも、一にも二にも、僕はベルセバの音楽を愛している。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?