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Arctic Monkeys / Humbug (2009)

2000年代UKロックのトップ・バンドへと一気に駆け上がったアークティック・モンキーズが、盟友ジェームス・フォードに加えて、敬愛するクイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジのジョシュ・オムもプロデューサーに迎え、ヨシュア・トゥリーなどアメリカ西部のスタジオでレコーディングを敢行した3作目は、バンドの劇的な変化/深化を刻んだ新境地にして転換点のアルバムとなった。

1作目を更に激しくスピード・アップさせた2作目から一転、本作でのテンポは驚くほどスロウ・ダウン。ゆったりどっしりしたミディアム・テンポとずっしりと重いグルーヴが大胆にも10曲39分の大半を覆い、そこかしこで荒々しくヘヴィなリフが吹き荒れる。

別プロジェクトのザ・ラスト・シャドウ・パペッツを経て声色にメロウさと艶を増したアレックス・ターナーは、シンガーとしても一皮剥けて大人の色気と余裕を漂わせている。蒼さは薄れ、太々しさはそのままに。

序盤の"My Propeller"や"Crying Lightning"でのコシのある野太いグルーヴ、中盤の"Secret Door"や"Cornerstone"から溢れる色気と叙情とロマンティシズム、ラストの"The Jeweller's Hands"でのスケール感たっぷりのクロージング、どれをとってもパワフルで意欲的で、キャッチーさこそ弱まったものの、その分じわじわと浸透する気怠い心地良さがある。

彼らの蒼く疾走する初期衝動に心を奪われたリスナーほど、おそらく本作での大胆なシフト・チェンジに面喰らい、どう聴いていいものか迷わされただろう。
しかし、彼らのここでの挑戦と実験が肉体改造のように作用し、その後の彼らの音楽性の血肉となっているのはたしかで、アークティック・モンキーズだけの揺るぎないグルーヴを獲得している。

21世紀最もクールなロック・バンドによるこの意欲作は、バンド自身にとってもリスナーにとっても、避けては通れなかった1枚である。






リリースから15年を迎えたアークティック・モンキーズの3rdアルバム。
これは何ていうジャンルなのかわからないね。
QOTSAのストーナーっぽさもあるし、ヘヴィなリフはブラック・サバス風だし、どこかサイケな妖しさも漂っている。

まだ若かった彼らが、憧れのジョシュ・オムと一緒に砂漠地帯に飛び込んで実験的に作っただけあって、趣味性が強く見受けられるのもたしか。
しかし、メロウでスウィートなラヴ・ソングの名曲「コーナーストーン」(洒脱な短編小説のような詞も最高!)みたいなメロディも作れているし、ここでのヘヴィ・サウンドは4年後の最高傑作「AM」で結実するし、本作での”筋トレ”による下地があってこそ、この後彼らは世界規模で最高クラスのロック・バンドになったのだろう。

リリース当時僕はまだ20歳手前で、リアルタイムではあまり好きになれなかった(というか良さに気づけなかった)が、何年もかけて聴き込んでいるうちに、この煙たい砂っぽさが(特に暑い時期に)クセになることがわかってきた。
そして次作でついに強力な”唄心”が追加され、彼らは”完全体”に肉薄することになる。

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