スピッツ / オーロラになれなかった人のために (1992)
2作目と3作目のアルバムの間にリリースされた5曲入りミニ・アルバム。
セカンド・アルバム中で新たに導入したオーケストレーションを全編に用いて、バンドの未知なる可能性と新しい方向性を探っている。
オーケストラ・サウンド自体はわりとベタで大仰ではあるが、曲の展開と運びには創意工夫の跡がみられ、ノスタルジーや虚ろな喪失感をやわらかく丁寧に掬い取った詩を、繊細なメロディで1曲ずつじっくりと紡いでいくスピッツらしさで、5曲23分を寂しくも美しく壮麗に彩っている。
ストリングスの音色も美しい、スロウなバラードが並ぶ(「海ねこ」は例外)スピッツ異色のミニ・アルバム。
ノスタルジックな黄色の背景に、梨とそれを剥くナイフが鋭利に光るジャケットは本作の音楽性を端的に表している。
新しい取り組みを否定することはもちろんないが、個人的には特に最後の「涙」あたりはオーケストレーションなしのシンプルなアレンジで聴いてみたいところかなと。