見出し画像

Travis / The Man Who (1999)

デビュー作での「オアシスのフォロワー」的なサウンドから一転、ナイジェル・ゴドリッチらをプロデューサーに迎え、その叙情性とフラン・ヒーリィのメロディ・メイカーぶりを前面に打ち出したセカンド・アルバムは、”ポスト・ブリットポップ”時代の空気をいち早く身に纏い、のちに大きな飛躍を遂げることになる”UK叙情派ロック”の先駆けの名盤となった。

オープニングの"Writing To Reach You"や"Driftwood"、"Turn"、そして雨を歌った稀代の名曲"Why Does It Rain On Me"といったトラヴィスの代表曲となるシングル曲を中心に、繊細なアコースティックの音色に叙情的で美しいメロディが乗り、フラン・ヒーリィのヴォーカルは優しくも物憂げで、ジャケットの画そのままに、静謐な哀愁の世界を描いている。

一方で時折印象的なギター・サウンドを差し込むアンディ・ダンロップとダギー・ペイン&ニール・プリムローズのリズム隊による芯のあるバンド・サウンドは、90年代のUKギター・ロックをしっかりと血肉としているのがわかる。

90年代を代表する名盤の一つである本作によって、トラヴィスは内省的な方向に進むと同時に国民的なバンドへと成長し、英国の心を歌う存在として認知されていく。

トラヴィスが繊細に物憂げにそっと閉じた90年代UKロックの幕を、2000年代最初にこれまた叙情的な形で開いたのがコールドプレイ。
ダイナミックでスケール感のあるUKロック・バンドの猛者達の間を、等身大のグッド・メロディで繋いだトラヴィスの存在は実はかなり大きいと思う。




肌寒くぐずついた曇天の日にぴったりな本作は、トラヴィスの最高傑作だろう。

25年前の5月にリリースされた本作を、せっかくなので気候的にぴったりな日に聴こうと思って待っていたら今日になった。

初夏から本格的な夏への移行を思わせた昨日から一転、僕が住む街は今日は薄曇りで肌寒く、油断したら雨が降り出しそう。
でも、このアルバムがあるからむしろ大歓迎。恵みの雨。

秀でたヒット・シングル4曲を中心に、ひたすらグッド・メロディで繋ぐ10曲(締めの10曲目でオアシスやベック、マニックスの楽曲タイトルも上げながら、最後車を降りていく感じも粋)に、本編にはないラフでタフなバンドぶりを見せる隠しトラック、そしてボーナス・トラックに大好きなロネッツ”Be My Baby”のカヴァー(その後のリミックスVerはいつも省略しがち)と、構成も完璧と言っていいのでは。

初めて聴いてから20年近くなるけれど、今でも急に雨に降られると"〜Rain On Me”のイントロが頭の中を流れてきて、たまらずイヤホンを耳に突っ込んで聴き始める、という発作は変わらない。

あらためて聴いてもやっぱり素晴らしいアルバム。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?