Pearl Jam / Vitalogy (1994)
1〜2作目で商業的に大成功を収めるとともに、アメリカで最も重要なバンドとなったパール・ジャム。いつだって体制や権力の傲慢への反骨精神を忘れない彼らは、巨大な商業主義に対する闘争心をさらに燃やしていく。
エディ・ヴェダーとは好敵手にして戦友だったカート・コバーンの死が重い影を落としたであろう3作目は、前作に引き続きブレンダン・オブライエンとバンド自身の共同プロデュースの下、これまでのガレージ・ロック/グランジ/ハード・ロックが織り成す重層的なオルタナティヴ・ロックに、パンクの疾走感や刺々しさ、楽曲の幅広さを持ち込み、アルバム全体に深みと奥行きが浮き出た傑作となった。
アナログ盤(ヴァイナル)讃歌のシングル”Spin The Black Circle”などのファストな曲から、エディの声に祈りのような穏やかさすら感じられる"Nothing Man"や"Immortality"、そしてライヴでも合唱必至の名曲"Better Man"まで、彼らの音楽性の広がりと表現力の深化が窺える。
シリアスでヘヴィだが、芯の部分で決して希望を失わずに闘い続けるパール・ジャムの気骨のあるロックが聴ける名盤。
本の装丁を模した作りのアルバムで、一見説教っぽくて皮肉めいた文章を挟みつつ、エディ・ヴェダーの不穏な中に時折力強いメッセージを込めた詞が綴られている。
上でも挙げた4曲を中心に、パール・ジャムを代表する名曲と、不気味で実験的な曲も含む本作もまたロックの名盤。
彼らはこれで3作連続で凄いレコードを生み出したことになる。
パール・ジャムがこの「ヴァイタロジー」を、R.E.M.が「モンスター」をリリースし、ベックやウィーザーが新たな価値観を生み出した1994年。
喪失感や重苦しい雰囲気が蔓延する中、美しく力強いロックはしっかりと息づいていた。