Eminem / The Slim Shady LP (1999)
エミネムの2作目にしてメジャーからのデビュー・アルバム。
当時無名の白人ラッパー・エミネムことマーシャル・マザーズがそのスキルとセンスだけで名を上げ、ドクター・ドレーに見出され、生み出したオルター・エゴ「スリム・シェイディ」をコンセプトに、ドレーと共にブラッシュ・アップさせた本作は、エミネムの確固たるラップ・スキルと引き込まれるストーリーを孕んだリリックがドレーのドープでキレのあるビートに乗り、一躍ヒップホップの最先端へと躍り出た。
彼のリリックには、「エミネム」としての辛辣なユーモアや孤独な幼少期の悲惨で陰鬱な記憶、ファースト・アルバムの”失敗”への怒りと才能を示すための闘争心に、「スリム・シェイディ」としての凶暴性や猥雑さ、傍若無人ぶりが重なり、ヒリヒリするようなリアルと誇大妄想的なフィクションが並行して疾走している。
虐げられ続けた孤独で困窮した男は、悪さ自慢や武勇伝に明け暮れる”旧式”ヒップホップとは離れた境地から自分だけのライムを刻みつけ、来たる2000年代前夜に新時代到来の予感とともに大化けした。
ヒップホップは詳しくないし、メンタリティとしては遠いところにいる自覚はあるが、それでもその表現力の豊かさ、鋭さ、えげつなさは目を見張るものがあり、有名どころやいわゆる名盤は押さえるようにしている。
が、今でも何がどう凄いのかうまく表現できない。ちなみに上の文章は2018年時点で聴きながら書いたものです。などと言い訳してみる…。
要はドープなビートと語感の心地良いライム、リリックから溢れる濃厚なストーリー性、独自性のあるフロウ、そして1枚に1曲は入っているであろう内省が滲むほろ苦い哀愁のトラック、これらがあれば個人的には満足。
アルバム全体が長いし、ブックレットもやたらと分厚いけど、音として聴いても、リリックを読みながら聴いても楽しめて、ちょっとだけグッとくる瞬間があれば聴いてよかったと思う。
凶暴で露悪的でモラルの無い人格としての「スリム・シェイディ」を冠した本作は、当時20代後半のエミネムが、自身の過酷な半生を鬼気迫るラップで、刻みつけるように捲し立てている。
マイノリティの白人として苦境を潜り抜けてきた孤独な男の闘いは始まったばかり。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?