('01) The National / The National
”ブルックリン最後の大物”ザ・ナショナルは、アルバムをリリースするごとにじわじわと評価を上げ続ける稀有な存在であり、2000年代以降における”USインディの良心”。
このファースト・アルバムは、後のバンドのキーマンの一人、ブライス・デスナーの正式加入前(レコーディング自体には参加しているもよう)の作品。やがて彼らが獲得することとなる”深遠さ”こそまだ薄いものの、マット・バーニンガーの大物感漂う歌声の片鱗を見せている。オルタナ・カントリーの風合いも感じられ、アメリカーナの要素を先取りしているような気もする。そして何より、ザ・ナショナルらしい”静かなる情熱”(2曲目は"Cold Girl Fever"だしね)の萌芽もみられる、はじまりの1枚。
今やインディ界隈だけでなく、ロックやポップ界にまで(テイラー・スウィフトとデスナー兄弟(のどちらか)の共演とか驚愕するよね)浸透しているザ・ナショナルは、今のUSロックにおける重要な水脈の一つ。彼らのぶれない姿勢は(アーケイド・ファイアらと同様)潔くカッコよく、信頼して音源を待ち続けるに相応しい存在。
この1作目と2作目は国内盤を手に入れたくてもなかなか手に入らず、輸入盤のみ所有。どこの金持ちCEOの休日だよってな具合のジャケットの飄々とした佇まい(たしかバンドの誰かだったかな?)からして、無名の新人バンドらしからぬ雰囲気あり。
曲の方もすでにヴェテランの落ち着いた風格。世界ツアーに疲れた大御所バンドが自宅スタジオで気分転換にのんびり作りました風な、レイドバックしたサウンドとしっかりした骨格、隠せないスケール感、漏れ出る色気。たしかに粗さはあるのだろうけど、それが初期衝動ではなく、余白をゆっくり味わうような質感となって出てくるあたりが他にはない彼らだけの魅力。
さっきオルタナ・カントリーを引き合いに出したけど、ウィルコと同様にナショナルも都会的な洗練と醒めた視点が印象的で、街中を歩いているときなんかに聴くと凄くフィットする。
"American Mary"なんて極上のミドル・バラードだし、"29 Years"は29歳になったときに歌詞も分らないままよく聴いてたな。
今日は、見分けがつかない双子のデスナー兄弟の誕生日ということで本作を取り上げてみました。