Kasabian / Kasabian (2004)
イギリスはレスター郊外の農場にある小屋で共同生活をしていた男たちは、自らの音楽とパフォーマンスのみで、UKのトップ・バンドへと駆け上がっていく。
当時のUKロック・シーンの異端児にして、やがてその中心となったカサビアンのデビュー・アルバムには、ビートルズのサイケデリア、ローリング・ストーンズの野生味、クラフトワークの斬新さ、ジョイ・ディヴィジョンの不穏な鋭さ、クラッシュの旺盛な好奇心と雑食性、セックス・ピストルズの不遜さと不敵さ、ストーン・ローゼズの陶酔するグルーヴ、プライマル・スクリームの自由奔放さと挑戦心、ケミカル・ブラザーズの破壊力、そしてオアシスのラッディズムとアンセミックなメロディなど、偉大な先達の遺伝子が天然のまま根づいている。
それらの音楽的影響を、共同生活の中で培ってきたバンド内のケミストリーで鍛錬していった結果、独自性も開花。
全編に渡って大胆不敵なグルーヴが禍々しく渦巻き、鋭く強靭なビートがスピーカーから弾け飛ぶ。
そしてトム・ミーガンのヴォーカルのふてぶてしさはまさに’00年代におけるラッディズムを体現している。
また、ジャケットのイメージ通りのアンダーグラウンドなエッジに隠れがちだが、メイン・ソングライターであるサージ・ピッツォーノの書くメロディも強力で、バンド独自のサウンドと重なることで、他にはない独特のスケール感のあるアンセムとなっている。
カルト的なエッジとビッグなアンセムの両立により、数多のインディ・バンドを蹴散らしたカサビアン。
彼らの威風堂々とした立ち振る舞いは、次作でブリティッシュ・ロックの伝統の形に進み、その後も進化(巨大化)を続けていくわけだが、この危うい魅力が漂うファースト・アルバムもやはり圧倒的な力があるし、聴いていてクセになる。
そしてライヴではよりオアシス然とした佇まいになるのも良い。
それにしても、このエレクトロとアシッド・ハウスとテクノとアンビエントをサイケデリックにグルーヴィーに混ぜ合わせ、どデカいロックとして鳴らす彼らのサウンドは圧巻。
それこそ兄貴分のノエル・ギャラガーがケミカル・ブラザーズとコラボレーションしたあたりから一番やりたかったことなわけで、ノエルが彼らを愛する気持ちもよく分かる。
カサビアンのデビュー作はオアシスの「ディフィニトリー・メイビー」からほぼ10年後にリリースされている。
やっぱりカッコいいアルバムだな、ジャケットもサウンドもアティテュードも最高。バカみたいにクールでロック。
オアシスとの相似点はラッディズムだけでない。
トム・ミーガンのがなるようなヴォーカル(トムの場合はバラードでの枯れた味わいや語感の心地良いラップ・スタイルもあるのが良い)とあの佇まい、サージ・ピッツォーノの書くキャッチーなメロディ・ラインとたまに聴ける高めのヴォーカルの対比はギャラガー兄弟のそれにかなり近い。
ただしトム&サージの仲の良さはギャラガー兄弟との大きな違い(そもそも友達と兄弟だから当たり前か)で、2012年に新木場スタジオコーストにライヴを観に行った時にも2人の間の親密さをよく感じられた。
それだけにトムの脱退とそれに至る経緯は残念だったな。
でも曲に罪はないので、これからもトムが歌うカサビアンを聴き続けるし、脱退後のカサビアンもサージの別プロジェクトも追い続けている。