Jeff Buckley / Live at Sin-é (1993)
1993年夏。ニューヨークはイースト・ヴィレッジのコーヒー・ハウス"Sin-é"にて、デビューを控えた26歳のジェフ・バックリィは、いつものように一人エレクトリック・ギターを弾きながら持ち歌とカヴァー曲を織り交ぜながら歌う。
一つだけいつもと違うのは、演奏をレコーディングしているということ。
本作は1994年にデビュー・アルバムをリリースする前年に、ジェフ馴染みの会場でライヴ・レコーディングされたEP(僕が持っているのは2003年発売の完全版)。
完全版では、ファースト・アルバムにも収録された自作曲の他、ボブ・ディラン、ニーナ・シモン、レナード・コーエン、ヴァン・モリソン、レッド・ツェッペリン(それとちょっとだけドアーズとニルヴァーナも)らの多種多様な陣容のカヴァー曲、そしてこれまであまりイメージのなかった客向けの親しげなMCなどが収められている。
父の伝説(と悲劇)とともに語られることの多い、というかそうした宿命を背負わされる彼の、一人の生身のシンガー/ソングライターとしてのソロ・パフォーマンスが生々しくヴィヴィッドに刻まれている。
ギター1本から繰り出される単調なサウンドながら、その圧倒的な歌唱力による”訴求力”の強さはすでに圧巻の存在感を放ち、バンド・サウンドによる完成度を求めたファースト・アルバムよりもむしろ彼の声の凄さが際立っている印象すら与える。
オリジナルEPの4曲だけでも高音の伸びや迫真のバラードなど、ライヴならではの生きたジェフ・バックリィの唯一無二のヴォーカルを、余計な先入観なしで楽しめる。
2023年もあと1ヶ月と1週間。来年は30周年を迎える1994年リリース作品も多く取り上げるつもりなので、当然ジェフ・バックリィも登場する予定。ということで予告編として本盤を。
完全版である「レガシー・エディション」は2枚組で2時間半とあまりにも長いので、今日はやむなくオリジナル盤の4曲だけをピックアップして聴いてます。
ジェフが歌うと時が止まる。
一気にスピリチュアルな厳かな空気が張り詰め、我々は息を呑んで聴き入るのみ。
本当に特別な才能だと思う。
4曲だけでもしっかりと時間を忘れさせてくれる。