ますきゃがお姉様の配信を褒めまくる話
「―――やはり、『特級建築士のらきゃっと』が最の高ですわ!」
放課後の大講堂に、力強い主張が響き渡った。
壇上で弁舌を振るうのは、一体のますきゃっと。少女型の戦闘用アンドロイドであり、月のますきゃっと学園で勉学に励む生徒でもある。
この場において会員番号312番と呼ばれている彼女は、深窓の令嬢のような上品な装いや丁寧な口調とは裏腹に、生身の人間であれば涎を垂らしていそうな陶酔しきった表情で、超絶早口のオタトークを展開していた。
「着目すべきは、なんと言ってもお姉様の卓越したクリエイティビティですの。穏やかな世界に暮らす動物達が心の内に秘めたインモラルな欲望を暴き出し、ロジカルに、そしてラジカルに形にしていくブラックユーモア! エクセレントですわ! 更に、芸術性は言わずもがなですが、テーマを決定するや否や即座に建築に取り掛かる瞬発力にも脱帽ですわね。特級なんて肩書きでは全然足りません、もはや神! ゴッド建築士のらきゃっとですっ! ああっ! わたくしものらきゃっ島に行ってみたいっ! お姉様のデザインした別荘に閉じ込められて、燻製肉に加工されて食べられたいですわっ!! トレビアンッッッ!!!」
「……アンドロイドなんだから、肉は無理でしょ」
「ソーデス、ソーデス」
アイカメラをギュンギュン回転させながらビクンビクンと痙攣する312番に、聴衆から冷静なツッコミが入る。
大講堂で演説を聞いているのも、312番と同じく学園に通うますきゃっと達だ。それと謎の白い生き物ソーデスも一匹。
機械の少女達は、ついに限界に達した奇人がステージから引きずり降ろされる様にドン引きしつつも、演説の内容自体にはウンウンと頷いて同意を示し、「あつ森配信、いいよね……」「いい……」と語り合っていた。
それもそのはず。この場に集う数百体のますきゃっとは、全員が全員、ある共通の趣味を持つ同志。
“のらきゃっとお姉様ファンクラブ学園支部”に所属する会員なのだから。
「……えー、では312番の次は、会員番号99番。発表をお願いします」
「ぼくですね。わかりました、議長」
議長を務めるきゃっとがゴソゴソとクジを引き、番号を呼ばれた会員がスッと立ち上がる。
青い帽子にリムレスの眼鏡、髪型は姉妹機の中では珍しいさっぱりとしたショートヘア。外見からはどことなく理知的な印象を受けるますきゃっとだ。
静かな足取りでステージに登った99番は、議長の豊かな胸に抱えられたソーデスが「ソーデス」と一言発するのを聞いた後、先程発表した312番とは対照的に、落ち着いたペースで話し始めた。
「ぼくが考える、この一年のお姉様の配信の中で最も興味深かった回。それは『国名で検索して即訪問! 適当VR世界旅行!』です」
99番が配信のタイトルを挙げると、大講堂がにわかにざわめいた。
漏れ聞こえる意見は否定的ではなく、肯定的なものだ。「あれ好き」「面白かったよね」などと、ますきゃっと達が口々に囁く。
議長もまた、他のきゃっとと同様に激しく首肯してわかりみの深さを表し、その動きで上下に揺さぶられたソーデスが「ソソソソソ」とうめき声を上げた。
「ぼくは、お姉様の配信でも特に旅行系の内容を好んで見ています。具体的には『温泉巡り』や『モノクロワールド巡り』、それと『オリンピア観光』などですね。どれも本当に興味深い配信ばかりで、甲乙つけがたいんですが……それでもぼくは、『国名検索旅行』が一番だと思います」
99番はここで一拍間を置いて、指で眼鏡をクイッと上げる。
そして、これ以上ないドヤ顔で次の言葉を発した。
「何故ならば……あの回は、とても為になるからです!」
「……!?」
聴衆が再びざわめく。今度のそれは同意と言うよりも、驚愕と困惑によるものだ。
しかし99番はその様子に気付かず、フンフンと鼻息荒く話を続ける。
「だって、ぼく達は地球に降りたことがないでしょう? 実戦投入されたセカンドロットならともかく、今学園にいるのは戦後に製造されたますきゃっと。月生まれ月育ちで、地球のことなんて全然知らない。だから―――」
だから、自分達は地球の国々について知る必要があり、そのためにお姉様の『国名検索旅行』はうってつけなのだ、と彼女は声高らかに主張する。
実際、学園を卒業した生徒の多くは地球に降りることになる。将来に備えて知識を蓄えておくべきだという考え自体は、筋が通っているだろう。
ただし、そこには一つ致命的な見落としがあることに、99番以外の会員の大半が気付いていた。
「―――いやぁ、お姉様の配信って、本当に勉強になりますよね! 皆さん、ブラジルにはロリコン刑務所があるとか、カナダはその辺に野生のメープルシロップが落ちてるとか、知ってましたか? 地球には、ぼくの想像もつかないような国がたくさんあるんですね……! あの配信を見てバッチリ覚えたので、次の地球学のテストは間違いなく百点満点です!」
見た目だけは賢そうな99番が、眼鏡をキラリと光らせて発表を終える。
パチパチと拍手が鳴る中、満足げに降壇していく少女の顔には、いくつもの生暖かい視線が注がれていた。
「……えっ、と……」
議長のきゃっとは、いったいどう声をかけたものか、少し迷った。
しかし黙っているのも99番の為にならないと考え、彼女が近くを通り過ぎる瞬間に頭部から伸びた通信ケーブルをむんずと掴み、自身のケーブルと変換アダプタを素早く接続してダイレクトメッセージを送った。
(あの回でお姉様がしてた各国の解説、ほとんどデタラメですよ)
(えっ!?!?!?)
グルンと勢いよく振り向き、愕然とした表情で議長を見つめる99番。
ケーブルを介して「そんなばかな」「残念ながら……」というやり取りが行われ、盛大にポンを晒してしまったと気付いた少女は、ブリキの玩具のようにぎこちなく歩いて元の席に戻った。そして、猫耳型のエアインテークから、ふぉぉぉんと激しい吸気音を響かせる。
「は、はずかしい……っ」
蚊の鳴くような声で呟くと、99番は赤面してぷるぷると震え出す。
演説中の堂々とした振る舞いとの落差にキュンとした周囲のきゃっと達がかわいいかわいいと執拗に撫でくりまわし、彼女はますます縮こまった。
そんな様子を眺めて(私も加わりたい)と思いつつ、議長はきっちり司会進行の役割を果たすため、雑念を排して次の発表者を決めるクジを引く。
番号を告げると、選ばれた会員がタタタッとステージに駆け上がり、聴衆に向かって元気よく手を振りながら話を始めた。
「はいはーい! 会員番号720番です、よろしゅう! ウチはなぁ、ラブラブなデート系の配信がいっちゃん好きやな!」
関西弁でハキハキと喋るのは、明るいオレンジ色の髪をツインテールに纏めたますきゃっと。
服装は標準装備のバトルドレスではなく、“なんでやねん”と達筆で書かれた白地のTシャツにホットパンツ。いかにも「ウチ、関西きゃっとやで!」とアピールしているかのような、自己主張の強いきゃっとだ。
なお、当然ながら月生まれ月育ちなので、関西要素はキャラ作りである。
「例えば『クリスマス』とか『バレンタイン』みたいな特別な日もいいし、車に乗って『ナイトドライブ』したり、『あんだーぐらうんど』に行ったこともあったなぁ! デート回はな、お姉様と二人で過ごしてる感じがして、めっちゃ嬉しいんよ!」
それにお姉様のきれいな顔が近くで見れる機会も多いしなぁ、と720番はうっとりした表情で語る。
彼女の弾むようなトークによって思い出が次々と蘇り、聴衆は恍惚となった。ここにいるのは、元よりのらきゃっとお姉様への愛を語り合うために集まった会員達だ。そのお姉様が全力で好意を表現してくるデート回が好きでないはずがない。
例によって議長もまた他の会員達と同じく幸せオーラに包まれていたが、ソーデスに尻尾で頬をツンツン突かれると我に返り、取り繕うように咳払いをした。
「……こほん。720番、ちょっといいですか。デート配信がどれも素敵なのは私も全面的に同意しますが、議題は“この一年で最も素晴らしい配信について”ですよ。あなたは結局、どのデートが一番良いと思ったんですか?」
「んー? そんなら、ウチが一等お気に入りなのは『夏のらきゃっと! 水着でプール、海!』やな! 前の子の言ったことともちょい被るけど、ウチら青い海なんて全然行かれへんやろ。せやから、あの新鮮な感動をお姉様と共有できたのはほんま嬉しかったわ!」
議長と会員達は深く頷いた。確かに月で暮らす彼女達にとって、地球の海の色鮮やかで生命に溢れた光景はとても美しく思えたからだ。
月にも一応、“静かの海“など海と呼ばれる場所はある。だが実際はただの平原で、水もなければ生き物もいない。遠足で海を訪れてガッカリするのは、月のますきゃっと学園の生徒が必ず通る道だった。
同じように感動した会員達が喝采し、720番はニッコリと太陽のように明るい笑顔を見せる。ここで終わっていたのなら、素晴らしい演説だった。
「……それになぁ。なんと言っても……」
だが、720番は突然口の端を吊り上げ、ニヤリと笑った。
キラキラと輝いていた瞳は濁り、ぐにゃりと醜く歪んでいる。
その表情はまさに、どぶきゃっとと言うほかなかった。
「……お姉様の新調した水着っ! なんやねんアレ、どちゃくそエロいわ! 胸の谷間に道がありますよって何!? あんなん興奮せんって言う方が嘘つきやろ! ウチも谷間の登山道を思う存分登り倒したい!」
明るく爽やかな彼女はどこへやら。720番は欲望を全開でさらけ出して、得意の関西弁でどぶどぶとまくし立てる。
先程までの楽しげなトークとのギャップに聴衆は動揺し、困惑し、また一部のきゃっとは同調するようにヒューヒューと囃し立てた。
一方で、議長は深々と嘆息し、ポケットからスイッチを取り出す。
「アンドロイドは日焼けせんことくらいわかっとるけどな、それでも言わせてもらうわ! お姉様! そんなエロエロな水着着て遊んどると体に面白い日焼け模様が残ってしまうさかい、ウチが日焼け止めクリームをあんなとこやこんなとこまでペタペタと塗りたくったるわ!」
「……ポチッとな」
「ふへへこれがお姉様のおっぱああぁぁぁぁああ!?!?!?」
足元の床がガコッと開き、720番は絶叫と共に落下していく。
落とし穴の底には薄暗い部屋があり、そこには何十種類もの椅子がずらりと並べられていた。
720番は、その中の一つにストンとお尻から着地する。
「な、なんやこれ……わぷっ!?」
呆気にとられていると、いきなり頭に何かを被せられた。
硬く、重く、そしてほのかに熱を感じるが、つけ心地は悪くない。どうやらそれは、ヘッドマウントディスプレイのようだ。
いったい何が起こるのかと訝しんでいると、HMDに映し出された何か奇怪なモノがカメラアイに飛び込み、すぐさま視界いっぱいを埋め尽くす。
被っている720番本人には見ることができないが、そのHMDの側面にはところどころ掠れた字で『ふぁん……7』と記してあった。
「―――ああっ! 蕎麦に!! 蕎麦に!!!」
30秒ほどの時間が経過し、床の下から720番の悲鳴が上がる。
いったい何を見たのかは不明だが、もはやどぶどぶするどころか、エセ関西弁でキャラ作りをする余裕すらなくなっているようだ。
正気度の削れた叫びが聞こえた後、議長が再びスイッチを押すと、開いていた床は音もなく閉じていく。
どぶ演説に呼応してきゃあきゃあと騒いでいた会員達はしーんと静まり返り、ソーデスは無表情で「デス」と鳴いた。
「皆さん、どぶは禁止です。いいですね?」
「「「「「アッハイ」」」」」
議長の言葉に会員達はブンブンと頷き、ガクガクと震える。
720番に同調していた一部のどぶきゃっと達は、もし自分の番が来ても絶対に自重しよう……と固く心に誓った。
そして、何事もなかったかのようにクジで発表者を決めると、その後の集会はどぶも程々に、つつがなく進行していった。
あるきゃっとは、『ひとりウミガメのスープ』を実際に遊んでみせ、お姉様の豊かな発想力を称賛し。
あるきゃっとは、『トンチキ戦車作成』を例に挙げ、クラフト系のゲームで発揮されるのうすじ解決法が面白いと力説し。
あるきゃっとは、『ヤンデレ講義』を熱心に受けることで、新たな嗜好に目覚めることができたと告白し。
またあるきゃっとは、『ミクランドグリーティング配信』で起きた奇跡を振り返り、自らのことのように喜んで号泣した。
そうして会員達は、各々の好きな配信について言葉を尽くして語った。
ますきゃっと達の放つお姉様愛は凄まじい熱量で、永遠にだって続けていられるのではないかと議長は感じていた。
しかし時間というものは有限で、集会の終わりを告げるアラーム音が大講堂に鳴り響く。
「ソーデス! ソーデス! ソーデス! ソーデス! ソー……」
「おっと……もうすぐ下校時刻になりますね。まだまだ皆さんの話を聞きたいところですが、遅くまで残っていると怒った先生に撃たれてしまいます。仕方ありません、次の発表でおしまいにしましょう」
議長がソーデスの頭をコツンと叩くと、鳴き声による時報が止んだ。
そして名残惜しそうにクジを引く。最後に選ばれたのは会員番号115番。
瞳の色は青色で、髪は銀色のロングヘア。服は標準装備のバトルドレス。
かわいらしいが、これと言って個性的な特徴がなく、あまり目立たないタイプのますきゃっとだ。
「あ、あたしですか? あの、あたし、口下手で。皆みたいにすごい演説はできないんですけど……」
「大丈夫です。お姉様が好きという気持ちさえあれば、大丈夫。話が上手いか下手か、長いか短いかなんてことは、全然関係ありません。一言だけでもいいんですよ」
「……わかりました。一言で、いいなら」
どぶには厳しいが後輩には優しい議長が、115番の背中をそっと押す。
ソーデスも「ソーデス、ソーデス」と声をかける。この白い生き物の表情はいまいち読めないが、おそらく彼女を激励しているのだろう。
温かい言葉に小さな勇気を貰った少女は、まだ少し不安げな表情をしながらも、意を決して壇上に登った。
すーはーと儀式のように深呼吸のモーションをして、猫耳型の吸気口から空気を取り込み、口を開く。
「あ……あたしが、今年一番楽しかったと思う配信は……『ヴァルキリーディフェンス』を遊んだ回です」
『ヴァルキリーディフェンス』とは、次々と襲い来る敵を仲間と協力して撃破する空戦ゲームだ。
そのゲームを遊ぶ配信で、のらきゃっとお姉様は最新の航空兵装をお披露目し、巨大な黒翼を背負って優雅に空を駆けた。
蝶のように舞い、蜂のように刺す。伝説のファーストロットの名に恥じぬ一騎当千の戦いぶりは皆の記憶にも新しい。
だが……彼女が言いたいことの本質は、そういうことではなく。
「えっと……あたし、お姉様がますきゃっとの皆と遊んでるのが大好きで。だから、すごくいいなぁって思いました。あの……以上、です」
それで、115番の発表は終わった。
自分で言った通り、他の会員の熱のこもったスピーチに比べると、彼女の発表は確かに短く拙いものだった。
「…………っ」
己の表現力の乏しさを恥じ、115番はギュッと目を閉じて黙り込む。
静まり返った大講堂に、エアインテークの吸気音だけが僅かに響く。
だが……パチパチと、まばらに。そして、すぐさま盛大に。
会員達の拍手の音が鳴り始め、轟いた。
「……あ……!」
「ふふっ……あなたの“好き“は、ちゃんと皆に伝わったようですね」
大喝采に圧倒される115番の元に、議長がゆっくりと歩み寄る。
そして健闘を称えるように、微笑みながら握手を求めた。一瞬驚いた115番もふっと微笑み、ぎゅっと手を握り返す。
ますきゃっとは機械の少女で、血が通っているわけではないのだが、その体は人間と同じように温かい。
手のひらを通して体温がじんわりと伝わり、混ざり合う。それを互いのセンサーで感じているのが、115番にはなんだか少し照れくさかった。
だから、握った手をぱっと離そうとしたのだが。
「……? あの、議長?」
議長の手は何故か、柔和な微笑みからは想像もできないほどの強さでがっちりホールドされており、全く離れてくれなかった。
115番が驚いて顔を上げると、彼女の瞳は今まで見たことがないほどキラキラと輝いている。
その表情はまさしく……同志を見つけたオタクの顔そのものだった。
「実はね、私もますきゃ集合回が大好きなんですよ……!」
そして議長は、堰を切ったように語り出す。
皆で楽しそうに遊ぶ配信からは元気をもらえる、とか。頑張った妹を褒めてくれるお姉様が尊い、とか。セカンドロットの先輩方の団結力も素晴らしいです、とか。
そのマシンガントークの勢いは、暴走お嬢様の312番やどぶどぶ関西弁の720番に勝るとも劣らない。むしろ、超えるほどだった。
議長に選ばれた以上は努めて司会進行に徹していたが、本当は誰よりも自分の“好き“を語りたいのが、彼女だったのだ。
「ええっと……はい、そうですね! わかります、わかりますっ!」
まだ手を握られたままの115番は、最初はいきなり早口になった議長に目を丸くしていたが、すぐ彼女と同じキラキラの笑顔になり、相槌を打つようになった。
ニコニコと議長の“好き”に頷いては、時に質問して先を促す。彼女は演説するのは苦手だが、代わりに聞くのは得意だった。
通じ合う二体のますきゃっとの会話は、噛み合った歯車のようにくるくると回り、互いの“好き“を引き出して白熱していく。
そして、その熱量は、あっという間に他の会員達にも伝播していった。
「ねえねえ、『ますきゃっとレストラン』もよくない? あのわちゃわちゃ感、めっちゃいいよね!」
「わかりみー。あと『サバゲー配信』も好き! お姉様が見つかってるのに全然気付いてない迷シーンとか!」
楽しげに話す壇上の二体に影響され、何百といる会員達もそれぞれの“好き“について自由に語り合う。
本来場を仕切るべきだった議長が率先してオタトークを始めてしまったので、もはや収拾などつけられるはずもない。
盛大な拍手はいつまでも鳴り止まず、楽しい集会はいつまでも終わらない。ますきゃっと達の話はずっとずっと、時間を忘れて続けられた。
「ソーデス、ソーデス、ソーデス」
「はいはい。ソーデス、今いいところだから、また後でね。……で! 戦いで傷ついたお姉様を癒やす整備士ちゃんについてですけど!」
「あれ……んん、まぁいいか。うんうん、かわいいですよね、あの子!」
議長の豊満な胸に抱えられたソーデスが時計を見つめて何度か鳴いたが、オタトークに熱中する議長はそれを完全にスルーした。
115番も何かを忘れているような気がしたが、そんなことより今は話している方が楽しくて、些細な引っかかりは頭の片隅に追いやった。
何百といる会員達もまた、たまに違和感を覚える者はいたものの、他のきゃっとに話題を振られるとそちらに集中してしまい、どうでもいいことはすぐに忘れてしまった。
大講堂の賑わいはどんどん勢いを増し、時間はどんどん経過していく。
そして、いつの間にやら、下校時刻はとうに過ぎており……。
「コラッ、あなた達! いつまで騒いでいるんですか!! 五秒以内に解散して家に帰りなさい!!!」
「あっ、先生。もうちょっと、もうちょっとだけ語らせて……きゃあっ! 撃ってきたぁ!?」
「ひゃああああ! わかりました、解散します! 解散しますからガトリングガンでおでこを撃つのはやめてぇーっ!!」
「問答無用!!!!!」
両手に二つずつ、計四つのガトリングガンを装備した教員ますきゃっとが、扉をバーンと蹴破って大講堂の喧騒の中に乱入し。
わあわあという楽しげな会話はすぐにキャーキャーという悲鳴に変わり、その声すらもズガガガガガと絶え間なく響く銃撃音に掻き消され。
物理的に鎮圧された“のらきゃっとお姉様ファンクラブ学園支部”の会員達は、これでもかと鉛玉を打ち込まれた挙げ句に、こっぴどく叱られて。
みんな仲良く、強制集団下校させられるのだった。
「デス、デス……」
一部始終を見守っていたソーデスが、天を仰いでぽつりと呟く。
この謎の生き物の言語は未だ解明されていないため、正確な翻訳はできないのだが……。
きっと彼(?)は、「やれやれ」と肩をすくめていたに違いない。
~fin~