小学校中学年の記憶②

小学4年生の時に担任になった先生は、その後6年生まで3年間担任だった。小4の時に別の学校から赴任してきた男のおじさん先生だったが、昔やんちゃしていたような雰囲気がある先生で、とても可愛がってもらったし、他の大人とは少し違う野生味と人情味のあるその先生のことを俺もとても好きだった。ここではその先生のことをコバヤシ先生と呼ぶことにする。

コバヤシ先生が担任になってから初めての遠足で、どこか公園のような場所に行った。すると他校の5年か6年の生徒も遠足でその場所に来ており、なんとその学校はコバヤシ先生が去年までいた学校で、偶然にもコバヤシ先生が担任をしていた生徒達だったのだ。予期せぬ再会に盛り上がる子供達。学年は違えど共通点ができたことで一部生徒間で交流もあったようだ。俺はというと「他校の高学年の生徒」というだけでなんだか怖かったので、同じように交流を持ちたくない人たちで遠足の時間を別のところで楽しんでいた。というのも同じ学校の2個上の学年には1人のとんでもない悪ガキがいて俺の地元にはそいつを中心に不良に片足突っ込んだような生徒が多くいたこともあり、当時は年上の人というだけで怖かったし、実際にその他校の生徒達も年齢が下の自分たちに高圧的というか偉そうだった印象がある。小学校の時の歳上と歳下なんてそんなもんかもしれないが。(前回の話になるが、当時そんなだった俺が「センコー」なんて言うのは本当に似合っていなかっただろうし痛かっただろう。俺が言われた先生なら叱るよりも先に心配するかもしれない。)

遠足の次の日、生徒達の間である噂が広まった。「コバヤシ先生は前の学校で生徒をボコボコに殴ったからその学校を辞めてウチに来た。」という内容だった。どうやら前日の遠足でコバヤシ先生の元生徒から聞いた話が発端のようだった。今考えたら公立の学校なので数年で先生の異動はあるだろうし、別にコバヤシ先生がやってきたタイミングは他の先生同様に学年度の始まりだったので、十中八九普通の異動だったと思う。でも当時の生徒の間では、コバヤシ先生が出す他の先生とは違うオーラも相まって、その噂は事実として受け入れられていた。

その噂を聞いた俺の反応としては「え、怖い…」だった。そしてそれは、みんなの心をしっかり掴んで人気だったコバヤシ先生に対してみんなが抱いた感情だった。コバヤシ先生が好きだった俺は、悩むほどこのことがショックだったし、先生のヤバい裏の顔を知ってしまったような気持ちになっていた。しかししばらく悩んだ後俺は「これは本当なのか?」とも思うようになっていた。

そもそもこの情報を最初に流した他校の生徒については何も知らないし、それを言っている現場にいたわけでもない。なんならそいつらがコバヤシ先生の評価を下げるためか腹いせなのかは知らないが、嘘をついているかもしれない。仮に本当に殴ったとしたなら、それ相当の理由があったに違いない。でも殴っていたらそれはやっぱり怖い。

こんな堂々巡りの考えをずっとしているうちに、なんだか悩んでいることがバカらしくなってきた。嘘か本当かわからない話に悩むことも、仮にその話が本当だとしてもそれによって先生の見方が変わってしまうことも。

今そこにいる先生から感じた自分の気持ちを信じよう、過去は過去だから。

そういう考えに行き着くまでに結構悩んだと思うが、とにかくそう思うことにした。そうしないとやっていけなかったんだと思う。そしてこれは今思えば「自分の目で見たものを信じる」「過去は気にしない」という今後の人生でも大事になってくる自分の考えの軸が生まれた出来事だったのかもしれない。

結局その噂が本当だったのかは分からないままだったし、しばらくしたら噂そのものも忘れられていたように思う。コバヤシ先生には卒業までお世話になったし、自分にとっては良い担任だった。とてもアツい先生だったので、今思い返せばボコボコとまではいかないがひょっとしたら手を出したことはあったのかもしれない。それでもやっぱり僕にとってはいい先生だったなと思う。

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