アフターストーリー『壊胎』〜琉〜
注意:CoC『壊胎』のネタバレを含む可能性があります。
他者様のPCやNPCを無断使用しております。確認を取れることができず、申し訳ございません。
キャラ崩壊等が起こっている可能性があります。
記憶を元に書いているため、セッションと詳細が違う場合があります。
ロストしたPCを描いているため、死者を冒涜する内容となっている可能性があります。
要望があれば改変します。
問題があれば消します。
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気がつけばタブーの姿は目の前にあった。
『走馬灯』
そんな難しい言葉を琉は知らない。
それでも彼女は20年を思い出す。
初めて風呂焚き当番を1人で任せてもらえた日の喜び。
オオタカに襲われていたキューちゃんを助けた日のこと。
初めて学校へ行った日の緊張。
そして、今日出会った2人の友達との冒険……。
ザラザラと蛇を思わせる緑色の身体が蠢く。
光を反射する雨粒がタブーを刺し、ゆっくりと上がる右腕を静止しているようにも見えた。
ーーダメだったな。
破壊衝動に濁った瞳に捉えられ、琉は身体の力を抜いた。
このまま死ぬ。
不思議と後悔は無かった。
口縄様を倒したようなタブーに、人間が蹴りかかった時点で覚悟なんて決まっていた。
ーーあぁ、でも……。
生臭い風が耳元で唸りを上げる。
目を閉じても、濃厚な死の匂いは消えてはくれなかった。
ーー三上ちゃんに嘘ついちゃったな。
死ぬつもりだったのに、彼女に生きて帰ると伝えたこと。
それが唯一の心残りだった。
雨を切り裂くその一閃は、骨が砕け、肉が弾ける鈍い音を残してゴムボールを打ち上げる。
振り続ける雨が規則的に雑音を鳴らす中、一際大きな水音が一瞬混ざってすぐに消えた。
泥舟の上に怪物を残してヘリコプターは去っていく。
シャーッと叫ぶ声がゆっくり水へと沈み、この戦いは終わりを迎えた。
…………
白い世界。
濃霧が立ち込め、周りの見えないその情景に、琉は似て非なる黒い世界を思い出す。
「死んじゃったんだ……」
両手を見つめ、握っては開いてみる。
いつもと動きに違いはない。だが、確実に生きている時とは何かが違った。
シャーッ
自分を殺した声と似た音がする。
一瞬身体がごわばるが、チロチロと頰に感触を感じて力が抜けた。
「ごめんね、着いて来させちゃったね」
無邪気なアオちゃんは気付いてもらえたことが嬉しいのか、琉の首元でグルグルと回り出す。
撫でるようにその身体に触れる。
もうザラザラとはしていなかった。
『なんで、撃たなかったんですか!』
突然音が灯った。
タブーの時と同じ、気がついた時には桜ちゃんが目の前に居た。
怒ったような顔をしながら、ボロボロとあの日の雨のような涙を垂らしている。
嬉しさがすぐに掻き消え、視線を地面に落とした。
「…………桜さんと帰りたかったから」
言い訳がましい声がぐしゃぐしゃと縮こまる。
怒られるのは苦手だった。
「なんで……琉さんまで」
強いの女性が崩れるように泣く姿。初めて心に後悔が生まれた。
ーーワクチンを撃っても、三上ちゃんと一緒に逃げてもタブーは死ぬだろうから、日本に危険はないはず。
ーーあとは、"僅かな可能性に賭けて死にに行くかどうか"
そう考えた時、彼女に行かない選択肢は無かった。
後悔なんて、ほとんど無いはずだった。
「ごめんなさい」
ーー最後まで、間違えちゃったみたい……。
深く考えない言動をいつも怒られていた。
危なっかしいといつも言われていた。
琉は、俯き加減に頭を下げる。
桜さんが望んでいないこともわかっていたのかもしれない。それでも、自分を優先してしまった。
「ごめんなさい、ごめんなさい」
謝っても謝っても心の奥がドロドロと熱くなってきて、堪えきれなかった。
泣いては行けないのに、涙が止まらなかった。
ハッと息を飲む音がした。
「私こそすみませんでした。琉ちゃんが来てくれて嬉しかったですよ」
ぽんっと頭の上に手を置いて、桜さんが琉の顔を覗き込む。
「でも、自分を大切にして欲しかったです」
その顔は、ぐちゃぐちゃながらも笑顔だった。
「でも、桜さんもタブーになっちゃったし、自分大切にしてない」
「そう、……ですね。じゃあおあいこですね」
顔を上げると、桜さんは先ほどよりも自然な笑みを浮かべていた。
「うん、おあいこ!」
琉も真似をして笑顔になる。
辺りの白が優しく2人を包んだ。
遠くの方にぼんやりと光が灯っているのが見える。
「あっち、ですかね?」
「うん、多分そう」
「シャーッ」
どちらからともなく手を繋ぎ、2人は歩き出した。今度は、一緒に。
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