アフターストーリー『カノヨ街』〜シン〜
未通過×です。
問題があれば消します。
他PLのキャラ名も出てきます。ご了承ください。
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西条光は羨望の的となる人間だ。
道行く大抵の人は彼の名を知っているかも知れない。西条光は今をときめくシンガーなのだから。
そしてその実……世界で暗躍するクラッカーでもある。
ヴィノムスに協力したのは、気まぐれだった。
ーー医療だのなんだのには興味ねぇけど、俺に協力を頼むなんて、見る目あんじゃん。
シンガーとしては輝いていても、クラッカーとしては埋もれている現状に不満があったからなのか、単純に面白そうだと思ったのか、とにかく光はそのプロジェクトに加担した。
そしてーー彼は"気まぐれ"でヴェノムスを裏切った。
大義名分など無い。ただ、自分が知らない所で別プロジェクトが動いていたのが気に食わなかった。
そんな自分勝手な憤怒に突き動かされて、彼は『シン』となった。
ーー自分はこの世界の真相を知っているーー
そんな選民意識で優越感に浸れる日々はそれなりには楽しかった。
真面目なのに意外と面白い黒山羊。
自分をヒロインだとでも思い込んでいる月白。
カマトトぶった黒天狗。
無駄に騒いだ。
作られた世界でヴィノムスを探りながら、普段はできない生活を楽しんだ。
そして、祭りの日が来て、カノヨ街が崩壊し、光は目的を達成した。
今は、以前に増して輝かしい日々を送っている。
『消息不明のシンガー、奇跡の復活』
このチャンスを逃さず、一躍時の人となった。
カノヨ街でのハッキング経験で技術は向上し、クラッカーとしても、以前より充実している。
認められた。
余るほど金が入ってくる。
これはいつか夢見た生活だ。
「でも、なんで満足してねぇんだろうな」
PCチェアに寄りかかり、頭の上で手を組む。
椅子の揺れは心地よく、意識が少し白くなる。
PCだけが輝く部屋で、独り言だけ寂しく木霊した。
現実の黒天狗に会いに行った。
カノヨ街とは似ても似つかない男の死体が転がっていた。知らないはずなのに、確かに彼は黒天狗なのだと分かった。
しかし、何の感情も湧かなかった。
所詮は仮初だ。黒天狗も、月白も、黒山羊も全ては作り物に過ぎない。
あいつらに現実があろうと、光には関係のないことだ。
ーー俺はもうシンじゃねぇんだから。
閉じていた瞼を上げる。
ーー戻ってから、黒天狗を殴れなかったな。
これはただの心残り。自分が言ったことを実現できなかったのが、悔しいだけ。
月白や黒山羊がもうこの世に居なかったとしても、もう関係は無い。
ーー俺は、西条光だ。
だが、もし最後にシンとして彼らに言うことがあるとしたら……。
「まぁ、楽しかったよ。ありがとな」
彼が誰として生きたかったのか、それは誰にも知る由はない。