バタフライエフェクト①
うまくまとまるかわからないが、
これは簡単に言うと、45歳の私が恋に堕ちた、という話だ。
始まりは、2022年7月。
学生時代の男友達が、偶然うちの店にやってきたこと。
20年以上会っていなかった懐かしい顔に戸惑ったものの、強烈に他のみんなにも会いたくなった。後日あらためて、少人数で遊んだ。とても楽しかった。
2022年10月。
男の子たちが今度はいつにする?あいつも誘うよと日にちを先に決めて、
じゃあ店はどうしよう?お前に任せる、OK等々、順調にラインでやり取りをしていて‥
私は仕事が終わるか微妙なので、出欠保留のまま、それを見守っていた。
「20時にどこ集合する?」と言っていた。
当日。私は急いで仕事を終わらせて、車で田舎道を飛ばし電車に飛び乗って、繁華街へ向かった。「私も行くよ」と伝え、合流しようとした。
ところが、誰とも連絡がつかない。
あ。。。。やられた。。。と思った。
急速に気持ちが冷えていくのがわかった。
べそかきながら、そのまま家に帰る?
冗談じゃない。馬鹿野郎。
その日の私はなぜか、よーしやってやる!という気持ちになっていた。
1度だけ行ったことのあるモルトバーへ、1人入ってみることにした。
チリーン とドアベルが鳴った。
カウンターは満席に見えて、ほんの一瞬だけど全員がこちらへ視線を向けた。ドキッとする。やっちまったかな?wと思った。笑
マスターは快く、奥へどうぞと勧めてくれた。
1人呑みの男性が2人いて、その間に座らせてくれた。
少しドキドキしながらオーダーを済ませ、マスターにちょっとだけウイスキーのことを聞いて、「美味しいです」とホッとしたところで、片方の男性が優しく話しかけてきた。
言っておくが私は気難しい。顔も怖い。
彼もまた、1人呑みがよく似合うが、社交的なタイプには見えない。
それでも話しかけてくれた理由って、なんだったのだろう。
私は話しかけずにはいられないほど、寂しそうだっただろうか。それともソロが板についていて、話しかけやすかっただろうか。
とにかく、とても沢山話をした。
ドタキャンされたようだ、という話をきっかけに、このまま帰るのは悔しかった等々、自分の気持ちを素直に聞いてもらった。
生まれて初めて1人でバーに入ったと言ったら、彼はいつも1人だが、初めて他人に話しかけたと言っていた。
そして朝まで飲んだ。
印象に残っているのは、とても疲れて人恋しくて、やっとの思いで辿り着いた、そんな私に彼が言った言葉だ。
「友達に会えないのは気の毒だけど、僕には天使が来た気がする」
私はとても疲れていて、なんの希望もなく生きていて、ちっとも美しくなんかなかったのに。
しかも友達にフラてひとりぼっち。これ以上カッコ悪い姿もないと思うのだが。
それでも彼には私が天使に見えた。視力が悪くなる酒を出したのマスター?
とにかく私は、嬉しかった。
もう一つ印象的だったのは、「怒っていいと思う」という言葉だ。
「誰とも連絡がつかなくてエヘヘ」とヘラヘラ笑ってる私に、怒っていいと思うと彼は言ったのだ。
私は、怒っても良いのだろうか?
このことも、アノことも、怒ってよかったの?怒ってよかったんだね。
友達のこと、失くした恋のこと、仕事のこと、上司のパワハラ、家族のこと
今日のハプニングに限らずだ、と感じた。
そうだ。私は傷ついていたんじゃない。怒っていたのだものすごく。それも長い間。
偶然出会ったその人に、大きな気づきを与えてもらった。
そして、カンカンに怒り出した。
怒ると言っても、イメージでいいのだ。他人と喧嘩することではない。
私の中にパンパンに詰まった怒りの感情を全て押し出し、大好きでいっぱいにする、そのイメージを強く持って、選択をし、行動をする。それだけのことだ。
誰かに心揺さぶられ、変わろうとする自分が愛おしく思えた。
私が私として生まれ、今日まで誰にも動かせなかった心のどこかが、コトリと動いた気がする。その証拠に、私はみるみる変わっていった。
彼とはその後1回だけ、食事に誘われ、ドライブもした。
お酒がなくても彼は素敵で、思いやりがあって、心地よい人だった。
彼は私に沢山質問をした。まるでお見合いでもしてるかのように。
自分の家族のこととか聞かせてくれた。決して自分をよく見せようとはせず、そのままに話すところは素敵だ。
さりげなく、特別な信仰もないと言った点は、ご時世だなあと思ったし言いにくくても必要ならちゃんと言うよ聞くよって性格は、長所だと思う。
質問の多い人だなという印象だけど、彼が私を受け入れる為に沢山調べる必要があるなら、真摯に向かい合って、応えて行きたいと思う。
面倒に巻き込まれるのも傷つくのもごめんだよって、恋が始まる前に確認しておく姿勢は、人によっては無礼に思うだろうが、私にはとても好ましく感じられた。
「出会った所からすべて、何かの伏線じゃないかと思って。。。」と言っていた。
盛大に騙されたりするんじゃないかと。そんなことを言っていた。
だってあまりにも、出来すぎているからだ。
幼少期、同じ街に住んでいたこと、同じプールに通っていたことがまず1番の奇跡だ。
近所の公園ですれ違ったこともあったに違いない。
小さい時から既に、私は彼のそばに存在していたのだ。
そして30代半ばまで働いたホテルも、彼の職場のすぐ近く。
私は毎日毎日、未来に出会うその人の近くを、雨の日も雪の日も行ったり来たりしていたことになる。
ただ一つ、恋のことは聞いてこなかった。
それからずーっと会えていないが、今日までずっと、私の中には彼がいる。
徒歩圏内に大嫌いな会社があって、遠い遠い別の街に彼がいる矛盾に耐えられなくなった。
大好きと大嫌いの置き場所を変えることに決めた。
仕事を辞め、彼がいる遠い街へ、引っ越すことに決めた。
これは、死んだように生きていた私が、もう一度生きてみたいと立ち上がった、最初で最後の冒険だろう。
会いたくてたまらないけど、連絡はしていない。
黙ってそっと、12年勤めた職場を捨てた。彼がいる街に引越してきた。
いつか私を思い出してくれたなら、直接それらを報告したい。
生きる希望をくれて、ホントにありがとうと伝えたい。
同じお天気を感じられるだけで、いま私は十分に幸せだ。
そういえばあの人元気かなあ?って、彼はいつ私を思い出してくれるだろうか。