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【ニンジャ自由研究】アマクダリ"再定義"の謎

この記事はダイハードテイルズが開催するニンジャソン2023夏への応募作です。


ニンジャスレイヤーのトリロジー最終章におけるクライマックスを担った、アマクダリ・セクトの再定義。これまでコメンタリーなどで断片的に情報が明かされ、アマクダリが何をしようとしていたのか、漠然とした全体像と目的は見えてきたものの、具体的にどの様な手段で「再定義」を成し遂げようとしていたのかはトリロジー本編を読むだけでは把握するのが実際困難です。

かねてからその仕組を謎に思っていところに「インタビュー・ウィズ・ニンジャ PLUS版(49)で新情報が明かされ、混乱し始めた頭を整理しようとこっそりと書き溜めていた考察メモ。この記事ではそのメモの内容を再編する形で、再定義に関連する情報を原作/資料集/コメンタリーから収集し考察をおこなっています(ながいです)。

テーマ:アマクダリの"再定義"って実際なんなの?

ながいので結論だけ読みたい方は目次から「まとめ」にジャンプしてください。

前提情報

Y2K前後の出来事は情報が分散しており、全体像を捉えるのがなかなか大変であるため、ここではまず全ての大前提となる「インターネットとはなにか」「Y2Kで何が起きたのか」について、原作の描写や設定資料/コメンタリー(N-FILES、シャード)から読み解ける背景事実を要素ごとに整理する。

どうしても公式に明言されていない要素については、既存の情報から推測できる内容で仮定することで紐解きを行う。


インターネットとは

※インターネット/電子インターネット/電子ネットワーク/IRC電脳空間はそれぞれ同じものを示していると考える。

人々はUNIXを繋ぎ合わせて、インターネットという名前の紛い物を作りました。ずっと昔からあった、電子ネットワークの紛い物。その大部分は、メガトリイ社が自分のものにしました。

【スルー・ザ・ゴールデン・レーン】

〈鷲の一族〉とメガトリイ社の主導により、オヒガンの七階層構造を模した電子的インターネットとIRCシスタムが産声をあげる。経済規模の拡大によって暗黒メガコーポ群がさらに勢いを増し、国家を背後から操り始める。

ディスカバリー・オブ・ミスティック・ニンジャ・アーツ(7)

魂がオヒガンやキンカクへと至るまでの門の数は、流派やプロトコルによって多少の差異があり7、9、12などの数が一般的である(この中では7と9が最も有力なものであり、ニンジャスレイヤー世界のインターネット技術もそれを模倣する形で成り立っている)。

N-FILE【キョート・ヘル・オン・アース:急:ラスト・スキャッタリング・サーフィス】 後編

電子インターネットはオヒガン(≒コトダマ空間)のネットワーク構造を模倣して、メガトリイ社によって作られている。7階層からなるOSI参照モデルは、オヒガンの7つの門と対応していることが語られている。


電脳空間に大量のコトダマが溢れ蓄積されてゆく。〈鷲の一族〉とメガトリイ社の意に反して、電子的インターネットとオヒガンの小規模なオーバーラップが密かに始まる。その観測が行われないまま、電脳IRC空間の奥底で綻びは次第に大きくなってゆき、Y2Kカタストロフィを迎えた。

ディスカバリー・オブ・ミスティック・ニンジャ・アーツ(7)

その構造の近似性からか、誰も予想しなかったことに、誕生した電子インターネットとオヒガンの重なり(オーバーラップ)が発生し始めてしまう。

これによって、オーバーラップした電子ネットワークを通じて、オヒガンからエテルがUNIXに流れ込むようになった。あるいは流れ込む経路ができてしまったと考えられる。


Y2Kで何が起きたのか

西暦が2000年に切り替わると同時に、世界各地のUNIXが演算オーバーフローを起こし連鎖爆発を起こした。これによりオヒガンとIRC電脳空間に大規模なオーバーラップが発生。エテルの流れに変化が生じ、再びオヒガンからのエテル流入が勢いを増す(立ち枯れの時代の終わり)。さらにフジサンの噴火、磁気嵐の発生、小規模なポールシフトなど、壊滅的な天変地異が世界を覆う。

ディスカバリー・オブ・ミスティック・ニンジャ・アーツ(7)

Y2Kカタストロフィにおいては、2000年問題(Y2K問題)によるUNIX機器の演算オーバーフローが連鎖爆発を引き起こした。このとき、UNIX機器に流入していたエテルが行き場をなくし爆発を起こしたものと考えられる(これはニンジャの爆発四散と類似した現象ではないかと思われる)。



サツガイに与えられたジツ。オヒガンを物理世界と衝突させ、その歪みから核融合じみたエネルギーを作り出し、爆発させる。爆発に伴い、被害を受けた物理世界にはエメツ結晶が析出する。

ニンジャスレイヤーカードAOM-0028【エゾテリスム】

別の可能性として、物理世界とオヒガンがオーバーラップした(ないし過剰リンク状態になった)ことを理由に、最終的な物理世界へのエテル流入口であったUNIXを着火点として、「オヒガン・ボム」のような反物質化と対消滅が起きたとも考えられる。

エメツはオヒガンと現世の衝突によって生ずる析出物であるから、その生成原理をさかのぼって、オヒガンと現世のリンクを作り出す事もできるわけだ

インタビュー・ウィズ・ニンジャ PLUS版(38)

ただしニンジャスレイヤーのトリロジー世界(1~3部)ではエメツ結晶の産出などは全く見られず、技術もアマクダリが限定的に用いるのみに留まっていたことを考慮すると、この説は弱い。オーバーラップ状態が深まったのもY2Kカタストロフィ以降の話だ。


だが逆に、相性の悪い茶器を共鳴させてしまったり、配置のバランスを失したりすると、際限のないエテル流入やループ現象を引き起こしてしまい、茶器を破損してしまったり、チャドーに臨むものたちの精神を破壊したり、最悪の場合には爆発現象を引き起こすという。

ディスカバリー・オブ・ミスティック・ニンジャ・アーツ(19)

同様の現象は、茶器を用いたチャドー儀式によるエテルの取り込み(あるいはジツ、カラテの一時的な強化)においても見られる。


チャドー儀式における茶器とは、ハッカーたちが用いるUNIXと同じ働きを持つといって過言ではない。ハッカーがLAN直結したUNIXでコトダマ空間に精神をダイヴさせるのと同様、電子文明が発達する以前には、自らの精神をオヒガンへとフォーカス投射するために必要な祭具として、茶器が用いられたのである。

ディスカバリー・オブ・ミスティック・ニンジャ・アーツ(19)

茶器≒UNIXであると考えられるならば、Y2KカタストロフィによるUNIXの連鎖爆発は「Y2K問題によりUNIX機器が誤動作を起こした(≒配置のバランスを失した)」ことで「際限のないエテル流入やループ現象」が起き「爆発現象」が引き起こされたとするのが自然である。

世界中すべてのUNIXが爆発現象を引き起こしたわけではないことも、爆発現象が「最悪の場合」の事象であることを考慮すると辻褄が合う。



Y2Kが生み出した超自然の傷

「物理世界とオヒガンのオーバーラップ」が生じたY2Kカタストロフィにおいても、2つの世界を貫く超自然の〈傷〉が形成され、そこからいくつものニンジャソウルが降り注いだと考えるのが自然であろう。その座標こそが、爆発的に増大した全てのIRCトラフィックの集束点、すなわち崩落せしメガトリイ・アンテナの上空である。

(中略)この事実を知る者はリアルニンジャでさえほとんどいないが、〈傷〉は薄い膜のようになって、Y2K以降もそこに残されたままである。

シャード・オブ・マッポーカリプス(38)

INWのフブキ・ナハタ女史が近年発表した「ネオサイタマにおけるエテル流入量定量分析の研究」によれば、おそらくはY2Kカタストロフィを契機とし、物理世界に流入するエテル量は再び増大を始めているという。

ディスカバリー・オブ・ミスティック・ニンジャアーツ(20)

実際のところ、Y2Kカタストロフィ時には瞬間的に凄まじい量のエテルがオヒガンから物理世界へと異常流入し、電子機器のサーキット回路を駆け巡った。

N-File【ダークサイド・オブ・ザ・ムーン】

Y2Kカタストロフィによる連鎖爆発により、物理世界(=電子インターネット)とオヒガンの大規模なオーバーラップが発生。さらにメガトリイ・アンテナの上空に2つの世界を繋ぐ超常的な〈傷〉が生まれたことで、物理世界に流入するエテル量が増大。ニンジャソウルのディセンション増加にも繋がった。


これらを読み解いてゆくと、Y2Kカタストロフィに伴う一連の事象は次の順番で発生したと考えられる:

1)2000年問題により、各地のUNIXが演算オーバーフローを起こす。

2)流入していたエテルの無限ループなどによりUNIXが連鎖爆発を起こす。

3)IRCトラフィックを辿り、その集束点であるメガトリイ・アンテナに超常の爆発エネルギー(エテル)もまた収束する。

4)収束した超常の爆発エネルギーにより、メガトリイ・アンテナの上空に〈傷〉が生まれる。

5)〈傷〉が誕生したことにより、物理世界とオヒガン/キンカクとの論理的距離が縮まり、オーバーラップが大規模化する。

6)〈傷〉からの流入も原因として、物理世界へのエテル流入量が増加し始める。


〈傷〉とは何か

この秘密を知る者は極めて少ないが、Y2Kカタストロフィは単なる電子的および人為的な災害ではなく、「オヒガン」と呼ばれる超自然領域とIRCネットワークとの間に、大規模な「傷」あるいは「エテルの風穴」とでも表現すべきオーバーラップポイントが生じたために起こった、複合的な災害であった。

ニンジャスレイヤーTRPG2版『ハッカープラグイン』

「エテルが収束したメガトリイ・アンテナの上空に生まれた」「出現でオヒガンとの論理的距離が縮まった」という事実を考慮すると、〈傷〉は「物理世界とオヒガンのオーバーラップが極めて強い場所」であるものと考えられる。


 間もなく山岳地帯へ。吹雪が止む。ダイアウルフの鋭いニンジャ視力がベースを捉える。黒い山肌に築かれた秘密電波塔と、南西を向いたまま半壊して動かない超巨大パラボラアンテナ。その鏡面には、死して久しい暗黒メガコーポ、メガトリイ社の紋章……すなわちフジサン頂上に聳え立つ赤鳥居が。 

【ダークサイド・オブ・ザ・ムーン】

しかし、メガトリイ・アンテナそのものはY2Kで半壊しており、現状の電子インターネットの通信網には既に接続されていないものと思われる。
 ただし超自然領域とIRCネットワークとの間に生まれたのが〈傷〉であるならば、〈傷〉は超自然のインターネット・トラフィックの経由地点として、メガトリイ・アンテナなしに従来のネットワーク網に接続している可能性がある。

つまり、少なくとも、従来メガトリイ・アンテナにトラフィックを送信していた通信基地群(UNIXサーバー群)が形成する電子インターネット領域が、メガトリイ・アンテナ上空でオーバーラップを起こしているものと思われる。


 ▶ここまでのポイント

◉電子インターネットはオヒガンを模倣して作られた(7層構造)。

◉Y2K以前から、電子インターネットとオヒガンはオーバーラップ(重なり)を起こしていた。

◉Y2KではUNIX機器の誤動作が原因で、際限のないエテル流入やループ現象が起き、最悪のケースでは連鎖爆発に繋がった。

◉Y2Kカタストロフィではオヒガンと物理世界を繋ぐ〈傷〉がフジサン山頂に生まれ、電子インターネットとオヒガン(物理世界とオヒガン)のオーバーラップが大規模化した。

◉〈傷〉の正体は、オヒガンと電子インターネットを繋ぐ大規模なオーバーラップ・ポイントである。

◉全てのIRCトラフィックの集束点に生まれた〈傷〉によってエテル流入量の増大と、ニンジャソウルのディセンションの増加に繋がった。

◉オーバーラップ・ポイントの起源となったメガトリイ・アンテナは既に半壊しており、インターネットには接続されていない。おそらく、本来そこに存在していたネットワーク領域は〈傷〉が担っている(推測)。


用語を噛み砕く

念のため、上記の各所で登場したが説明のなかったキーワードについて内容をおさらいする。

〈鷲の一族〉とは、1999年までの地球経済を背後から支配してきたモータルの血脈であり、冷徹なる秩序と支配を何よりも好む。彼らはローマ皇帝の血統であり、近代以降の全世界の武器市場をコントロールし、死とマネーで人類を駆り立ててきたという。〈鷲の一族〉はUNIXシステムとインターネットの掌握により地球支配を完成させようとしていたが、Y2Kカタストロフィ、すなわち2000年問題により、その野望は潰えた。

シャード・オブ・マッポーカリプス(55):鷲の一族

〈鷲の一族〉:世界経済を支配していたモータルの一族。アガメムノンとラオモト・チバはその末裔。アガメムノンは〈鷲の一族〉として、Y2Kで絶たれた野望を成就させようとしている。


Y2Kカタストロフィ以前の地球経済を実質的に支配していたのが、〈鷲の一族〉を影の筆頭株主に持つ暗黒メガコーポ、メガトリイ社である。メガトリイ社は地球上のネットワーク・インフラストラクチャと通信網を支配し、さらに月面にA.R.G.O.S.と呼ばれる人工知能搭載型マザーUNIXを建造して、これを地上のUNIXネットワークと接続する地球人工衛星網〈鷲の翼〉によって世界を完全掌握しようとしていた。

シャード・オブ・マッポーカリプス(55):鷲の一族

メガトリイ社:〈鷲の一族〉のためインターネットを始めとした先端技術の開発をしていた。月からエメツを回収しており、人工知能A.R.G.O.S.のメインフレームなどレリック級のテックを生み出している。Y2K後、暗黒メガコーポ連合により〈鷲の一族〉ごと滅ぼされた。


マッポー級大気汚染やY2Kポールシフトによって植生や地形も変化してしまったため、そも裾野を含めると全面積のうちいまや20%近くが人類にとって未知の領域であり、そこには環境汚染による死滅を免れてきた未知の生物や、汚染環境に対応したバイオ突然変異体などが潜んでいる可能性が高いと考えられている。

シャード・オブ・マッポーカリプス(38):霊峰フジサンと7つのミステリー

ポールシフト:自転軸や磁極などが何らかの原因でズレてしまうこと。ニンジャスレイヤー世界ではY2Kの物理的な連鎖爆発が原因で発生したと思われる。これが原因でY2K以降は地球環境が大きく変化してしまっている。


磁気嵐:何らかの原因で地磁気に乱れが生じること(あるいはその状態のこと)。衛星の故障や通信障害などを引き起こすことがある。現実では太陽フレアの放出などが大規模な磁気嵐の原因だが、ニンジャスレイヤー世界ではY2K以降、この磁気嵐(地磁気の乱れ)がネオサイタマを覆っている。

この局所的な磁気嵐の原因は、Y2Kによるオヒガンと電子ネットワークのオーバラップであると考えられる。



コトダマ空間は「オヒガン」として有史以前から存在していた。現実世界とコトダマ空間はもちろん別個の存在だが、互いに干渉し合える状態にある。神代から平安時代にかけては、コトダマ空間と現実世界のリンクは1999年の世界よりも強く、エテルの流入量も多かったため、コトダマ空間を認識できるモータルも、不安定ではあるがジツめいた力を行使したりできた。ただ、当時の人々は(ニンジャも含めて)、それを「霊界」「アノヨ」「オヒガン」などと呼び、科学的かつ体系的に理解することはできなかった。またオヒガンの力にアクセスできるのも、ごく一部の能力者に限られていた。

【ショック・トゥ・ザ・システム】

オヒガン:未だ明確に「どのようなものである」と断言されたことはない(はず)だが、テキストの端々から、物質世界と重なり合って存在する非物質的な精神的世界・霊的世界であることが窺える。物質世界との"近さ"は論理的距離と表現される。またコトダマ空間=オヒガンと考えて良いと思われる。



エテル:オヒガンから物質世界に流れ込む、力の源のようなもの。ニンジャはこれを燃料のようにして、自身のカラテやジツとしている。オヒガンとの論理的距離が遠くなると、流入量は少なくなり、ニンジャは弱体化する。



 腕時計ホログラム上に、アルゴス・システムの完全起動イメジが映し出される。月面のアルゴス本体を中心に、地球衛星軌道上に配置された無数のメガトリイ社製無線通信ネットワーク衛星が目覚め、自律制御により正しき座標へと広がってゆく。鋼鉄と電子で作られた巨大な鷲の翼が、地球全土を覆ってゆく。

【スルー・ザ・ゴールデン・レーン】

鷲の翼:メガトリイ社が新たに開発していた、無線通信ネットワーク用の人口衛星リレイ網のこと。



 再びジャンプ。「繰り返します、スーパーUNIXが想定外の事態を弾き出しました。我々がグレゴリオ暦2000年の夜明けを迎える事はない。1999年12月31日。日付切り替えと共に全世界のUNIXが連鎖的誤動作を起こしオーバーフロー可能性。世界秩序の崩壊」「我々は切断し」「否」 

【ショック・トゥ・ザ・システム】

UNIX:ニンジャスレイヤー世界で使われているコンピューター端末全般のこと。あるいはそのOSのこと。世界的に32ビット版のUNIX系OSが使用されていると思われる。

2000年問題(Y2K):コンピューターの日付処理の仕様が原因で、西暦2000年になると誤動作を起こすとされる問題。当時は大多数のコンピューターが西暦を下2桁でしか認識しない仕様になっていた。

月面基地および鷲の翼を建造した後に、メガトリイはY2Kが到来し世界中のUNIXが誤動作を起こすこと自体は予期していた。

OSI参照モデル:インターネット通信における国際的な共通規格。コンピューターはこの規格に従い、インターネット通信用にデータを01変換したり、01データを文字データなどに再変換したりする。



2038年問題とは何か

Y2Kに続いて、アマクダリ・セクトの「再定義」において重要になってくるのが「2038年問題」と呼ばれる事象である。

ここでは後の再定義に関する考察の前段階として「2038年問題とは何か」と「何故ニンジャスレイヤー世界で起こってしまうのか」の2つを整理する。

編纂者より:近代におけるニンジャスレイヤー世界の歴史は、その裏側で様々な陰謀が動いてはいたものの、おおむね読者の皆さんが知る実際の史実の通りである。よってここでは世界史や日本史の大筋については省略している。

ディスカバリー・オブ・ミスティック・ニンジャ・アーツ(7)

西暦1970年1月1日:UNIXの誕生
UNIXが生み出されエポックタイムが制定される。既存のインフラであった電話網と融合。ペケロッパ・カルトはこの1970年1月1日を最も神聖なる日として崇めている。

ディスカバリー・オブ・ミスティック・ニンジャ・アーツ(7)

Y2Kの事例からは、ニンジャスレイヤー世界においても、Y2Kまでは、コンピュータはおおよそ我々が知る歴史と同様の進歩を遂げていると推測できる。

一方でY2KによってUNIX機器が演算オーバーフローを起こしたということは、32bitのOSが使われていたにも関わらず、本来1990年代末に行われたコンピュータシステムの修正は世界規模で行われなかったと考えられる(詳細後述)。

これはすなわち、Y2K以降もブラックボックス化した32bitのUNIXベースOSが世界中で使い続けられていることを意味している。


そもそも2038年問題とは、次のような現象である:

  • UNIXシステムにおいては、基準となる1970年1月1日の午前零時を基準時間(エポックタイム)として、そこから経過した秒数をカウントし、基準日時に加算することで現在の日時を算出している。

    • つまり「1970年1月1日0時0分0秒 + 経過した秒数 = 現在の日時」という処理が行われている。

  • この経過した秒数を格納(≒カウント)しているのが、『time_t』と呼ばれるシステム変数(≒数値データの入れ物。保存領域)となる。

  • 『time_t』は仕様上、21億4748万3647より大きな数値は保管できない。

  • UNIXシステム上で21億4748万3648秒が経過すると何が起こるかというと、限界に達した『time_t』のカウントは負の値になる(-21億4748万3647秒)。これが算術オーバーフロー(オーバーフロー)である。


  • 1970年1月1日の午前零時 + 21億4748万3647秒は、2038年1月19日午前3時14分7秒となる。

  • すなわち、2038年1月19日午前3時14分8秒になった瞬間、UNIXは算術オーバーフローを起こし、システム上の時刻は1901年12月13日20時45分52秒となる。

    • これはオーバーフローによって時刻カウントが負の値になり、基準となる1970年1月1日の午前零時から現在日時をマイナスして算出してしまう為である(1970年1月1日00時00分00秒 ー 21億4748万3647秒 = 1901年12月13日20時45分52秒)。


この現象により、正しい現在日時を取得できることを前提としたソフトウェアなどは誤動作を起こす。ただしそれによってどの程度の規模で問題が発生するかは分からない、というのが2038年問題である。


2038年問題への対策

彼らはコトダマ空間の船の墓場に流れ着いた者たちの成れの果てであり、その中にはY2K発生時のUNIX連鎖爆発によって消息不明となったエンジニアの末裔たちすらも含まれていた。

シャード・オブ・マッポーカリプス(17)

Y2Kと電子戦争によって旧世紀のテックが一度壊滅的被害を受けているため、ネオサイタマで用いられるUNIXプログラムや通信プロトコルの一部は動作原理がブラックボックスとなっており、極めていびつな進化をとげている。

ニンジャスレイヤー・フロム・アニメイシヨン公式HP

Y2K以降、旧世紀のプログラミング技術やハードウェアは一部がブラックボックス化、ないしはミッシングリンク化してしまったため、多くの基幹サーバやプログラムが、いまや動作原理不明のまま動き続けているのだ。

シャード・オブ・マッポーカリプス(23)

ニンジャスレイヤー世界において、技術者の多くはY2KカタストロフィにおけるUNIX連鎖爆発によって死亡した(ないしコトダマ空間に飲み込まれ消息不明になった)ことも理由に、一部は動作原理がブラックボックス化しており、コンピュータシステムや通信プロトコルの根本的な改修(それも全世界的な)は難しい状況であると考えられる。

現実には「2038年までに32ビット変数の『time_t』を64ビット変数に定義し直して、すべてのプログラムをコンパイルし直す」など幾つかの手段で対策を取られているが、上記の理由からニンジャスレイヤーの世界では極一部の例外を除いて2038年問題に対策は行われていないとするのが自然である。


「再定義」「インターネット再定義」「アルゴスとメガトリイ社の遺産があれば」「それを成し遂げられる」「アマクダリは既に」「世界全土に」「通信基地を建造」「再定義」「それにより起こるもの」「Y2Kの再現」「再度の大規模なUNIX爆発」「ポールシフト」「磁気嵐消滅」「でも何故?」 

【ショック・トゥ・ザ・システム】

ピグマリオン社は、アルゴスがインターネットの再定義を行いうる事、またそれによって何が起こるかをある程度推測できている(〈鷲の一族〉の末裔がアマクダリに存在することは確実な情報としては掴めておらず、ナンシーらとの情報交換によってそれを知る)。UNIXサーバー群の再爆発、再度のポールシフト、フジサンの噴火、そして磁気嵐が晴れる。

N-FILES【ショック・トゥ・ザ・システム】

ニンジャスレイヤー世界において、どの程度UNIX技術者が生存していて、その内の何割がUNIXのOSを扱えるのかはまだ明らかになっていない。伴って、どの程度が「一部の例外」として2038年問題に気が付き、対策できていたかも不明確だ。

いずれにせよ、電子ネットワークを生み出したメガトリイの遺児であるピグマリオン社の見解として「Y2Kが再来する」とされているのであれば、少なくとも世界規模で2038年問題は発生する(連鎖爆発などの有無はさておき)状況にある、と考えても間違いではないはずだ。


"再定義"とは何か

続いて、ここまでの前提情報が正しいものと仮定して、アマクダリ・セクトが実行しようとしていた「再定義」に関する情報を読み解いてゆく。

再定義の目的

だが実の所、アガメムノンとアルゴスが実現しようとしているのはそれ以上の事。オヒガンと現世のリンクを完全切断し、過去のどの時代にも存在しなかった整合性と非寛容と支配の時代を作り出さんとしているのだ。アガメムノンはあたかも己の腕時計の針を戻すかのように、世界を再定義しようとしている。

【スルー・ザ・ゴールデン・レーン】

アマクダリによる再定義の目的は、大別して次の2つであることが窺い知れる。

  1. オヒガンと電子インターネットのオーバーラップ状態を破壊し、両者を切り離す。

  2. 電子インターネットを新型ネットワークリレイである「鷲の翼」で再統合し、支配する。


きっと鷲の一族は初めから知っていた。みんなが紛い物のネットワークとスシで満足すれば、彼らにそれを限界と信じさせれば、混沌の海をありふれた法で満たせば、2つの世界を完全に切り離せると。危険を察して叫んでいた人たちは誰からも信じられず、暗黒メガコーポの罠に囚われてカロウシしていった。

【スルー・ザ・ゴールデン・レーン】

そしてこれは、Y2Kによるオヒガンとのオーバーラップ状態を解消する必要がある点を除けば、おおよそY2K以前に〈鷲の一族〉が目論んでいた計画と同じゴールに辿り着くものであることが分かる。


ローカルコトダマ空間は、ノードとなる個々人の想像力によって成り立っている。このため、仮にオヒガンと物理世界の永続的な切断が起こった場合、いかなる人間もオヒガンにアクセスできなくなるため、グローバルコトダマ空間へのダイヴはもちろん不可能となり、探究心を失い、夢も見ず、トラウマも持たず、ローカルコトダマ空間を有することもなくなると考えられる。

(中略)多くの者は前者、すなわちオヒガンがあることによって知的生物は夢やイマジネーションを持ちうる、という立場を取っている。

ディスカバリー・オブ・ミスティック・ニンジャ・アーツ(10):ローカル・コトダマ空間

ここで上記の目的をさらに分解すると、〈鷲の一族〉ないしアマクダリによる再定義のゴールは、具体的には次のような計画による人類支配であることが見えてくる。

  • オヒガンを模倣した電子的なインターネットを生み出すことで、本来のインターネットであるオヒガンの存在を人々から覆い隠し、切断する。

    • これにより、オヒガンのケオスがもたらす夢やイマジネーションといった不確定要素を排除する。

  • オヒガンに成り代わった電子的インターネットを管理・支配することで、そこに繋がる人々をも管理・支配する。



再定義はどのように成されるのか

M:Y2Kと同様のUNIX時限爆弾が2038年にも発生しうることを、アマクダリは突き止めていた。そこで、ここで発生する爆発的なエネルギーをアルゴスの論理タイプ能力によって制御し、Y2Kでオヒガンと重なってしまっていた電子ネットワーク領域を破壊するために用い、その後IRCネットワークで完全に傷を塞ぎ、両者を切り離そうとしていたんだ

インタビュー・ウィズ・ニンジャ PLUS版(49)

ニンジャスレイヤー本編において、なんとなくふわっと進行していた再定義だが、インタビュー・ウィズ・ニンジャの新情報によって、本編における現象が「どのように」引き起こされていたのか(引き起こされようとしていたのか)のコア部分が明かされた。それが上記だ(一部抜粋)。


「どう打開する」「鷲の翼が開く日。インターネット再定義のために、アルゴスのタイプ速度は一時的に減じ、コアに至る論理防壁を自ら開くはず。その数時間が勝負です。私やナンシー=サンが、同時に遠隔ハッキングを仕掛けます。しかし、恐らく、勝てません」

【スルー・ザ・ゴールデン・レーン】

もし完全なアル=マクダリウスの書が存在するならば、そこには〈鷲の一族〉の秘密の一端、さらにオヒガンと物理世界の切断儀式方法、および人類と夢を切断し支配することの必要性と実践方法までもが記されているはずだが、それらは破損もしくは断片化してしまった可能性が高い。

シャード・オブ・マッポーカリプス(56):ダイサン・セクタとアル=マクダリウスの書

断片的な情報をつなぎ合わせると、まず大前提として、アマクダリ・セクトはアルゴスの論理タイプ能力を用いて、すなわちハッキングによって再定義(ネットワーク再定義)を進めようとしていると推察できる。「電子的な魔術」と呼ばれるのも、それに由来するものだろう。

その上で「ハッキングでどのようにして」「オヒガンと重なってしまっていた電子ネットワーク領域を破壊する」のかと考えると、次の2つの作業が行われる可能性を検討することができる。


7つの門をハッキングする:アルゴスは電子ネットワークから地続きとなったオヒガン(=コトダマ空間)に対してハッキングを仕掛け、オヒガンへと繋がる7つの門をプログラムとして制御し、開閉状態(稼働状態)に干渉した。

トラフィック制御による爆発エネルギーの操作:アルゴスは再定義において、論理タイプにより2038年問題の爆発エネルギーの指向性を操作しようとしている。これによって、オヒガンと電子ネットワークのオーバーラップ箇所(物理UNIXサーバー)を吹き飛ばすつもりだ。


▶7つの門をハッキングする

例えばエジプト死者の書では7つの門とされているが、同様にオヒガンまでは7であり、さらにキンカクへたどり着くまでに2つのゲートを必要とするとの説も存在する。ペケロッパ・カルトのアズドゥフがこれをIRCコトダマ空間から観測しているのは、それが電子ネットワーク世界と地続きだからである。アクセス方法や認識されるゲート数にいくらかの違いはあっても、それらの本質は変わらない。後にアマクダリ・セクトは、この門を全て閉ざすことで物理世界とオヒガンの完全切断を試みた。

N-FILE【キョート・ヘル・オン・アース:急:ラスト・スキャッタリング・サーフィス】 後編

仮説①については直接的なのか間接的なのか、手段こそ不明確だが、原作中やコメンタリーでの「門」に関する言及を見る限り、アルゴスは論理タイプ≒ハッキングによりオヒガンの門に干渉できる、とするのが自然に思われる。


オヒガン・シナプスにおける対話を見ても、コトダマ空間認識者の「タイピング」がキンカクなどオヒガン由来の存在へジツのように影響を及ぼせる、あるいはそうしたジツのリソースとして用いることが可能であることが分かる。

メインフレームにオヒガンとの繋がりを齎すエメツを含有し、ニンジャソウルを宿したアルゴスが同様にその演算力をジツのように用いることができてもおかしくはない(コトダマ空間における、一種のジツの行使と考えられる)



▶トラフィック制御による爆発エネルギーの操作

M:Y2Kと同様のUNIX時限爆弾が2038年にも発生しうることを、アマクダリは突き止めていた。そこで、ここで発生する爆発的なエネルギーをアルゴスの論理タイプ能力によって制御し、Y2Kでオヒガンと重なってしまっていた電子ネットワーク領域を破壊するために用い、その後IRCネットワークで完全に傷を塞ぎ、両者を切り離そうとしていたんだ

インタビュー・ウィズ・ニンジャ PLUS版(49)

仮説②については、部分的に正であると考えられる。まず「Y2Kでオヒガンと重なってしまっていた電子ネットワーク領域を破壊する」ことは、機器の破壊や通信の遮断によって物理世界における電子ネットワークそのものに干渉しなければ成し遂げられない。

それを「2038年問題」、「電子ネットワーク領域の破壊」、「IRCネットワークで傷を塞ぐ」、「論理タイプ能力で制御」といったキーワードと結びつけると、論理タイプによりエテルの流れを操り、オーバーフローに伴う連鎖爆発の指向性を制御しようとしていたのではないか、という仮説が立てられる。

Y2Kで起きた現象を考慮すると、電子ネットワークを流れるエテルはその通信トラフィックを伝わっていると思われる。つまり、逆に通信トラフィックを制御すれば、自ずとエテルの流れも制御できるのではないか、ということだ。これが可能ならば、アルゴスは特定のUNIXのみが2038年問題によるオーバーフローとエテル流入で連鎖爆発を引き起こすように仕組むこともできるはずだ。

オヒガンとのオーバーラップ箇所に関わっているUNIXサーバー機は2038年問題が起きる状態を保ちつつ、それ以外には対策パッチを適用することで安全性を担保していた可能性もある。

Y2K以前に2000年問題を突き止めていたアルゴスが、2038年問題への対策ができないとは思えない。


1990年代において、通信事業系の暗黒メガコーポであるメガトリイ・コミュニケーション社がこの巨大トリイ付近の土地全てを買い占め、トリイ利権を独占するとともに、このトリイを利用して(機器類を外付けし)日本最大級のIRC通信アンテナと基地を建造。メガトリイ社の圧倒的存在感を知らしめた。そして将来的にはこの山頂基地を中心として、ジグラット、人工衛星群、月面基地をも結ぶ、一つの巨大なIRCネットワークを形成する計画であった。

シャード・オブ・マッポーカリプス(38):霊峰フジサンと7つのミステリー

またアマクダリが2038年問題による爆発現象をある程度制御したがる理由としては、次のような背景が考慮できる。

  • アマクダリが破壊したいのは、あくまでも〈傷〉を始めとするオヒガンと重なる電子ネットワーク領域や、Y2K以降のオーバーテックのみ。地上におけるUNIX機器や既存のインターネットの全てを破壊する必要は(少なくとも計画の目的としては)ない。

  • 仮に既存の電子ネットワークをすべて破壊しても、ジグラットやメガトリイの通信基地が存在すれば鷲の翼によって代替することは可能だと思われるが、そこに人々がアクセスするための端末が失われ、普及のフェーズが再び必要となるため非効率(電子ネットワークを介して人々を管理支配する〈鷲の一族〉の計画に根本から反する)。

  • Y2Kないし2038年問題は元来〈鷲の一族〉の計画に組み込まれたものではないため、アマクダリとしても本来のインターネット再定義に影響が出ない範囲で、あくまでもオーバーラップ状態の破壊にのみ利用したいと考えるのが自然。


結局起こったUNIXの連鎖爆発

オヒガン・シナプスにおける描写を見ると、少なくともアルゴスが爆発四散した後、ネオサイタマにおけるUNIXについては連鎖爆発が起き始めているらしきことが分かる。


「Y2K以降に誕生した全オーバーテックが」「存在機能不全を起こし」「爆発もしくは消滅」「未曾有の災害」「その先にあるもの」「コトダマ空間がもたらしていた不条理も可能性も発生し得ない、秩序の世界」「完全に制御された世界」「でも、それを制御するのは」「アマクダリ・セクトのみ」 

【ショック・トゥ・ザ・システム】

もしアガメムノンが再定義によって〈傷〉を塞ぎ、オヒガンと物理世界のリンクを切断すれば、磁気嵐が消え去ると共に、現時点でのインターネット(コトダマ空間)との過剰リンクを前提とした技術の数々はオーバーテクノロジーとなり、機能しなくなり死滅するだろう。あるいは接続中のUNIXともどもオーバーフロー爆発する。

N-FILES【ショック・トゥ・ザ・システム】

「俺は、その……オヒガンの異常な流れだ」シルバーキーは手振りを交えて説明した。「キンカクが異常になって、近づいたり遠ざかったり、実際俺は死にかけたが、このオッサンに助けられて、今こうして……ヤバイんだ」「再定義は阻まれました」ユカノは頷いた。「ですが、その揺り戻しで、キンカクが」

【ネヴァーダイズ 8:オヒガン・シナプシス】

しかし各所で言及される、「未曾有の大災害」や「UNIXの連鎖爆発」について情報を読み解いてゆくと『2038年問題に起因する既存UNIXの爆発』、『再定義によるコトダマ空間とのリンク途絶によるオーバーテックと接続UNIXの爆発』、『キンカク・テンプルの異常接近によるUNIXの爆発』この3つの事象がそれぞれ主語として混在していることが分かる。

これを考慮すると、なぜUNIXの連鎖爆発が起こり、あるいは最終的に押し留めることができたのか、ある程度説明をつけることができる。

◇推測:何故2038年問題によるカタストロフィが起きなかったのか
再定義の余波=キンカクの異常接近に起因する爆発:
ナンシーやシルバーキーらがキンカク・テンプルを押し戻した(≒エテル流入量を減らした?)ことで、UNIXの異常加熱による爆発も起きなかった。

コトダマ空間とのリンク途絶に起因する爆発:アマクダリ・セクトの再定義が完遂しなかった(オヒガンとの接続が途絶しなかった)ため発生しなかった。

2038年問題に起因する爆発:これは最も謎めいており、複数の可能性がある。

1)ナンシーによる地上のシステム・アルゴスの制御によって、キンカク・テンプルへの対処と同時並行でトラフィック制御が行われ、エテル流入が阻止された。

2)そもそも2038年問題が起きなかった。

3)アルゴスは2038年問題に対するパッチを用意しており、ナンシーはそれを利用した。


再定義のプロセス//何故オヒガンの影響が深まったのか

アルゴスが論理タイプでオヒガンの門に直接干渉できたと仮定して、次に考えなくてはならない謎は「なぜ再定義の第三段階まではオヒガンの影響が深まったのか」と「なぜアルゴスは第三の門を修復する必要があったのか」の2つだ。



OSI参照モデルのイメージ

ここで重要になってくるのは、オヒガンのネットワーク構造を模倣して作られたという、電子ネットワーク構造の設計「OSI参照モデル」である。OSI参照モデルとは、一言で表すと、インターネットを介したデータ通信の規格のことだ。

例えばUNIXからメッセージを送信するとき、「OSI参照モデル」では上記の7階層に従ってレイヤ7から段階を踏んでデータの変換を行い、最終的に01データ(2進数のビットデータ)にしてからインターネットに送り出す。逆にインターネットから送られてきた01データを受信する場合は、レイヤ1から順番にデータの変換を行い、メッセージデータにしてからUNIXで表示する。

上記「OSI参照モデルのイメージ」で言うと、データ送信時は下から上、データ受信時は上から下に処理が行われると考えると良い。

UNIXは国際標準規格として、この「OSI参照モデル」を元にしてインターネット通信機能が実装されている。そのため、インターネットを介して相互的にデータをやり取りすることが可能なのだ。



オヒガンと物理世界で見るOSI参照モデル

これをオヒガンと物理世界との関係性に置き換えたものが上記の図となる。「魂がオヒガンやキンカクへと至るまでの門」と聞くと、物理世界からの視点で『最初に通る門が第一の門』と思い込んでしまいがちだが、OSI参照モデルに基づいて考えると実際は真逆なのである。


ヤマト・ニンジャの軌跡

オヒガン・シナプスにおける描写に基づくと、アマクダリの再定義は第三段階において「第三の門を機能修復し、開いて」いる。機能修復が必要ということは、当然第三の門は壊れていたということになる。エシオがもたらした情報が真実だとすれば、その原因はヤマト・ニンジャのカラテである。



ヤマト・ニンジャの軌跡

ここでOSI参照モデルに基づき、物理世界とオヒガンの間に存在する「第三の門」の位置を見てみると、ヤマト・ニンジャは物理世界から見て少なくとも5つの門を通過していると考えるのが自然だ。

さらに「"次に"機能修復される」というエシオの発言から推測すると、ヤマト・ニンジャのヤリとカラテによって破壊・突破されたのは第三の門だけではない可能性がある。

ここまでの情報から包括的に判断すると、アマクダリはまず全ての門を閉鎖可能な状態とし、なおかつ物理世界からオヒガンまでの経路(≒第一の門までの経路)すべてにアクセスする必要があった。これに伴い、再定義におけるフェイズ1~3では「破壊された門の修復と開放」を行った、と考えられる。

再定義の初期段階においては、破損していた門がアルゴスの論理タイプなどにより補完・修復された、あるいは超常的なトラフィックを阻害していた原因が取り除かれたことにより、オヒガンと現世の間に障害が存在しなくなった≒データの欠損や遅延が解消され、結果として論理的距離が縮まった=最も「近い」状態になったのだ、と推測できる。

実際のところ、OSI参照モデルは各層が相互に連動しており、1層が機能不全を起こすと通信遅延やデータの欠損・エラーが発生する原因となり、通信そのものが行えなくなる可能性がある。

それがオヒガンの門にも当てはまるならば、門の1つを封鎖すれば切断が成立してしまう。だが実際にそうならなかったことを考慮すると、オヒガンの門は【キョート・ヘル・オン・アース】で描かれたように9つ存在し、機能が分散していたのか、あるいはより単純化して『門が閉じるほど、データ変換の精度や変換される量が落ちる』だけと考えても良いのかもしれない。



プロセスから見る再定義

ここでは原作で描写された再定義の「波」による影響をもとに、実際に何が起こっていたのかを考察する。

まず描写によって確定している事象は次のとおりだ。

フェーズ1:不明
フェーズ2:不明
フェーズ3:第三の門(ネットワーク層)が修復・開放される。
       アマクダリ・ネットがオヒガン全体と接続する。
フェーズ4:第四の門(トランスポート層)が封鎖される。
フェーズ5:不明
フェーズ6:不明
フェーズ7:不明

これを見ると、確固たる根拠には欠けるものの、順序としてはフェーズ1で第一の門(物理層)が、フェーズ2で第二の門(データリンク層)が干渉を受けた、と考えるのが自然である。

またフェーズ3まではオヒガンとの論理距離が縮まったことを考慮すると、いずれのフェーズでもオヒガンの門の機能が補完された可能性が極めて高い。

推測できるヤマト・ニンジャの軌跡(2)


続いて、フェーズ毎の描写を順番に紐解いてゆく。

第一波

第一波では続く第二波、第三波よりも強烈な影響が現世に及んでいるようにも読み取れる。一見してオーバーラップ状態が部分的に破壊されたかのようにも思える描写だが、実際にはオヒガンとの論理距離が縮まっているのか、現世との境界線が朧になっていると語られている。

つまり、何か別種の異常が引き起こされている事がわかる。


第二波

第一波よりも影響が軽微に読み取れる。一瞬、オヒガンとの接続が途切れたような描写があるものの、すべてに影響が及んでいないことを考えると、第二波では精神衝撃波が奔った一瞬、オヒガンから送信されてくるデータが部分的に欠損した可能性が考えられる。

そして、上記のようなオヒガンとの接続の不具合が描かれているにも関わらず、再定義のプロセスがこの段階においてもオヒガンとの論理距離を縮めていることが明言されている。


第三波

第三段階において「切断が始まる」ということは、逆にここまでのプロセスで"オヒガンの門の閉鎖"は行われていなかったと考えてまず間違いないだろう。

また、ここで初めて登場した「メガトリイ・ネット」という単語は、メガトリイの名を冠する、既存の電子インターネットと区別が必要なネットワークという点から推測すると、「鷲の翼」による無線通信ネットワーク網を指していると思われる。

つまり、再定義の1~3フェーズにおいては、「鷲の翼」を経由するように既存のインターネット・インフラの切り替えが進められていた可能性がある。これを正とすれば、ここまでに描写された現象にもある程度の説明がつく。

再定義フェーズ1~3における現象についての推論◆

第一波:『重なり合っていた二つの世界が、肉体とソウルが、左右に引き裂かれた。』
 ▶
地上から衛星軌道上に、オーバーラップする電子インターネットの物理座標が移動したため起こった。「物理層」が通信ケーブルから衛星無線通信へと部分的に切り替わったことも影響を及ぼしている可能性がある。


第二波:『半コトダマ存在であるザイバツニンジャたちは一瞬、視界にホワイトノイズじみた激しい乱れを感じた。カラテ馬の何頭かが、突如その場で掻き消えた。』
 ▶破壊された第二の門(データリンク層)の機能を「鷲の翼」とアルゴスの論理タイプで補完・バイパス処理するように(第二の門▶アルゴス処理で欠損を補完▶第三の門へデータを送信)なったものと思われる。

 ただし、アルゴスも門の機能を完全再現はできない。このプロトコル更新の瞬間、"一時的なネットワーク障害" やデータ・フォーマットの不整合がオヒガンからのデータ送信に欠損を生じさせ、ザイバツ勢に影響を及ぼした。


第三波:『メガトリイ・ネットがオヒガン全体に喰らいついた状態。ピーク。最も「近い」状態だ。』
 ▶破壊された第三の門(ネットワーク層)の機能を「鷲の翼」とアルゴスの論理タイプで補完・バイパス処理するようになったものと思われる。

 第二波と同様に、プロトコル更新の余波がノイズとなって現れ、かつアルゴスの論理タイプが破損していた門の機能を補完し終えたことで論理距離がピークに達する。大元である第一~第三層までの機能を抑え、オーバーラップしたコトダマ空間を鷲の翼で捉えたこの状況は『オヒガン全体に喰らいついた』と言っても過言ではないだろう。

なおトリロジーにおける描写から、磁気嵐が存在しないエリアでは衛星通信が使用されていることが分かる。つまり、Y2Kによって実質的に使用不可になっていたとしても、Y2K以前から各地のデータセンターなど通信基地には衛星通信用のアンテナなどの設備が元々設けられている可能性がある。


第四波

明確に第四の門(トランスポート層)が閉ざされたことが書かれている。電子インターネットであれば、1層でも不具合を起こせば通信ができなくなる場合もあるが、どうやらオヒガンはそうではないようだ。

発生した事象から推測すると、門の閉鎖では単純にオヒガンとの論理距離が遠くなり、それによって流れ込むエテル量や情報量(≒情報の粒度)が減衰してゆくと言うようなイメージの認識が正しいように思われる。


B:かいつまんで言うと、アマクダリがやろうとしていたのは、ロービットに単純化されたキンカクの機能をアルゴスによってエミュレートすることだ。

インタビュー・ウィズ・ニンジャ PLUS版(49)

インタビュー・ウィズ・ニンジャによると、少なくともアマクダリはロービットレベルではキンカクの機能をエミュレートすることができるようだ。

おそらく、アルゴスは門の閉鎖により生じる情報欠損を事前に計算しており、ロービットのキンカクとしてオヒガンからのデータに欠損情報を補完することで、アマクダリ・ニンジャが受ける影響を最小限に抑えているのではないだろうか。


第五波

具体的に何が起こったのかは描かれていない。しかし、第四波による影響と照らし合わせると、このフェーズでもオヒガンの門が閉じられたであろうことが推測できる。


第六波

第五波と同様であり、このフェーズでもオヒガンの門が閉じられたであろうことが推測できる。


推測される再定義の各フェーズの役割(まとめ)

ここまでの情報を整理すると、再定義の各フェーズでは次のような処理が行われていると推測できる。

フェーズ1:第一の門の修復・開放。鷲の翼へのインフラ切り替え。
フェーズ2:第二の門の修復・開放。2層のプロトコル更新。
フェーズ3:第三の門の修復・開放。オヒガン全体との接続。
フェーズ4:第四の門の封鎖。
フェーズ5:第五の門の封鎖(推定)。
フェーズ6:第六の門の封鎖(推定)。
フェーズ7:第七の門の封鎖(推定)。2038年問題によるカタストロフィ発生とそのエネルギーを利用したオーバーラップ状態の破壊。


どのようにして〈傷〉を塞ごうとしたのか

そしてこの時、フジサン上空に巨大な黄金立方体が出現し、肉体を滅ぼされたワンソーのソウルはそこに吸い込まれていったのだ。

シャード・オブ・マッポーカリプス(38):霊峰フジサンと7つのミステリー

「物理世界とオヒガンのオーバーラップ」が生じたY2Kカタストロフィにおいても、2つの世界を貫く超自然の〈傷〉が形成され、そこからいくつものニンジャソウルが降り注いだと考えるのが自然であろう。その座標こそが、爆発的に増大した全てのIRCトラフィックの集束点、すなわち崩落せしメガトリイ・アンテナの上空である

シャード・オブ・マッポーカリプス(38):霊峰フジサンと7つのミステリー

この秘密を知る者は極めて少ないが、Y2Kカタストロフィは単なる電子的および人為的な災害ではなく、「オヒガン」と呼ばれる超自然領域とIRCネットワークとの間に、大規模な「傷」あるいは「エテルの風穴」とでも表現すべきオーバーラップポイントが生じたために起こった、複合的な災害であった。

ニンジャスレイヤーTRPG2版『ハッカープラグイン』

再定義の最終フェーズで行われると考えられるのが、〈傷〉の封鎖である。冒頭に述べたように〈傷〉はフジサン≒メガトリイ・アンテナの上空座標に生成された「物理世界とオヒガンのオーバーラップが極めて強い場所」である。

つまりこれは、従来メガトリイ・アンテナにトラフィックを送信していた通信基地群が形成する電子インターネットが形成するものと思われる。アルゴスが爆発を起こすUNIXを選別できるとすれば、上記の通信基地群や、場合によってはそこに直接接続するUNIX群に集中して爆破することで〈傷〉とオーバーラップした電子インターネット網は消滅し、コトダマ空間としてアクセスする手段は失われることだろう。

これにより欠損した電子インターネット領域は鷲の翼による新たなインターネット領域が補完し、実質的に〈傷〉は塞がれることになる。


残された謎

現状、第一から第三の門がいつ閉じられるのか、あるいは閉じられるのかは明言されていないため、謎のままとなっている。しかしながら、第六波の後に著しく力を失っているのは半コトダマ存在であるザイバツ・ニンジャたちのみで、(アルゴス爆発後の描写ではあるものの)強力なアーチ級憑依者であるアナイアレイターなどが直前まで力を極端に減じていたかのような描写は見られない。

ここから推測するに、アルゴスが一部の機能を補完する第一から第三の門は、再定義のフェーズ7で封鎖される(あるいはアルゴスが完全に機能を置換する)予定だったのではないだろうか。

最終的に2038年問題のエネルギーで〈傷〉を吹き飛ばすためには、一定以上のエテルが流れ込む状態を保っておく必要があるはずであり、制御下においた門を最後まで閉じずに残しておくのは合理的な選択に思われる。

とはいえ、実際にどのようなプロセスで進行する計画だったのかは、未だ謎のままだ。


まとめ

◉アマクダリの再定義により、既存のインターネット・インフラは衛星通信網である「鷲の翼」と接続されたと考えられる。

◉再定義の第一から第三フェーズまでは、門の修復や機能の補完が行われたことで、オヒガンとの論理距離が縮まっていった。切断プロセスが行われたのは第四フェーズからだ。

◉再定義の第四フェーズからは、1フェーズ毎にオヒガンの門が1つずつ閉じられていったと考えられる。これはコトダマ空間を介して行使される、アルゴスの桁外れの論理タイプによるジツめいた直接的な干渉によるものだ。

◉アルゴスは2038年問題による爆発エネルギーを利用して、〈傷〉を構成する通信基地群を破壊し、オーバーラップしている電子インターネット領域を消滅させようとしていたと考えられる。

◉オヒガンの第一から第三の門のいずれか、あるいは全ては、最終フェーズまで閉鎖されなかった可能性がある。これは〈傷〉の破壊のため、エテルを取り込む必要があったためだ。

これらの考察は、ニンジャスレイヤーにおけるオヒガン//コトダマ空間//キンカクについて断片的に情報を拾い上げておこなわれたもので、インターネット通信などについても専門的な知識が十分に盛り込まれているわけではない。

そのため、オヒガンやインターネットについて精通したニンジャ研究者の方がいらっしゃれば、ぜひさらなる謎の究明に取り組んで頂きたい。


参考資料まとめ





◆以上です◆


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