「多拠点&複業はノーリスク」 #働くを考える イベントレポート(下)
「なるほど、フルリモートするためにはそういうふうに会社を説得すれば良いんだな…」「え、移住って生活コスト下がらないの?」
10月24日にオンラインイベント「多拠点&パラレルキャリアで人生をデザインする~働くを考えるvol.1」を開催したのですが、実践者が本音満載で語った内容に、司会の私は驚きっぱなしでした。会社の説得方法や、家族の反応は?どのような思いでその一歩を踏み出したのか?ディスカッションの内容をお届けします~!
(イベントレポート(中)からの続きです)
住民票は?子どもの教育は?
――最初のお題は「地方移住、ぶっちゃけどう?」です。早速参加者から「住民票はどうしていますか」と、質問が届きました。
(磯村さん)「東京です。ただ、(東京の企業に勤める)妻が復職し、オンラインで仕事できるようになれば、住民票を(第2の拠点の愛媛県八幡浜市に)移してもいいと思っています」
(篠原さん)「住民票問題は親からすると明確。子どもの保育園や学校があるので、住民票は長野市です。教育は地域に縛られる面があるので」
――子どもが小学校に入ったら、連れまわしにくいですよね。
(篠原さん)「家族みんなが無理しない形を模索します。夏休みなど学校に預けられない時期に、子どもを連れて行ってみたい場所に行き仕事をしたり、一緒に夏休みの自由研究をしたり。子どもにも夫にも快適な成功体験を積み、次のステップに進むのがいいんじゃないかな。教育が地域に根付いているのは、良い点でもあり課題でもある。オンライン学習や、自分で課題を見つけて研究することなどを、子どもが小さいときから出来るようにしていきたい。学校の対応に加え、親側も出来るといいな、と。興味のある部分ですね」
(磯村さん)「教育では、自然環境が学びの場。まずは子どもの意思が大事ですが『地域に縛られない教育』の選択肢は、たくさん出来ています。(住民票を異動しなくても一時的に他地域の小中校に通える)『デュアルスクール』制度や、(角川グループの学校法人・角川ドワンゴ学園が運営する通信制の)N高校、N中学など選択肢は増えています。地域の教育環境アップデートも必要なので、八幡浜市の教育委員会にデュアルスクール導入を働きかけたり、八幡浜市の中高生と一緒に地域の教育をどう向上させるか考えたりと、自分なりに環境を整えていきたいです」
収入や家計の変化は?
--本業と並行して複数の仕事をこなす「パラレルキャリア」を実践されていますが、気になる収入や家計の変化はどうでしょうか。
(磯村さん)「愛媛と東京の往復交通費代6万円くらいを(地域団体のコミュニティマネージャーを務める)愛媛の仕事でもらえたらいいなとは思っていますが、まだなかなか難しい。ただ、お金のためではなく地域のために仕事をしているので」
(篠原さん)「コロナ禍もあり、夫の収入は東京にいたときの方が高かった。私は地域の仕事も増えて、世帯収入はトントン。意外ですが、保育料は長野市でのほうが若干高い。子どもの医療費も(免除の場合が多い東京都心に比べ)長野市は無料じゃない。移住で家賃は下がったけど、他にお金がかかるところもあり、全体収支もトントン。ローカルなお仕事は、ボランティアから始めて報酬がもらえるようになったり、地域で実施していることが実証実験になり本業にいきたりと、プライスレスな面があります」
会社や家族をどう説得?
--次のお題は、「その働き方を始めるまで」です。磯村さんの会社は東京の大手素材メーカーですが、磯村さんの他にそうした働き方をしている人はいますか?
(磯村さん)「認識している限りは、いないです。だからこそ僕が実現できたかな。5万人の従業員がいる大きい会社なので、今後親の介護により、長期間東京を離れる人が出てくる。『介護離職を防ぐために、地域で長く働く事前検証をする必要がある。自分が実践します』と説明して、この働き方を始めました」
--篠原さんは、会社をどう説得されたのでしょうか?
(篠原さん)「移住したのは2018年2月。勤務先はIT企業ですが、従業員200人ほどで、当時は特別な事情がある人を除いて全員が出社しているような会社。私のきっかけは夫の転勤で、『転勤族の奥さんはキャリアが積めない』という社会課題がある。200人の会社で女性社員の比率も多い中、女性を退職させない方が今後の会社のためになる、会社としても新しい働き方で社会課題を解決させましょう、と説得しました」
(篠原さん)「結果的に、コロナ禍で感謝されることが増えました。特別な事情がある何名かがフルリモートワークを実施していたことで、(今春の新型コロナウイスル感染拡大期の)初動対応や、社内のリモートワークのルールもできていて、感謝につながった。会社のためにも世の中のためにもなる、というコミュニケーションをとれば、会社がリモートワークOKでなくても進めやすくなります」
--パートナーの説得方法は?
(磯村さん)「(2拠点居住の)きっかけは妻の妊娠なので、そもそも説得することがなかったです。結婚前から、将来どう生きていきたいか、常に共有している。今も、妻の仕事の方で再び愛媛に行く体制をどう整えるか相談しています」
(篠原さん)「夫婦のコミュニケーションの観点。以前から、2人で地方暮らしをしたいね、みんな笑顔でローカルな暮らしをしたいね、という話をしていたので、家族を説得する必要はありませんでした。(自分の両親など)ほかの家族に対しては、移行期を3ヶ月から半年くらい設け、夫は単身赴任、私は東京で(育児を1人で担う)ワンオペの期間を設けました。東京でワンオペで仕事をしていると、残業も出張もできない。それは私の生き方として違うよね、と。親も『そんなに大変なら』と」
--将来、親の介護が必要になったらどうしますか?
(篠原さん)「親になにかあったら駆けつけられる状態でいたい。そういう意味でもフルリモート勤務への挑戦はすごく重要でした。東京で激務の仕事をしていると、なかなか(群馬に住む)親のところへ行けない。フルリモートOKであれば、病室でも隣で仕事が出来る。今は親も安心していると思います」
その一歩を踏み出すには
--自分自身の心の葛藤はありませんでしたか。
(磯村さん)「個人的には(複業や多拠点居住は)ノーリスクだと思っているから、心の葛藤はなかった。完全に東京を捨てて移住するのでも、転職をするわけでもない。今の拠点や仕事を残しながらのプラスアルファなので。駄目だったら辞めればいい」
(篠原さん)「私は心の葛藤はめちゃくちゃありました。会社にとってワガママなんじゃないか、私がそこまで言っていいのか、とか。女性は産休育休のタイミングや、育休復帰後の働き方など、会社とひざをつきあわせて交渉するシーンがたくさんある。どう決心したかというと、交渉はみんなのため、会社のためになるというマインドセット」
(篠原さん)「例えば、育休では私は会社の第2号取得者。1号の人が道をつくってくれたから私もとれ、私の翌年はもっと多くの人が取得したはず。1人の勇気が、あとに続く女性の道をひらく。転勤や介護で休業したい、リモートワークしたいという人は今後も増えると思う。後進の道をつくるという決心で話をすると伝わるし、勇気にもなる。何も言わずに辞めると、会社にその思いが伝わらない。伝えて、経営陣にも議題を投げて、それでも決裂したら、最終的に会社を辞める選択肢もありますから」
地域の暮らしに溶け込むには
--拠点となる地域になじむには、どうすればいいでしょうか。
(磯村さん)「翻訳をすることと、適度によそ者であることかなと思っています。地域や組織に特有の価値観ってあると思うんです。それを翻訳する。身近な例で言えば、方言もその地域の価値観を表している。価値観に合わせて、自分のコミュニケーションの取り方をかえています。パラレルキャリアでそれぞれの仕事にシナジーを起こすときもそう」
(磯村さん)「適度なよそ者というのは、完全にその土地の人になると、僕がいる意味がなくなるから。『外から何かを持ってくる人』として重宝してほしい。東京では、他の仕事ではこういうことをやっていると、適度に翻訳しながら伝えると『なんか便利なやつだな』と思ってもらえる」
(篠原さん)「行動範囲の知り合いをつくる、価値観のサードプレイスになりそうなところにアクセスする、の2点。私は、小料理屋のおかみが長野での最初の友達。会話から地域を知ることができます。サードプレイスとは、好きな作家の読書会やまちづくりイベントなどへの出席。司会者や参加者とつながったことが、長野での仕事やコミュニティ形成につながっています」
--最後に、これから多拠点居住やパラレルキャリアをされる方にアドバイスはありますか。
(篠原さん)「勇気とか、一歩をおこすステップ。大きなビジョンに向かおうとすると大変ですが、地域に何回か行ってみる、家族でそういう会話をしてみる、会社に理解のありそうな役員がいるかなと様子を見てみる。1つ1つのアクションが、1年後2年後の新しい生活につながります。磯村さんの5万人の会社で実践できた例もあるので、小さいステップから風穴をあけていけるといいかな」
(磯村さん)「小さな行動からしか始まらない。まずは誰かに話すとか、ちょっと行ってみるとか。そうしたことが、一歩を踏み出すためには大事です」
次回は11/16【ワーケーションって楽しいの?】
次回イベントのテーマは今注目されている、仕事と休暇を組み合わせた「ワーケーション」です。11/16月曜日のランチタイムに開催します。参加無料です。どうぞご参加ください!申込はこちら!