親子関係の歪みや亀裂を解消する秘訣
はじめに
物質文明の急速な進歩は、私たちに遠距離移動を可能にさせ、膨大な情報量を提供してくれるようになりました。このような進歩発展は、とても喜ばしいことと受け止めている人も多いことでしょう。
しかし、急速な変化に対して私たちの“心”はついて行くことが出来ているのでしょうか。もしかしたら、急速な価値観の多様化に、慌てて対応しようとして、人間関係における歪みや亀裂を、生み出しているのではないでしょうか。
その顕著な姿が世代間に起こる歪みや亀裂だといわれ、なかでも親子間での歪みや亀裂はいろいろな場面で問題視されている状態だといえます。
「両親は自分の子供との対話をどのようにしたらいいのかわからない」「子供は親の意見を頭から否定し、耳を傾けようとさえしない」。そして、子供は無軌道な行動に走り、やがてつまずき苦しむ。そうしたことに対して、親は何の手の施しようもなく、ただただ苦しむ。といった悲劇を招いてしまうものです。
こうした現象に対して、仕方がないと諦めていませんか。親子間の歪みや亀裂は、お互いの今後にとってよくはない選択のひとつです。私たちは親に繋がりを持たなくては、生きていくことが非常に困難です。こうした親子間の関係を修復させるには、親自身が自分の親に対する“恩”意識を深める必要があります。
恩意識は、すべての価値観を乗り越え、互いに理解し、わかりあうことができる心を深めることになるのです。今回は親子間での関係を修復する道筋を紹介していきますが、自分自身の周りの状況に応じて置き換えることで、周囲の人間関係の修復にも活用できる内容となります。
1、親祖先が歩んだ道を子供も歩む
価値観の多様化等による親子関係の歪みや亀裂は、そもそも親自身がこれまでに感じてきた生き方に、自信を失うことに始まるものが少なくありません。そして、その深部には親自身が、自らの親を否定したり無視をしたりしているところに始まるものです。だからこそ、親自身が自らの親への感謝の念(恩意識)を自覚する以外に、子供とうまくやっていく道はないのです。
子供は親から血液を受け継ぎ、肉体を分けて持ち、その精神も分け与えられているものです。そうして親の愛情を十二分に注がれていきます。もちろん、その顔かたちが親と違うところがあるように、その手を動かし足を運ばせるところ全て、親と一緒のことばかりしているというわけではありません。
しかし、親と子のつながりは、所と時により現れて、親の心をそっくりそのまま子供が演じて見せるのです。まさにそのまま“投影”されたと捉えられることでしょう。こうした投影は、各種ケースが存在していますが、それらを総合すると、子供は親の生活の立体鏡であると言い表すことができるのです。
子供は常に、親の心に映った思いや行動を通して周囲と接していくものです。これには、時を同じくして現れる投影や、一定の時間を隔てて投影されたり、遠い距離を置いて投影されたりと様々な形で現れてきます。
また、祖父母や、父母、子供というような世代間に起きる投影もあり、祖父母の考えていることや、行ってきたことが父母を超えて投影されるケースもあることから、子供の生き様には、そのまま親祖先の生き様としての現れとしての捉え方もできるでしょう。
だからこそ、まず、子供に向ける目を自分自身に向けて、恩意識の深化に務めていくことが大切なことになります。
2、今の困難こそが、恩を自覚する第一歩
色々な困難によって初めて人は、人間らしい自覚を得るようです。解決することが難しくて、苦しんだり悩んだりさせられる出来事は、これまでの行動を省みるきっかけになり、改善することができるチャンスになります。
しかし、そのような“困難”をチャンスだとわかっていても、実際にその渦中にいると動くことすらできないようなこともあります。また、解決するには時間がかかるものもあることでしょう。確かに時間はかかりますが、大切なことはその出来事にどのくらい向き合うことができるかです。
向き合っていくうちに「これまでの生活や仕事をすることができたのは、自分一人の力ではなかった」と気がつくことでしょう。さらに、身近にいる家族や、仕事を共にする上司・同僚が支えてくれて居たから、できたことも多く思い出されてくると思います。
こうした多くの支えの中で生かされている感謝の気持ち、恩に対する感覚を持つことができた時こそ、自分自身の行動を変えていくチャンスとなります。
あらゆる困難を真正面から受け止められるということは、それだけ深く恩の自覚を持てることに繋がります。さらに、そうした行動の積み重ねが幸福に至る第一歩と捉えていきましょう。
3、恩を自覚した時、現実へ反映する
昔から「子を持って知る親の恩」ということわざを耳にすることがあります。これは、自分が親の立場になって初めて子育ての大変さがわかり、親の愛情の深さやありがたさがわかるということで使われています。
日常の生活や仕事における困難は様々とあり、その解決の糸口が実は親子関係にあるということをご存知でしょうか。父母の恩を自覚できた瞬間こそ、立ちはだかった困難な壁を乗り越えていくきっかけとなるのです。
親子関係については、お互いに様々な想いが絡み合い複雑化してしまうことが多く、中には断絶してしまうこともあるようですが、実は親子の血縁は切っても切れるものではありません。
ある人は、「私は大変親に世話になった」と考え、また、ある人は「自分は親の世話になっているどころか、親があることで迷惑している」と考える人もあります。
恩人と感じるか感じないか、甲乙つけがたい状況の方も多くいると考えられる状況の中で断言できることがあります。それは「知らないだけ」ということです。そうだとすると甲乙も存在しないのです。それは、皆それぞれに全てを尽くして、子に与え、子に尽くし、子を想っているということです。
また、分量や期間や貧富などで区別できるようなものではないのです。自分自身がもてる全てを尽くすことにおいて欠けることなく尽くし、与えるのが親の心、愛情と言えるでしょう。
ですから私たちは、自分の親に対して“親孝行”をしていくことを薦められてきました。なかには「親孝行のやり方が分からない」という人も出てくるかもしれませんが、なにも特別なことをすることが親孝行ではありません。
例えば、親と遠く離れている場合には、手紙やハガキなどで、自分の状況を定期的に伝えていくように心がけていくことが考えられるでしょう。また、両親が亡くなられているなら墓参を忘れてはならないし、仏壇や写真等に朝晩挨拶をしていくことです。
こうした行動によって、いつも親に心を繋げておくことが大切なのです。継続的に行っていくことで、これまで見ることができなかった、親の深い愛情を知って恩を感じ、それが敬いへと発展するといった循環を繰り返していきます。
こうした循環は普遍的なもので、皆一様にどのような境遇の人も親によって成長し、私たちの日常に反映してくることでしょう。
最後に
私たちは、多くの人、物、環境等から恩恵を受けて今日を生かされています。そうしたことに気づいた時、“自分のもの”という概念を取り去ることが可能となるでしょう。そして、その時に周囲のものに対する“敬い”の心が芽生えます。
あらゆるものに対して“敬い”の心が向けられていくことで、自分自身の心の中にある様々な想いに気がつくようになります。その気づきこそが尊いのです。
今回触れてきた“歪みや亀裂”に関わるものは、価値観の多様化といった本筋から離れた場面に原因があるのではなく、親自身(自分)の親祖先に対する尊敬の念のなさに、端を発するものと捉えていただけたのではないでしょうか。
急速な環境変化についていくことができなかった“心”を取り戻すことは困難なことと受け取られがちではありますが、親と子の結びつきは切っても切れるものではありません。それは、綿々と続く生命の繋がりだからこそです。
そうした生命の繋がりを強く意識していく時、親子間の会話や関わり方に変化が訪れてきます。初めは小さな、小さな出来事からかもしれませんが、継続的に“ありがたいな〜”との恩意識は、相互に敬いの関係に深まって行きます。
私たちは親からの繋がりを持たなければ、生まれてくることはできませんでした。そして、その“生命”は次の世代へと受け継がれていくものです。“生命のバトン”を受け取り、走りだしている私たちから、次の世代の子供達へスムーズな継承ができるような取り組みをし始めてはいかがでしょうか。
つまり、子供の状態をじっくりと観て、親が我が身を正していくことに意識を集中していくことが、親子関係の歪みや亀裂の解消に繋がっていくのです。子供を正そうとするのではなく、まずは自分自身の状態確認から始めてみましょう。