イベントレポート|ポスト資本主義時代に「アジア的組織」を考える
今回のイベントでは、
「友達であること」と「資本主義」はどう両立できるか?
というテーマについて考える場としました。
売上至上主義・GDP至上主義に疑問がなげかけられている「ポスト資本主義社会」においての組織のあり方を考えるために、「生活」と「働く」の境界線を曖昧に溶かしながら、仲間と「成果」を挙げることに成功している、アジアのオルタナティブな組織にヒントをもとめました。
イベントを通じて、参照事例として、インドネシアのアートコレクティブである「ルアンルパ」の組織設計/コミュニティのあり方の秘密に迫りました。
ルアンルパは「ノンクロン」という「仲間とぐだぐだとお喋りしたりお酒を飲んだりすること」を重要視するという、ともすれば「ゆるい」集まりにも見える形でありながら、アジアで初めて、世界的な国際美術展「ドクメンタ」で芸術監督に就任するという大きな「実績」もあげている非常にミステリアスな組織体/コミュニティです。親交の深いアートキュレーターの池田氏からその実態が語られました。(下記記事参照)
<登壇者リスト>
池田佳穂氏 | アートキュレーター
小川さやか氏| 文化人類学者/立命館大学大学院 教授
武井浩三氏 | 自然経営研究会代表理事
林篤志 | Next Commons Lab
以下は、本イベントの企画・編集を担当した神明が、イベントを通じて心に残った/重要だと感じたポイントを列挙していきます。
議論の重要論点
| 1 |
目的のない集まりを組織の中心にする 0:37:11
ルアンルパ及びインドネシアのアートコレクティブにおいて、ミーティングなどの目的のある集まりではなく、達成目標やプロジェクトのための集まりでもなく、目的のない集まり=「ノンクロン」が常に起点となっている。収益部門と、アートなど収益性がない/低い部門の対立が先鋭化しない構造となっている。
意味のある集まりではなく、無意味な集まりを中心にする、という点はまさに東洋思想の「空」や「無」に通づる考え方で、とても印象深かったです。余白の重要性はよく話題にあがりますが、目的のない、無意味な集まりを「常に」中心に置き続けることはなかなか難しい。飲み会の勢いでプロジェクトが成立すると、同じメンバーだと目的性の強い集まりが中心になってしまいがち。そんな中で、ミーティングなど意味のある集まりを都度外部に切り離していきつつ、あくまで無意味な集まりを中心として維持していくことが、東洋思想が説く「空」や「無」のように、かえって無限のエネルギーの源泉になりうるのだと感じました。
| 2 |
とにかく居心地の良い場をつくる 1:34:56
目的のない集まりを常に実現していくには、物理的な場所の居心地の良さが重要。綺麗すぎるのではなく、良い意味で「テキトー」な空間、たまっていても文句のいわれない空間、ついたむろしてしまう空間を作ることが重要。
一見経済合理性のない余白空間のデザインが、組織のエネルギーの源泉になりえる、という示唆を得ました。コミュニティマネージャーの熱量をとにかく注入することで場を運営していくのではなく、つい集まってしまうような空間設計こそが重要であると感じました。
| 3 |
資本主義とのハブとしての「教育」 0:30:03
ルアンルパには「美術部門」「マネジメント部門」の他に「教育部門」が存在し、学校を運営して収益を上げている。お金がないが学校に通いたい生徒たちに対して、学費の支払いの代わりに運営を手伝ってもらうことも。
教育の可能性を感じました。単純に事業収益をあげるだけではなく、一度資本主義的な枠組みを間に挟むことによって、オープンな市場から人材を確保でき、同時に「関係人口」的な関わりの余白を形成していることがポイントであると感じました。
以上のルアンルパをはじめとした、インドネシアのアートコレクティブを、小川氏の文化人類学、武井氏の「自然経営」(じねんけいえい)、林のNCLでの実践の視点をクロスさせながら議論しました。
小川氏が紹介したのは、タンザニア人コミュニティにおける「ウジャンジャ」。これは「騙し合いの狡知」といった意味で、仲間同士であっても時に騙し合う関係をもちつつ、その狡知を肯定的に評価する態度を伴う。これは一見、友達同士で助け合うルアンルパの例とは対極にみえる。しかし、お互いに「騙し騙され」助け合う文化が、財産を失った時に「あえて騙される」態度をうみ、人間関係によるセーフティネットとしても機能している点では、「騙し合い」が「助け合い」の関係に転化する。この点でルアンルパとの組織のあり方と、逆説的だが、通ずる部分があるように感じられた。(「ウジャンジャ」の詳細は以下記事を参照)
武井氏の「自然経営」との接点では、ルアンルパが実践する「ノンクロン」のような「目的の無い集まり」を非中心的組織/コミュニティととらえると、ヒエラルキーによらない統治=自律分散型ガバナンスが実現されている「自然経営」の実例でもあり、多くの共通点が指摘された。(武井氏の「自然経営」については以下書籍を参照)
その他議論のハイライト
00:49:05 独裁政権とルアンルパ
00:49:55 ルアンルパのビジネス部門
00:58:34 騙し合いと助け合いのタンザニア社会
01:06:15 インドネシアの「隣組」
01:30:06 タンザニア社会とインターネットの親和性
01:45:33 なぜ公衆トイレは汚れるか
01:59:53 資本主義はゲーム
今後の企画について
Next Commons Lab (NCL)では、今後も定期的にオンラインイベントを開催していく予定です。
開催情報は Peatix にてご案内いたします。
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