なぜ日本はちっぽけな島々に執着するのか?
近代国家の性質として、異常なまでの領土への執着というものが挙げられる。
ところでなぜ政府は竹島や尖閣諸島といったちっぽけに見える島にさえ執着するのだろうか?
これを解明するのは近代国家の特徴を知る上で非常に重要になってくる。
①経済的理由
領土問題に政府が執着する理由として、経済的理由を挙げる人達がいる。
小さく見える島でもその島を手放すことで失ってしまう排他的経済水域は大きい。
なんせ、島の沿岸から約370キロメートルが排他的経済水域になるのだ。
一つの島を手放せば最悪40万平方kmという巨大な土地資源を失いかねない。
この面積は日本本土面積である37.8万平方kmよりも広い。
尖閣諸島は大型魚の漁場だし、北方領土はオホーツク海の漁業権を獲得する上で非常に重要だ。
しかし、経済的理由は政府が領土に執着する理由として明らかにおかしい。
なぜなら、どう考えても領土問題に費やす費用がリターンに合わないからだ。
国会での答弁、対策本部、外交などにかかる莫大なコスト。
さらに外交問題をこじらせることで経済的に重要な隣国との関係が悪化する可能性がある。
そもそも政府は日本は一次産業によって成り立つ国家ではない科学立国であると自称している。
そのくせ大学にはまともに研究費を払わず、日本の論文の質は年々低下していることが論文引用数から示されている。
政府は、大学の研究所よりも得られるかどうかわからない島に膨大な資金を投じる方が利益還元率が高いと考えているのだろうか?
そんなはずはないだろう。
特に北方領土は返還されれば日本政府は頭を悩ませる巨大な政治課題になるに違いない。
北方領土を本気で返還してもらうつもりならば現地のロシア人に真摯に向き合わなければいけない。
この問題から日本政府や国民は目をそらし続けてきたが、そもそも現在の北方領土とはほとんど1世紀かけてロシア化された土地なのだ。
戦前の日本の土地がそのまま帰ってくるわけではない。
彼らの生活のインフラを整備し、住人を満足させられるだけの高度な福祉を提供して、十分な日本語教育と職業支援までしなければいけない。
金も人も大量に必要だ。
もし北方領土に住むロシア人を追い出すというのであれば、それこそ日本は北方領土を取り返す大義名分を喪失するし国際的評価の大幅な下落は免れない。
そう、北方領土を返還されるのは日本にとって経済的負担にしかならない。
ということは国家が領土に執着する理由は経済的理由ではないのだろう。
② 軍事的理由
経済的理由でないとすれば、次に考えられるのは軍事的理由だ。
つまり、こうだ。
日本がもしロシアの北方四島の領有を認めてしまえばロシアの領土欲は釧路まで届くかもしれない。
それに第一列島線を対米防衛線として掲げる中国は間違いなく琉球諸島に進出してくるだろう。
ということは、中国による尖閣領有を認めればその先にまで矛先が向くだろう。
なるほど、この理由だったら日本が実効支配している尖閣諸島の領有主張には合理性が見出せる。
だが、日本政府が実効支配していない北方領土や竹島の領有権を主張する理由は軍事的理由では説明がつかない。
そもそも軍事的に実効支配している地域を十分なリターンもなく渡すわけがないだろう。
なぜならあくまで領有を主張しているだけ、つまりただのパフォーマンスなのだ。
ルナエンバシーが月の領有を主張しているのと変わらない。
法的根拠に国家から異議を唱えられないあたり、ルナエンバシーによる月所有の方が正当性があるかもしれない。
他にも中華民国の例がある。
中華民国は清国の領土を自国の正当な領土であると主張し、ロシアのトゥヴァ共和国やモンゴルでさえ自分の領土であると主張している。
だがその実効支配地域は台湾と一部の島々だけだ。
軍事的理由から領土問題に関する主張をするのならばパフォーマンスだけではいけない。
フォークラウンド紛争のように軍事行動を伴う必要がある。
となれば、尖閣諸島の領有を主張する理由がわかっても北方領土や竹島の領有を主張する理由は理解できない。
③政治的理由
ということで最後に残るのが政治的理由だ。
これが日本政府などの近代国家が非常にちっぽけな領土へ利益度外視に執着する最大の理由である。
政治的理由というのは国外向けと国内向けの2通りの意図が存在する。
国外向け政治的理由
政府は他国からナメられないためにちっぽけな領土を手放さないようにしている。
国際社会においてナメられないというのは非常に重要だ。
ナメられない、とは独立した一個の存在として認められることである。
例えば日本は軍事的にアメリカに完全に依存しきっている。
それが日本の常任理事国入りを妨げた第一の理由であることは間違いない。
主権国家であることを他国から疑われてしまえば、他国とまともな交渉ができなくなる可能性がある。
その際の不利益は大きすぎる。
さて、このちっぽけな領土への執着は独裁国家であればあるほど顕著になる。
それは独裁者が他国からナメられることを何よりも恐怖に感じるからだ。
独裁者達が利益を度外視して領土欲を丸出しにするのは、欲望のためではなく臆病者だから。
これは非常に重要な話だろう。
国内向け政治的理由
そして同じように重要なのが国内向けの政治アピールだ。
北方領土は還ってくることはないし、もし還ってきても間違いなく利益より不利益の方が大きい。
これはまぎれもない事実だ。
だが、この事実を公の場で公言したらどうなるか?絶対に叩かれるだろう。
政界の人間がこのような発言をすれば失脚する可能性さえある。
なので政治家達は利益に見合わない領土問題にリソースを注いで対処し続けなければいけないのだ。
ロシアによるクリミア侵攻は「戦術的には大成功であるが、戦略的には大失敗に終わった」とよく言われる。
1日とかからずにほとんど衝突を起こさずにクリミア併合を実現させ、クリミア半島の大多数の住民からは歓迎され、黒海へのアクセスと肥沃な土地を手に入れることに成功した。
だが対価として比較的友好だったウクライナを完全敵対国にしてしまい、欧州からの制裁が入った。
クリミア半島程度とは割に合わない対価と思うかもしれない。
だが、クリミア併合によって得たものは純粋な経済的、軍事的な利益ではない。
ロシア国民は強いロシアを望んでいる。
その望みに答えたのがクリミア併合なのだ。
同じように政治家も国民の望みに答えなければいけない。
国民が領土に執着する理由
では、なぜ国民もそれほど国家の領土に執着するのだろうか?
北方領土は竹島は日本固有の領土であるとする日本の教育のせいもあるだろう。
だが、日本以外の国家でも同じ現象が見られるあたり教育のせいだけではないはずだ。
近代国家は国民を守ってくれる。
平和の保たれた近代国家と国民の間ではこのような暗黙の了解がある。
だからコロナウイルスの感染拡大の際も政府は糾弾の対象になった。
国家が国民を守るものだという潜在意識が存在するからだ。
領土を明け渡すというのは、この前提を覆されてしまうことになる。
もしかすると国家は自分達のことを守ってくれないかもしれない。
国民にその不信感が広がれば、国民は政府のことを自分の国の共同体ではなくただの異質物とみなしてしまうかもしれない。
そして、国家は殺人事件などではない無差別テロには非常に敏感になる。
次の日には自分が狙われるかもしれないという恐怖が、国民の政府への不信につながってしまうかもしれない。
だから政府は全力をもってテロを叩き潰す。
100人殺されたテロが起これば、そのテロの原因を1万人の自国の兵士を殺して潰すのは近代国家にとって何もおかしくないこと。
まとめ
近代国家にとって何よりも大事なのは国民に「政府は国民を守ってくれないのではないか?」という不信の根を潰すことなのだ。
これはどのような経済的利益よりも、軍事的利益よりも重要になる。
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