なぜものづくりの利益改善にプライシングが効果的なのか

こんにちは、サイードです。
本日はプライシングについて少し語りたいと思います。

昨今、価格転嫁という言葉に見られるように、だんだんと価格に対してスポットライトが当てられるようになりました。昨今では、原価の高騰、また人件費の増加に伴って、コスト上昇分を単価に上乗せしなければ利益が出なくなってしまう、という切迫感からプライシングに前向きに取り組む企業も増えてきているようです。

ただ、プライシングというのは、価格転嫁に止まらず、経営の根幹を担う重要な要素です。京セラの創業者である故稲盛和夫も、「値決めは経営である」と話しているほどです。

では、なぜここまでしてプライシングが重要と言えるのか。なぜならば、プライシングは企業の利益を決めるからです。

非常に物事をシンプルに捉えて、具体例で説明を進めましょう。あるA商店が、原価30円の商品を仕入れて、100円で1つ販売したとします。この時、売上に占める原価の割合は、100円のうち30円なので、30%ですね。ゆえに、粗利は、100-30で、70円。粗利率は100円のうち70円なので、70%ということになります。

もしこれが、仕入れ値を変えずに、販売の値段を5%上げるとどうでしょうか?原価は変わらずなので、30円。売値が105円となったので、以下のようになります。
売上:105円
原価:30円
原価率:28.6%
粗利:75円
粗利率:71.4%


粗利率で見ると、70%から71.4%になるので、(71.4% / 70% -1) の計算式で、2%増加しました。単価を5%上げるだけで、粗利が2%改善することになります。

「あれ、これだと影響度合い少なくない?」と思った方へ、さらに前に進みましょう。

仮に、A商店の固定費(=人件費やお店の賃料など)として、50円固定でかかっていたとします。そうなると、価格改定前後で利益率は以下のように変わります。

①価格改定前
売上:100円
原価:30円
固定費:50円
営業利益:20円 (20%)

②価格改定後
売上:105円
原価:30円
固定費:50円
営業利益:25円 (23.8%) 

※営利の増加で見ると、20% → 23.8%で、改定前から、19%も利益が改善ということになります。

上記のシミュレーションだと、営業利益が20%とかなり高めなので、ものづくりを中心とした製造業では、この数字はいかないかもしれません。ここで、さらにもう一つシミュレーションをしてみましょう。例えば、営業利益を、世間一般の感覚である10%(これでも高い!と思う方もいるかもですが)になるよう、固定費を60円にしてみます。そうするとどうなるでしょうか・・・

①価格改定前
売上:100円
原価:30円
固定費:60円
営業利益:10円 (10%)

②価格改定後
売上:105円
原価:30円
固定費:60円
営業利益:15円 (14.3%) 

※営利の増加で見ると、10% → 14.3%で、改定前から、43%も利益が改善!
ここまでくると、かなり営業利益の改善は大きいですね。

このシミュレーションを通じてわかってくるのは、大きく二つです

①プライシングは、ほとんどの企業において、単価を上げる以上に、営業利益の改善幅は大きくなる
②プライシングは、営業利益が低ければ低いほど、営業利益改善のインパクトが大きくなる(即ち、営利率が低い業界ほど、打ち手としては有効である)

たかが価格を数%あげるだけで、と思われるかもしれませんが、原価や固定費が変わらない以上、数%の増加分が、そのまま営業利益として跳ね返るわけですので、インパクトは相応に大きくなるのです。

なぜ、ものづくりの利益改善にプライシングが有効なのか。この問いに対する答えは、「ものづくりはそもそも業界的に営業利益率が厳しい。」という点と、「営業利益が厳しければ厳しいほど、プライシングによる売値の上昇に伴う利益改善のインパクトが大きい」という二つの組み合わせになります。

冒頭、価格転嫁でプライシングが注目を浴びている、と言いました。ただ、単純に原価高騰を反映するだけでは、不十分なのです。利益改善のためには、人件費増・原価高騰を超えて、いかに値決めを考えるか、という点がポイントになってきます。

次回では、ではなぜ、日本企業においてプライシング改革が進んでこなかったのか、その根本的な理由についてお話しできればと思います。



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