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角川武蔵野文学賞攻略日記

経緯


こんなものがあり、


第1話
キミと過ごした、最後の12分。/小島優 - カクヨム 



こんな感じの作品でエントリーをした。


ようするに武蔵野という土地を舞台にした地方文学賞があって、タイムラインのノリからみんなで応募してみようという流れがあったわけです。

800〜4000字という、まあ調子よければ一晩で終わりそうな軽いハードルということもあり、軽い気持ちで挑んだのですが、まあそもそも武蔵野ってなんなんだよ、とか、4000字じゃ話は纏まらねえとか、そもそもオリジナル小説書くのが久しぶりすぎるという様々な条件が重なり、自分史上最大の難産となってしまいました……

まあでも結果的に悩んだ分、自分自身非常に満足の行く作品に辿り着けたので、挑戦して良かったのだと思っております。

今回はこの「よく知らねえ土地の地方文学賞」を攻略する上で気にしていた事をまとめ、次の機会に活かして行きたいと思います。


・想定する読者は誰なんだろう問題

この賞は「武蔵野樹林」といういかにも地元の自然を大切にしていそうな雑誌が主催しており、第一回では一般文芸のみの募集だったものが、KADOKAWAの介入を経て、第二回では一般文芸部門とライトノベル部門に分かれた、という経緯がありました。

一般文芸の方はおそらく「武蔵野樹林」の読者……要するに武蔵野生まれ武蔵野育ちのネイティブムサシアンに向けて、武蔵野の自然の良さを描きながら、地域特有の"あったかさ"みたいなみたいな話を書いて共感ベースの感動話を書くべきだろう、と考えました。

ライトノベル部門に関しては、最初の頃一体誰に読んで欲しくてこの賞を設立したのか、その理由は皆目検討も付いていなかったのですが、ところざわさくらタウン内にあるライトノベル図書館に「ライトノベル宣言」なる掲示を発見し、その中で定義されている「ライトノベルは青春期の少年少女が与えられる本に満足せず、自分の意思で手に取る最初の本である」が答えなのではないかと考えを巡らせた結果、"武蔵野に住む小・中学生へ向けて書かれた、武蔵野に愛着が湧くような小説"が求められているのではないか、というアタリを付けました。

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・絶対に「創生の巌 ~ 武蔵野今昔がたり」に勝てない問題

こちらが前回大賞を受賞した作品です。

どういった作品なのか掻い摘んで説明しますと

・審査員に武蔵野歴史研究家がいたので、武蔵野発祥から今までの歴史をギュッと押し込んで4000字の時代小説にしました!普段から武蔵野を題材に書いてます!

と言った作品でした。

当然、最初に湧き上がった気持ちは、無理。です。

なんつったってこっちは武蔵野と縁もゆかりも少しくらいしかない身、こんな一点突破の怪物と武蔵野で戦って勝てる訳がありません。

この怪物が今回も応募してきたとしても、おそらくまた一般文学へ行くでしょうという憶測のもと、半自動的にライトノベル部門へのエントリーが決まりました。


・作品の輪郭が完成

というわけで「武蔵野在住の小・中学生へ向けた、武蔵野のことを好きになるライトノベル」というベースが出来ました。


・内容を少しずつ詰めていく

そこに住む人に向けた小説であれば、外から見た武蔵野や観光名所を描くより、郷土に根付いたもの(たとえば料理とか)、もしくはその土地の日常を描くべきでしょう。

最初は武蔵野で物語を描く必然を考え、郷土料理をベースに話を考えますが、どうやっても面白い話が出来る気がしない。うんうん唸っているうちに締め切りが目前に迫り、日常を描くことを余儀なくされます。

なし崩し的に日常の中で武蔵野の良さを知る話を書くことになりますが、どういったアプローチをするか考えた末、「日常で見落としがちな、小さな武蔵野の良さ」に触れる作品にしようと決断しました。


・文字数4000字問題

今回のレギュレーションである4000字までという字数制限は非常に厄介で、キャラクターノベルとしてのライトノベルを意識して描写をやっていたら、それだけで2000字くらい行ってしまいそうですし、事件の起こりと解決まで書いたらキャラの掘り下げが出来なさそうです。

なので、あえてキャラクターの個性をボケさせ、かつ性別や地の文すら誰が喋っているか曖昧にすることで、読者自身が主人公となる作品にし、キャラクターの奥行きを作ります。

自分としてもこれは結構挑戦的な試みで、正直うまく行ったかどうか判断がついていません。行ってるといいなー。

しかし、こういったキャラ造形にすると決めた段階で「長引けば長引くだけ、キャラクターと読み手は乖離を起こす」ことに気が付いてしまいます。

なので、これを解決するため、実質の文字数を4000の半分、2000文字程度で抑えようと決意します。4000字で書きたいからこの作り方を選んだはずなのに、どんどん首が閉まっていますねこのスカポンタンは。まあでも短い方が小・中学生も読みやすいでしょうし、結果オーライでしょ!と開き直ります。

2000字と言ったらもうストーリーを作るのは無謀です。一本の話を描くより、一冊の本の中で1番面白いシーンだけを抜き出したような作り方をした方がよいでしょう。気分はもうほとんど泣けるMAD動画を作るときと一緒です。


・なんとか形になってきた…きたのか?

という訳で、前述の条件を前提に話を作って行った結果、

「お互い、日常で見落としがちだけど好きなものを言い合う」という話のベースが出来上がります。

読み手が小・中学生ならば、登場人物は高校生がいいでしょう。ちょうど背伸びしたい年頃ですし。

これで、「お互い、日常で見落としがちだけど好きなものを言い合う高校生2人組の会話劇」という話の屋台骨が完成しました。

1冊の本の中で1番面白いシーンだけを抜き出したような作り方をするという前提があるため、何らかの終わりに向かっている2人の話が良いかと思われます。ここは直感的に、1番想像しやすい「卒業後の別れ」についての話をすることにしました。

「卒業後、進路がバラバラになり別れる前の2人、彼らは今までの思い出を振り返るように、かつて好きだった青春の1ページを振り返る……」

おお、なんとなくいい感じになりましたね。

ここまで来たら作品に目的を持たせましょう。彼らが思い出を振り返っているのは、もう2度と戻らない日々に想いを馳せているのか、これからの未来に進むための燃料としているのか、個人的には子供に向けて描くのであれば、後者の方が好ましいと思いますね。ちょうど先の見えない将来に不安を覚える時期でしょうし。

この辺りで、作中の時間を夕方にして、どんどん沈んでいく夕日と読者の感情をリンクさせ、最後に闇の中を駆け出す希望の終わり方が見えてきましたね。


・神を細部に宿せ

作品がほとんど出来上がったら、武蔵野小説としてのディテールを上げて行きましょう。まずは舞台を明確にし、ここからここまでを歩かせる。と決めてグーグルアースと睨めっこすることで作品のリアリティを上げて行きます。

場所は色々考えました。武蔵野樹林が主催ですし、自然が多い場所にするべきか、はたまた都市郊外としての赴きが強い場所にしてリーチする読者を増やすか…色々悩んだのですが、この時点で締め切り3日前とかだったので、昔住んでいて馴染みがある荻窪周辺かつ駅近くに高校がある、西荻窪に決めました。

西荻窪は商店街を抜けるとちょうど吉祥寺女子校に辿り着くので、その道を歩く話に決まりました。


その後、小・中学生向けに文章をチューンして行きます。特に気を付けたのは、

・なるべく1つの文章を短くして、読みやすさにステータスを振る

・少し背伸びしたい年頃だろうし、ストレスにならない程度に詩的な表現を散りばめる

・大賞を取って展示された時を想定し、とにかくテンポ感重視で読了させることを意識した文にする

・武蔵野特有の固有名詞を出すと、教科書的ないやらしさが出てしまうので、極力名前を出さずに武蔵野を表現する(これは日和ってあんまりうまくいかなったです)

・前述したとおり、少ない文字数で感情移入度を上げるため、地の文は2人のうちどちらのものか分からないようにし、可能な限り性別もボカしてリーチする確率を上げる。キャラクター造形は外交的と内向的程度に抑える。

でしょうか、これ以外も何か考えていた気もしますが、忘れてしまったのでまあいいでしょう。


・できた〜〜〜!!!

やった〜〜〜〜〜!!!!!


・いかがでしたでしょう?

2000文字の小説を書くための土台を書いていたら4000文字近くなってしまった。なんで?

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