【NEXCHAINオンラインサロン】データに基づく課題解決”経済学”の社会実装
こんにちは、NEXCHAINです。
去る10月19日、オンラインサロンを開催しました。
今回は「データに基づく課題解決”経済学”の社会実装」と題し、株式会社エコノミクスデザイン様によるコーポレートピッチを実施いただきました。
株式会社エコノミクスデザイン様ホームページ:
「経済学をビジネスに活用する」ということを、いきなり明確に思い描くことは難しいかもしれませんが、事業企画や商品・サービス開発、マーケティングなど、経済学の理論はビジネスにおける様々な分野で活用されています。
今回は、「行動経済学の活用」、「商品・サービスの評価や人材評価」、「施策の社会的インパクトの評価」について講演いただきました。
これからピッチ内容をかいつまんでご紹介しますので、それぞれのタイトルを見て少しでも「面白そう!」と感じていただいた方、是非読んでみていただけたら嬉しいです。
登壇者プロフィール
・明治学院大学 経済学部 准教授
・Economics Design Inc. エコノミスト
【経歴と専門分野】
2013年慶應義塾大学経済学部卒業、2018年慶應義塾大学で博士号(経済学)取得。慶應義塾大学助教、明治学院大学専任講師を経て、2021年から現職。専門分野はマーケットデザイン(オークション、マッチング)、社会的選択理論(レーティング、投票)など。
行動経済学の活用:ナッジ
ナッジ(Nudge)という言葉は聞いたことありますか?直訳すると「そっと肘で小突いて後押しする」という意味の言葉です。
行動経済学においては、強制したり、報酬や罰則などのインセンティブで誘導するのではなく、選択肢の自由を残しながら、あくまでも自発的に望ましい行動や特定の行動をするように誘導する手法を表します。
ここで、皆さんにもナッジを体験していただきましょう。
この2つの選択肢のうち、あなたはどちらを選びますか?
どちらも情報としては全く同じですが、Aは90%生き残れる、Bは10%死亡するかもしれないと考える方が多いのではないでしょうか?
実際に医療従事者に質問をしたところ、手術をすると回答した人は、Aは80%、Bは50%だそうです。*1
人は利益よりも損失の方が大きく感じるため、損失を強調されるとその損失を回避したくなるという傾向があります。
同じ情報でも、伝え方次第で全く異なる結果に繋がることがわかりますね。
*1 例の出典:ダニエル・カーネマン著「ファスト&スロー」
商品・サービスの評価や人材評価:レーティング
レーティングとは、複雑ないくつもの要素をひとつの数字に集約し、評価する手法です。
身近な例としては、入学難易度を評価する偏差値、飲食店の質を点数評価する食べログ、国の豊かさを評価するGDP*2 などがあります。
複雑なものを「ひとつの数字に集約」することで、失う情報もある一方、比較がしやすくなるという大きなメリットがあります。
*2:国内総生産。一定期間内に国内で新たに生み出されたモノやサービスの付加価値を表す。国の経済力を表す指標として用いられ、前年比や前期比でGDP成長率を見ることで、経済成長の度合いを確認できる。
レーティングの機能は、3つあります。
「一国の豊かさ」と言われても、豊かさの尺度は人それぞれなので比較が難しいですが、GDPという数値にすることでわかりやすくなります。ただし、単に数値化すれば良いということではありません。例えば、洗濯機の静かさが42㏈と表示されていても、それがどの程度静かなのか想像できませんよね。そんな時は、星の数などを用いて評価することで、比較検討しやすくなります。
また、モノが溢れている昨今の世の中で、似たような商品やサービスが複数存在することは珍しくありません。このような場合でも、レーティングによる評価があることで、一覧化して比較しやすくなります。
レーティングを用いることで、ユーザーは、商品を実際に使用する前から商品の性質をある程度知ることができます。更に、商品提供者にとっても、「自分たちの商品やサービスがユーザーからどのような評価を受けているのか」を把握でき、商品やサービスの改善に役立てることができます。
レーティングを適切に活用するためにはいくつかポイントがあり、そのひとつが評価を集める上での基準です。
金銭換算など、全ての人が共通認識を持っている同じ単位で評価する場合は問題ありません。しかし、星の数などで評価する場合は、人によって評価基準にバラつきが出てしまうため、星の数に共通言語を定義することで、人による基準のバラつきを抑えます。
(例:星5「かなりいい」、星4「いい」、星3「普通」、星2「悪い」、星1「かなり悪い」など)
近年、レーティングは様々なところで用いられるようになってきています。経済学の視点を取り入れることで、ユーザーにとってはより安心して参考にでき、提供者にとっては商品・サービスの更なる向上に活用できる良い手法になっていくと考えられます。
施策の社会的インパクト:SROI
SROI(Social Return on Investment)とは社会的投資収益率のことで、行政・民間企業での活動における投資がもたらした社会的便益について、ステークホルダーを定義した上で、それぞれの社会的インパクトを貨幣価値に換算することで定量的に評価する手法を表します。つまり、「投資が社会に対してどの程度のインパクトを与えたのか」を測る指標です。
昨今、ESG指標の可視化など、非財務価値を可視化する動きが様々な業界で活発化しています。欧州に目を向けてみると、こうした数値の開示義務が課されていますし、そう遠くない将来、日本でもそのような動きが見られるようになるかもしれません。
このようなシーンにおいても、SROIを活用したアプローチが有効です。
ここで、SROIの起源を遡ってみましょう。
1990年代にアメリカで開発され、当時はNPOの雇用創出活動に対する資金助成への業績評価指標として利用されていました。
その後、欧州での活用・開発が進み、運用ガイドラインが発行されるなど評価手法としての標準化が進み、2015年のSDGs採択に伴い、NPO活動に限らず一般企業での実用化が加速しています。更に、投資家のESG指標への注目度も上がったことで、事業やCSR活動による社会的インパクトについてSROIを用いた定量化が進んでいます。
では、SROIはどのように活用するのでしょうか?
SROIの評価手法には予測型と評価型があり、状況に応じて2つの手法を使い分けます。施策実施前に予測型で評価をし、施策実施後に評価型で再度検証を行うことで施策を最適化するサイクルを作り出す運用が望ましいとされています。
SROIで施策評価を行うことによるメリットは3つあります。
予測型の施策評価を行うことで、投資に見合った社会的便益が生じる施策を選択することが可能になり、セグメント別でSROIを算出することで、投資に見合った社会的便益が生じる対象を選択することが可能になります。更に、実施中の施策について評価型の施策評価を行うことで、今後の施策継続有無や改善要否などの意思決定が可能になります。
また、算出方法は以下の通りです。
計算の結果、SROIが「1」を超えていれば投資価値の正当性を得ることができます。
この他にも、市街地への防犯カメラの設置に関する事例を交えながら、丁寧にご説明いただきました。
最後に
今回のピッチは、一見馴染みの無い分野と思いきや、実は私たち1人1人の生活とも非常に密接に関わる大変興味深い内容でした。
ご参加いただいた会員の皆様からも、各社の視点で多様な意見が飛び交いました。
NEXCHAINは、業種・業界の異なる会員様同士が、今回のようなイベントを通じ、交流を深めることができるコンソーシアムです。
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・食べログ は 株式会社カカクコム の登録商標です。
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