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価格検討で大事な4つの問い

はじめに

企業が商品やサービスの価格を検討するとき、「適正価格はいくらなのか」「値上げをしても顧客離れが起きないだろうか」といった悩みや不安を抱えることは少なくありません。一方で市場や顧客ニーズは絶えず変化しており、競合他社との価格競争や新たなビジネスモデルの登場によって、自社の価格戦略を時代や状況に合わせて再構築する必要性が増しています。放っておくと利益やブランドイメージを損なう恐れがあるため、意図的・戦略的に価格を考えることが必要になっているのです。
とはいえ「価格検討は難しい…」と感じている方も多いのではないでしょうか。そこで本記事では、価格検討の整理しやすい視点として「4つの問い」を提示します。すなわち、「誰に」「どんな価値を」「いくらで」「どう請求するか」という4つです。これらを意識することで、価格戦略の骨格をしっかり把握しながら、自社ならではの強みや顧客ニーズにあった設定がしやすくなるでしょう。

プライシングの4つの問い

1. 「誰に」提供するのか:ターゲットの明確化

1-1. 価格戦略は顧客セグメントの設定から始まる

まず、価格を検討する際は、自社の商品・サービスを「誰に」提供するのかを明確にすることが出発点です。BtoBであれば、業種・企業規模・調達プロセス・購買担当者の役職などを考慮し、BtoCであれば、性別・年齢層・ライフスタイル・購買頻度などを踏まえてターゲットをイメージするとよいでしょう。
特にBtoBの場面では、購買決定者と現場の利用者が異なることが多く、さらに社内の稟議(りんぎ)プロセスや予算の仕組みも影響します。一方、BtoCの場面では消費者個人の好みや購買行動、SNSなどのクチコミ要素も大きな要因となります。ターゲットの特性を十分にリサーチし、具体的に絞り込むことが、のちの価格設定に説得力を持たせる鍵となります。

1-2. ニーズ・課題を把握する

「ターゲット」を設定するだけでなく、彼らがどんなニーズや課題を抱えているのかを正確に捉えることも重要です。たとえば、クラウドサービス(SaaS)を提供する場合、BtoBなら経理担当や経営者が「効率化」と「コスト削減」を求めているケースが多いでしょう。BtoCなら一般ユーザーが「利便性」と「使いやすさ」を重視しがちです。ターゲット顧客の課題や求めるメリットが明確になれば、自社の商品・サービスがもたらす価値をどのように訴求し、価格を決めるべきかが見えやすくなります。

1-3. 顧客セグメントごとのWTPが重要

一般的に言われる顧客セグメントは、上記1-1で紹介したような軸で定義されることが多いですが、価格を考える際には「顧客セグメントごとにWTPが異なるか?」も重要です。
WTP(Willingness to Pay)とは「顧客が製品やサービスに対して支払いたいと思う最大の金額」を指します。同じ製品に対してWTPが異なる顧客が存在するということは、そのそれぞれの顧客に対しての適切な価格は異なる可能性があるということです。顧客セグメントを検討する際には、それぞれのセグメントでWTPが異なるのか?という点も意識しましょう。


2. 「どんな価値」を提供するのか:製品・サービスの特性と差別化

2-1. 価格は価値への対価

価格設定をするときに多くの企業が見落としがちなのが、「製造・開発コスト」をベースにした価格算出だけでは十分ではないということです。もちろんコストを回収し、利益を確保することは重要ですが、最終的には顧客が感じる「価値」に対してどれだけお金を払うかが価格決定の本質です。BtoBでは効率化や品質向上など、ビジネス上の成果が価値として認識されやすいですが、BtoCではブランドイメージやデザイン性、購入体験など、より感性的な要素も価値に含まれます。

2-2. 差別化ポイントの明確化

市場には多様な競合商品が存在します。BtoBの場合は機能面やコストパフォーマンス、サポート体制などを重視する顧客が多い一方、BtoCではデザイン・ブランド力、SNSでの評判などが大きく影響する場合があります。いずれの場合も、「自社の強み」「競合他社にはない提供価値」を整理し、それを可視化したうえで価格に反映していくことが重要です。たとえば、競合が提供できない機能や特別な顧客体験をアピールすることで、多少高い価格でも納得してもらいやすくなります。

2-3. 提供価値は「誰に」によって変わる

価格戦略においては、自社が提供する製品やサービスの「価値」が顧客にどう評価されるかが重要ですが、その評価基準は「誰に」提供するかによって変化します。前述の「1-3. 顧客セグメントごとのWTPが重要」にあるように、同じ製品・サービスであっても、顧客セグメントごとにWTP(Willingness to Pay)が大きく異なる場合があります。
価格を設定するときは、その価値が顧客セグメント別にどれだけ魅力的に映るか、さらにそれに対してどれだけの対価(WTP)を払う意欲があるかを見極める必要があります。仮に高額なプレミアムプランがまったく売れない場合は、そのセグメントにとっての提供価値がWTPを上回っていない可能性があるため、見せ方や付随サービスの改善、あるいは価格の調整を検討する必要があるでしょう。逆に、低価格プランに集中しているセグメントにも、付加価値を再認識させる施策を打つことで、より高いWTPにつなげられるかもしれません。
このように、「どんな価値を提供しているのか」は顧客セグメントによって複数の解釈が存在し、それぞれに適した価格設定や訴求ポイントが求められます。


3. 「いくら」で提供するのか:価格設定とイメージ戦略

3-1. 料金表とは「価格体系」と「金額」の2要素がある

料金表を策定するときに意識したいのは、「価格体系」と「金額」という2つの要素を明確に区別して考えることです。多くの企業は金額設定ばかりに注目しがちですが、そもそも「どのような形で価格を提示するか(価格体系)」を設計できていないと、顧客にわかりやすい料金表にはなりません。たとえば、「基本料金+従量課金」「定額プラン+オプション」など、さまざまな組み合わせが考えられます。価格体系を明示することで、顧客は追加費用や運用コストの見通しを立てやすくなり、納得度の高い導入検討が可能になります。
一方、金額そのものを検討する際は、コスト回収や競合他社の水準だけでなく、顧客が認識する価値や心理的抵抗感など多面的な視点が必要です。料金表ではよく「プランごとに機能やサービス範囲が異なるのに、なぜこういった金額設定なのか」が明確に示されていない場合がありますが、価格体系と金額の両面を整理することで、顧客に対する説明がよりスムーズに行えるようになるでしょう。

3-2. 提供価値に基づき、価格体系を決める

「どのような価値を提供しているか」を軸に価格体系を決めることがポイントです。たとえば、基本プランとプレミアムプランが存在する場合、プレミアムプランでは「通常よりも手厚いサポート」「高性能な機能」「より長い保証期間」などの付加価値をしっかり打ち出す必要があります。BtoBであれば、導入支援やコンサルティング要素をセットにして、顧客の業務効率化や売上増に直結するメリットを提示する方法も有効です。
価格体系を決める際は、機能やサービスを細分化してオプションとして追加できる形にするのか、あるいは「パッケージ」にまとめてわかりやすくするのかなど、どのように提供価値をまとめて価格表で表現するのか?を考えます。

3-3. 金額の決め方

具体的な「金額」を決める方法としては、こちらの記事で紹介しているコストプラス・競合ベース・バリューベースという代表的な3つの手法があります。

  • コストプラス
    自社の開発費や運用費などのコストをベースに、一定の利益率を上乗せして価格を設定する方法です。製造業を中心に日本国内で非常に多くの企業が採用しています。

  • 競合ベース
    市場に存在する競合他社の価格を基にして、自社の価格を設定する方法です。自社の提供価値・価格を他社と比較しながら、自社のめざすポジショニングを考慮して価格を決定します。

  • バリューベース
    顧客が感じる価値(バリュー)を軸に価格を設定する方法です。顧客がどのような価値を自社のサービスに感じているかを把握し、その支払意欲に合わせて価格を決めます。

上記の手法は単独で利用するのではなく、複合的に扱う必要があります。

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4. 「どう請求するか」:料金モデル設計の重要性

4-1. 多様化する料金モデル

最近ではBtoB・BtoCを問わず、サブスクリプション(継続課金)や従量課金型など、多様な料金モデルが広がっています。たとえば、BtoBのSaaSサービスであれば「初期導入費用+月額利用料」とするのが一般的ですが、BtoCの動画ストリーミングサービスや音楽配信サービスでも月額定額制が当たり前になっています。また、製造業でもアフターサービス費用をセットにしたパッケージ料金を提示したり、小売業やECサイトでもサブスク型の商品配達サービスを展開したりするなど、イノベーションは止まりません。自社の商品特性と顧客ニーズを考慮して、継続課金や従量制、定額制などがフィットするかどうかを検討することが大切です。

4-2. 請求タイミングと顧客体験の最適化

「どう請求するか」に関しては、請求金額だけでなく、請求のタイミングや方法(支払い方法・契約プラン・解約条件など)も重要です。BtoBでは企業の予算サイクルに合わせた請求スケジュールが求められますし、BtoCではクレジットカード決済やスマホ決済など多様な選択肢を用意して利便性を高めることが大切です。また、サブスク型の場合は自動更新のタイミングや利用履歴の可視化、解約手続きの簡易性などが顧客満足度に影響します。顧客が使いやすいと感じるタイミングや方法を的確に捉えることで、解約リスクを減らし、顧客ロイヤルティを高めることができます。


まとめ

価格設定は、ビジネスにおいて利益を獲得するための単なる手段にとどまらず、企業のブランドイメージや顧客体験に直結する重要な戦略要素です。
「誰に」「どんな価値を」「いくらで」「どう請求するか」を改めて問い直すことで、自社の本質的な強みや顧客のニーズを再認識でき、今後の方向性を明確にする助けにもなります。


当社では、価格戦略の策定から価格改定の実務支援まで行っています。価格設定(プライシング)について検討中の方は、ぜひ下記よりお気軽にご相談ください。

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