オリジナルアニメ「キャプテン・アース」10周年特別インタビュー(前編)
「希望っていうのは、今よりも未来のほうが素晴らしいと思えることだ」。第1話で発せられた、そんな象徴的なセリフから10年――オリジナルアニメ「キャプテン・アース」がTV放送開始から10周年を迎えました。それを記念してさまざまな企画が進行中! 五十嵐卓哉監督、シリーズ構成・脚本の榎戸洋司さん、大薮芳広プロデューサー(ボンズ)に当時を振り返っていただきました。アースエンジン・インパクター エクスパンド!
――「月刊ニュータイプ」としては、2013年10月号で「キャプテン・アース」の第一報を出させていただくなど、本当にお世話になりました。最初の取材で五十嵐さんは「(「キャプテン・アース」ではロボットアニメとして)ど真ん中に剛速球を投げ込んでキャッチャーを吹き飛ばす」とおっしゃっていました。覚えていらっしゃいますか?
榎戸 その発言は「キャプテン・アース」の前に、僕と五十嵐監督と大薮プロデューサーで、2010年に「STAR DRIVER 輝きのタクト」(以下「スタドラ」)という作品をやっていたことが前提としてあるんですよ。
五十嵐 やっぱりロボットものって大変なんです。設定も多いし、作画をするときのコンセンサスもスタッフ間でしっかりと取らないといけないといけない。その中でオリジナルのロボットものを初めてつくることになったときに、「スタドラ」は自分が投げやすい球を投げていたというか「自分たちらしい作品になれば」と思ってやっていたんです。そうしたら2本連続でオリジナルのロボットものをつくれることになった(笑)。なので「キャプテン・アース」は、より「正統派」でやろうと思ったんです。
榎戸 やっぱりオリジナル・ロボットアニメには系譜があるんですよね。サンライズさんによる「機動戦士ガンダム」に代表される流れがあって、その会社でプロデューサーだった南(雅彦)さんがボンズを立ち上げた。ボンズには「交響詩篇エウレカセブン」というわりと主流派のロボットアニメが代表作としてある。僕が初めてボンズ作品に参加したのは「ラーゼフォン」というロボットアニメでしたけど、シリーズ構成をしたのは五十嵐さんといっしょにやった「桜蘭高校ホスト部」で。当時、少女漫画原作は君たちに任せる、みたいな社内の空気のなか、自由にやらせてもらったんです。その次に僕らがロボットアニメとして「スタドラ」をつくろうとしたら、ロボットアニメってそういうものじゃないんだよ、ロボットアニメならひと言言わせてもらう……みたいな空気になって(笑)。そういうこともあって、2本目の「キャプテン・アース」をやるときは心構えが違ったんですよね。
大薮 僕もずっとボンズで働いていて、ボンズにいるならロボットアニメをいつかつくらないとだめだよね、みたいなプレッシャーをずっと感じていたんです。そのころは(ボンズの)Cスタジオにいたんですけど、Cスタジオだけがロボットアニメをつくっていないという圧もあって(笑)。「DARKER THAN BLACK 黒の契約者」をつくっているときも最後に黒(主人公)をロボットに乗せて、戦えばいいじゃん、なんて南さんに言われるくらいだったんです。そういうなかで、ずっとごいっしょしたかった五十嵐さんと榎戸さんと「スタドラ」をつくったら、すごく楽しくて。次は、より王道のロボットアニメをつくることになった(笑)。そうやってロボットアニメをつくっていて驚いたのは、「ロボットアニメには引力がある」ってことでしたね。榎戸さんがおっしゃったように、ロボットアニメというだけでいろいろな人が集まってくる。「キャプテン・アース」のときも、それがありがたくもあり、大変だったところでした。
――「キャプテン・アース」は、遠宇宙から地球への侵攻を企む知的生命体・キルトガングに対抗すべく、真夏ダイチ、嵐テッペイ、夢塔ハナ、夜祭アカリの4人の少年たちが戦う物語。ダイチたちの南の島でのまぶしい日々と、永遠の命をもつキルトガングたちのドラマなど、たくさんの見どころを詰め込んだ作品でした。
榎戸 「スタドラ」と「キャプテン・アース」で王道ロボットアニメから意図的に外したポイントがあって。だいたいロボットアニメの主人公は若者になるんですけれども、若者や民間人がロボットに乗ることで戦争に巻き込まれて、本来の青春や友情や恋愛が異常な状況になってしまう。その状況の中で成長しなくてはいけないというアーキタイプがあるんだと思ったんです。そこで「スタドラ」と「キャプテン・アース」は逆にしてみて。若者のケンカに、軍隊や組織が巻き込まれていくという構造にしてみたらおもしろいんじゃないかなと。若者のドラマに戦争や世界が巻き込まれていくというかたちに意図的にしたんです。
五十嵐 ロボットアニメの主人公って選ばれるという設定が多いじゃないですか。だけど、『選ばれる』というのは『選ぶ』というのと同義なんです。結局は『やるか』『やらないか』の2択ですから(笑)。たとえば、告白されるっていう行為は選ばれているように見えるけれど、告白されたあとにOKの意志表示をすることで関係性が進むわけで。選ばないと変わらない。そういう話は榎戸さんとよくしていましたね。
榎戸 「キャプテン・アース」は、タイトルに「キャプテン」と付いているんですけど、主人公がキャプテンを自覚するまでの物語なんですよね。自分が「それを選ぶ」という話になっているんです。
――「キャプテン・アース」の主な舞台は種子島。制作当時、皆さんは種子島へロケハンにも行かれたそうですね。
五十嵐 「スタドラ」の舞台となった南十字島は架空の土地だったのですが、今回は実在の場所を舞台にしたので、ロケハンに行ったんですよね。種子島には2度行きました。2回目はロケットが打ち上げの日に行ったんです。
榎戸 種子島は、昔の火縄銃の代名詞だったけれど、今はロケットの代名詞になっている。それがロボットアニメに出るのはおもしろいだろうと思ったんですよね。しかも、種子島にある宇宙開発センターは〝世界でいちばん美しいロケットの発射基地〟って呼ばれているんですけど、実際に行けば納得。島に宇宙開発基地があって「サンダーバード」的なロマンもあるし、本当にきれいな場所なんです。ロケットの打ち上げはテレビのニュースで何度も見ているから、だいたいこういうものなんだろうなって先入観があったんですけど、やはり生で見るとすごかったですね。夜明け前の打ち上げだったので、周囲はほぼ夜だったんですけど、ロケットが打ち上がる瞬間はエンジンから、太陽がひとつ出現するような光がパッと射して、周囲が昼間になるんです。その瞬間に夜空が青空に変わるんです。こんな明るい夜は経験したことがないと感じた瞬間に、空にロケットが吸い込まれていく。僕らは高台から見ていたんですが、光の玉が空に昇っていく光景は本当に壮観でした。
大薮 月も見えたし、分離して切り離したロケットエンジンも見られたし、本当にグッドタイミングでしたね。
榎戸 ちょうどISS(国際宇宙ステーション)に向かうロケットの打ち上げのタイミングで見えたんですよ。
五十嵐 ありえないくらい夜空がきれいで。流れ星がすごくたくさん降るんです。種子島のホテルに泊まっていたときに、夜に星がきれいだなと思って、ホテルの階段の踊り場にあった扉を開けたら、真っ暗な廊下が続いていたんです。その廊下の向こう側に星が見えて、ものすごく明るかった。それまでに見たことがないような、天の川を目の当たりにしました。
――「キャプテン・アース」のある重要な場面では、天の川の美しさを主人公のダイチが語りますが、まさに同じことを五十嵐監督も感じていらしたんですね。
榎戸 (五十嵐監督の)そのときの体験があのシーンに生きていたのかもしれませんね(笑)。
※後編(12月3日頃公開予定)に続く
【CAST】
真夏ダイチ:入野自由 嵐テッペイ:神谷浩史 夢塔ハナ:茅野愛衣 夜祭アカリ:日高里菜 西久保ツトム:小山力也 アマラ:鈴村健一 モコ:坂本真綾 セツナ:工藤晴香 ジン:内山昂輝 アイ:山本希望 リン:潘めぐみ バク:豊永利行
【STAFF】
原作:BONES 監督:五十嵐卓哉 シリーズ構成:榎戸洋司 キャラクター原案:三巷文 キャラクターデザイン・総作画監督:石野聡 エンジンシリーズデザイン・メインデザインワークス:コヤマシゲト マシングッドフェローデザイン・メカニックデザイン:柳瀬敬之 メカニックデザイン:荒牧伸志、高倉武史 キルトガングデザイン:浅井真紀、吉岡毅 コンセプトデザイン:okama グラフィックデザイン:草野剛 デザインワークス:齋藤将嗣 特技監督:村木靖 美術監督:矢中勝 美術デザイン:高橋武之 色彩設計:中山しほ子 撮影監督:神林剛 CGI監督:太田光希 監督補佐:浅井義之 編集:西山茂 音響監督:若林和弘 音楽:MONACA、神前暁 アニメーション制作:ボンズ
©BONES/CAPTAIN EARTH COMMITEE, MBS
◆「キャプテン・アース Memorial Blu-ray Box」2025年1月29日(水)発売。税込3万800円(エイベックス)
◆YouTube全話一挙配信(アニメタイムズ公式チャンネルにて)
【第1~12話】11月11日(月)18:00~12月10日(火)12:00
【第13~25話】12月10日(火)18:00~2025年1月9日(木)12:00
◆電子書籍「キャプテン・アース 遊星歯車装置 世界の夢を現す者」(漫画:三巷文)配信中
【取材・文:志田英邦】