見出し画像

「ファイブスター物語」第18巻刊行決定! 永野護カバーイラスト解説(第7~12巻)

 デザイナー・永野護さんが「月刊ニュータイプ」で連載中の漫画「ファイブスター物語」の単行本最新第18巻の発売が、2025年3月10日に決定しました。 
 また、現在、大阪にある「グランフロント大阪」では、永野護さん初の大型展覧会「DESIGNS 永野護デザイン展」が開催中(2025年2月11日まで)。同展覧会には、「ファイブスター物語」の単行本の顔であるカバーイラストの原画17点が展示されています。
 これらを記念して「月刊ニュータイプ」2024年4月号に永野護さん自身が寄稿したカバーイラスト解説を、全3回に分けて特別公開! 最新刊への期待を高めてもらうとともに、これからデザイン展に参加される方は、その予習を兼ねてお楽しみください。
 中編(第7~12巻)をお届けします。

第7巻 GIRL RIDES KIRIN DRAGON

キリンに乗る京

この絵はサイズが小さく今までの半分のB3サイズである。このサイズの絵は習作を描くときの大きさなのだが、とにかく従来のサイズでは時間がかかりすぎることと、第6巻でアクリルガッシュを使い慣れたこともあり、別の塗り表現でやってみたかったのだろう。この絵はアクリルですらなく、「透明水彩絵の具」によって描かれている。もっともすべて透明水彩で描かれているわけではなく、部分的に従来のアクリル絵の具が使ってある。また、印刷には絶対に出ない「金色」も使ってある。このメタリックカラーの絵の具だけは原画を見ないとわからない。

第8巻 GROSS SISTER

マリオネット・フォーカスライトと朽ちたL.E.D.ミラージュ

見ての通りグロスフェイスのフォーカスライト。実はこの絵は2枚目で、ほぼ同じレイアウトで赤い背景バージョンがあったのだが、完成目前に気に入らなくてぶっ壊した。厚いイラストボードを真っ二つにして捨ててしまった。妻からは「なんてコトするの!」と怒鳴られたが、気に入らないものを完成させるわけにもいかず、超特急でこの青いバージョンを描き倒した。赤いバージョンはフォーカスライトがはりつけになっている構図だったのだが、操り人形のようにワイヤーでぶら下がっている絵となった。表紙のなかでも、2枚描かれたのはこの第8巻だけである。

第9話 PUZZLED RIB

L.E.D.ミラージュとアレクトー(プラスチック・スタイル)

アレクトーはプラスチック・スタイルのボディが素っ裸であらわになっているが、本当はファティマらしく肋骨バリバリの下絵であった。しかし肋骨がほぼむき出しだとあまりに猟奇的過ぎるので普通の胸にしたのであった。タイトルは複雑なあばら骨という意味で、迷ったすえの胸表現ということなのだろう。バックのL.E.D.ミラージュは半透明装甲にするために内部をほぼ描いた後、白のハイライトで消しまくるという何とも無駄な作業を施した。サイズがB1で、縦1m超えということもあり、この絵は4か月以上かかったはずである。

第10巻 CROSSING DECOY

エスト(プラスチック・スタイル)

X形のパネルに座っているエスト。このパネルはその後延々と表紙絵に使われるモチーフとなっている。エストのオレンジカラーと背景の色が同系列の色なので巴紋が目立ちにくくなっているが、原画でははっきりと見えるはずである。またすべての表紙絵に言えるが、表紙絵と本編に登場するキャラクターの顔がまったく違うのは永野が「絵と漫画ではまったく違うもの」と思っているからである。3女神にしてもこのエストにしても「絵のための顔」にしているのだ。

第11巻 Twin Bar

バクスチュアルとヒュートラン、MHファントム

絵としてはとても気に入っている一枚。バクスチュアルもヒュートランもパンチで穴を開けられたスーツを着ているため、ものすごく時間がかかった絵である。ディテールを継ぎ足していくのはとても簡単なのだが、下の肌を生かしながらメッシュや格子を入れていくのは、毎日毎日、ちまちまちまちまと色を塗り重ねていく作業で、たぶんこういうことをするのが本当に好きなのだろう。

第12巻 Christine & Emperor's Bansheeca

クリスティン・VとGTMバンシーカ

単行本巻末のこの絵のタイトルを読まれた方はわかっていたと思うが、クリスが持っている剣は「ガット・ブロウ」、そして崩壊するプロトン城から崩れ落ちるのは「MHではなくGTM」である。その名も「バンシーカ」で、そう「花の詩女 ゴティックメード」の「メロウラ」のことである。この格好いい「バンシーカ」という名称を使わなかったのは、当時似たような名前で登場した別作品のロボットがあり、公開がそちらのほうが早かったために、泣く泣く別の名前にせざるを得なかったのである。ただGTMとは言ってもまだ「Vサイレン」と変わらないデザインで、ツインスイングも使われていない。これは新名称だけ先に考えていた弊害でもある。ネタバレしたので……メロウラとナキメーカは次回登場時には「GTMバンシーカ」として描かれます! バンシーカより格好いい名前ないもん!! また、単行本のスタッフリストでこの第12巻が「V2」となっているのは、「V1」が存在していることを示唆している。つまり初版の時点で第12巻はバージョン2で、発売が遅れたのはこの単行本の作り直しがあったからでもある。

※デザイン展の開催にあたり、単行本掲載時と絵のタイトルが一部変更されているものがあります。

(C)EDIT