オリジナルアニメ「キャプテン・アース」10周年特別インタビュー(後編)
父親を宇宙で亡くした、高校2年生の主人公・真夏ダイチ(CV:入野自由)。宇宙から迫りくる、キルトガング(「遊星歯車装置」の戦闘形態)と呼ばれる敵。それに対抗して種子島から発射される有人ロケット。そして、低軌道衛星基地を通過して完成する、巨大な人型ロボット兵器、アースエンジン・インパクター……。TVアニメ「キャプテン・アース」は、地球を狙う存在と、それを阻止するために、ダイチをはじめとする4人の少年少女で結成されたチーム「ミッドサマーズナイツ」の活躍を描く、ひと夏の物語です。
2014年に放送された同作は、「桜蘭高校ホスト部」「STAR DRIVER 輝きのタクト」(以下、「スタドラ」)に続き、監督の五十嵐卓哉さん、シリーズ構成の榎戸洋司さん、ボンズ(アニメーション制作)を中心としたチームでつくり上げたオリジナルのロボットアニメ(その後、同じ3者で「文豪ストレイドッグス」のアニメシリーズも手がけています)。
今年、TV放送開始から10周年を迎えるにあたって、Blu-ray Boxの発売が決定しているほか、現在Youtubeでは一挙配信も実施されています(2025年1月9日まで)。これを記念して行われた、五十嵐監督、榎戸さん、ボンズ・大薮芳広プロデューサーのインタビュー後編をお届けします。
――「キャプテン・アース」は、ロボットアニメとしてのギミックも、時代を先取りしたようなものがたくさんありましたね。特に〝遊星歯車装置〟と名のるキルトガングは、地球上ではアバターとして行動し、遠隔操縦するマシングッドフェローから、宇宙にいるキルトガング本体に精神を転送する。ドローン技術やVR技術など、最先端の技術を取り入れています。
榎戸 「スタドラ」のときは全く取材せずに、頭の中で考えたサイバディってロボットでやっていたんだけど、さっき(※インタビュー前編)大薮プロデューサーが言ったみたいに今回は王道のロボットアニメにしようということで、当時の軍事情報を勉強したり、いろいろと調べていました。
五十嵐 SF考証の方(故・鹿野司さん)にも入っていただきましたしね。
榎戸 ガジェットやロボットは、こんなバカなアイデアでも大丈夫かなと思いながら提案すると、五十嵐監督がゲラゲラ笑っておもしろがってくれるんですね。基本的に僕は言うだけなので、実際のフィルムになると僕が思っていたよりもきちんとまともな演出になっていて、それが本当に助かりました。
大薮 今なかなか手描きのロボットアニメって少ないじゃないですか。当時からスタッフを集めるのは大変でしたけど、かわいいキャラだけでなく、何でも描ける人(アニメーター)たちと出会えたのは、今につながっていると思いますね。「キャプテン・アース」はアイドルが踊っていたり、バイクに乗っていたり、格闘していたり、描かなきゃいけないシチュエーションが多岐にわたっていました。
五十嵐 榎戸さんとオリジナルアニメを作っていて、いいなと思うのはいろいろな要素が混在していることなんですよね。カジノだったり、アイドルだったり、任侠だったり、列車の旅だったり(笑)。いろんなものが混在することは映像をつくるうえでは大変ですけど、そういう「ご都合主義的な面白さを詰め込む」ということはすごく大事なことだと思うんですよね。段取りを組んで何かを見せるよりも、みんなが見たいものを見せるかたちが僕はよいと思っているんです。軽いものが表に見えつつ、その裏側に重いものがある。「キャプテン・アース」でいうならば、少年たちがスイカを食べながら、世界の趨勢を話し合うみたいなことですよね。その中で、メロンを明日食べようと約束することは、明日があると約束することでもある。生きるか死ぬかの瀬戸際に立ったとき、「明日、メロンを食べるって約束しただろう!」と言えることが、この作品でいちばん大事なところなんだと思うんです。榎戸さんとは「型」は違うけど、考えてることで共感できる部分が多いんです。作品を作るうえでとても大事なことです。
――日常を守ることが、世界を守ることになる。そのつながりこそが「キャプテン・アース」のおもしろさですね。
五十嵐 「世界を守る」と言うのは簡単なんだけど、あまりにも大きすぎて、僕はこの年齢になってもよくわからない。でも、大事な人を守るということだったら、多分観ている視聴者の方たちにも伝えることができる……と思ったんです。
榎戸 仲のいい人といっしょに遊びに行くことって、小さい幸せのように感じるんですけど、明日ミサイルが飛んでくるような戦争状態だったら、そんなことはできないわけですよね。好きな人と遊びに行くというたったひとつのことを実現できるということは、実はものすごく大きな背景が存在している。そのことの価値に気づいたら、人類はあまりバカなことをしないんじゃないのかなって、ちょっと大きなことを考えていました(笑)。
――定命の人間と、永遠の命をもつキルトガング。相反する存在が対峙するという点もこの物語の見どころです。
榎戸 「キャプテン・アース」の根本的なテーマは「みんなすぐに年取って死んじゃうんだけど、それでいいじゃん」っていうことなんですよ。永遠に数万年ダラダラと生きている人生よりも、すぐに死んじゃうからこそ生まれる価値の方が大事なんじゃないのと。
五十嵐 「生き方」の問題なんだと思うんです。何万年も生きるなんて想像もできない。僕らの人生たかだか生きて100年です。良いことも悪いこともたくさんあって、それも込み込みで楽しんだ者勝ちというか。これはあくまでも僕の私見ですけど、今際の際にそこそこ楽しい人生だったなって思える人生が、たぶん最高の人生なんだろうなって思ってるんです(笑)。
榎戸 子どものころに手塚治虫先生の「火の鳥 未来編」を読んで、必要以上に長生きすることの恐怖感を覚えてしまって(笑)、人生は短ければよいということはないんだけど、生きている間に何をするかが大事だよなと思ったんですよね。それは「キャプテン・アース」で最初から最後までずっと貫いたことですね。
――配信で初めて見る方もいれば、Blu-ray BOXを心待ちにしているファンもいるかと思います。改めてお三方は、この作品をどのように楽しんでほしいと思っていますか?
五十嵐 「キャプテン・アース」を今見ると、これはテレビシリーズかと思うくらいのクオリティで、10年前の映像だと思うとみんなの頑張りを感じます。スタッフのモチベーションの高さがこの色褪せないフィルムに結実している……改めてそう思いました。ぜひ、それを楽しんでいただきたいです。
榎戸 「スタドラ」は各話完結のエピソードが多いんですが、「キャプテン・アース」はどちらかというと連続ドラマに近い構成なので、まとめて見ていただけるとより理解してもらいやすいと思います。
大薮 おふたりともオリジナルアニメとは何ぞやという問題にすごく真摯に向かい合っていらしたし、榎戸さんのアイデアや分析を受けてすごく考えて、どうやったら売れるんだろうと真剣に考えた結果が、僕の今のプロデューサーの人生につながっているんだと思います。そういう意味でも「キャプテン・アース」は大事なマイルストーンのひとつです。10年前の作品ですけど、当時できるかぎりのものを詰め込んだので、今見ても古くなっていないという自信があります。死生観や恋愛観など、10年経っても面白い作品なのでぜひ楽しんでいただきたいです。
五十嵐 「キャプテン・アース」をつくっているときに、「どんなに小さいことでも、選ぶことで人生はスタートする」そう考えていました。「選ぶ」という行為は必ず責任が生じます。彼らが選んだ世界がどんな世界になっていくのか……共に想像していただけるとうれしいです。
榎戸 「キャプテン・アース」の引用元になっているシェイクスピアの「夏の世の夢」の最後の妖精パックのことばで締めますね。「皆様がたの お目がもしお気に召さずば ただ夢を見たと思って お許しを」
【CAST】
真夏ダイチ:入野自由 嵐テッペイ:神谷浩史 夢塔ハナ:茅野愛衣 夜祭アカリ:日高里菜 西久保ツトム:小山力也 アマラ:鈴村健一 モコ:坂本真綾 セツナ:工藤晴香 ジン:内山昂輝 アイ:山本希望 リン:潘めぐみ バク:豊永利行
【STAFF】
原作:BONES 監督:五十嵐卓哉 シリーズ構成:榎戸洋司 キャラクター原案:三巷文 キャラクターデザイン・総作画監督:石野聡 エンジンシリーズデザイン・メインデザインワークス:コヤマシゲト マシングッドフェローデザイン・メカニックデザイン:柳瀬敬之 メカニックデザイン:荒牧伸志、高倉武史 キルトガングデザイン:浅井真紀、吉岡毅 コンセプトデザイン:okama グラフィックデザイン:草野剛 デザインワークス:齋藤将嗣 特技監督:村木靖 美術監督:矢中勝 美術デザイン:高橋武之 色彩設計:中山しほ子 撮影監督:神林剛 CGI監督:太田光希 監督補佐:浅井義之 編集:西山茂 音響監督:若林和弘 音楽:MONACA、神前暁 アニメーション制作:ボンズ
©BONES/CAPTAIN EARTH COMMITEE, MBS
◆「キャプテン・アース Memorial Blu-ray Box」2025年1月29日(水)発売。税込3万800円(エイベックス)
◆YouTube全話一挙配信
【第1~12話】12月10日(火)12:00まで
【第13~25話】12月10日(火)18:00~2025年1月9日(木)12:00
◆電子書籍「キャプテン・アース 遊星歯車装置 世界の夢を現す者」(漫画:三巷文)配信中
【取材・文:志田英邦】