Bloodborne 考察② 『メンシスの儀式』とその裏の儀式
前回は、ヤーナムにおける一般的な獣狩りの夜について考察した。今回はプレイヤーが経験した獣狩りの夜から、メンシスの儀式に近づいていく。
プレイヤーの獣狩りの夜に起こったこと
プレイヤーの獣狩りの夜は、ヤーナムがかつて経験したことがないほどに激しく、長い夜だった。教区長は獣になり、聖堂外上層は崩壊。住人は残らず発狂ないし獣化。ヤーナムはおよそ再起不能と言えるほどのダメージを負った。
これらの原因はメンシスの赤子の儀式にあった。プレイヤーは上位者を斃し、儀式を止め悪夢を終わらせた。だが、この儀式は果たしていかような儀式だったのだろうか。かつて訪れた獣狩りの夜と決定的な違いをもたらしたものは何だったのか。
メンシスの儀式が実際に何を起こしていたのか、それは白地の蜘蛛、ロマによって何が秘匿されていたかを見ることで推測できる。
あらゆる儀式を蜘蛛が隠す。露わにすることなかれ
啓蒙的真実は、誰に理解される必要もないものだ
――ビルゲンワースの手記
秘匿を破り露わになったもの
ロマ撃破することで秘匿が破られる。あらゆる儀式の影響が露わになるその様子は撃破後のムービーから読み取れる。
①女王ヤーナムの出現
②赤く染まる月
③接近し迫りくる巨大な月
④響き渡る赤子の泣き声
③は秘匿されていない、と思う方もいるかもしれない。確かにヤーナムの月は秘匿を破る前から不自然に巨大だった。だが、ムービーでは赤い月がさらに大きく迫ってくる様子が描かれている。月の接近もまたロマが秘匿する儀式の一部だった。
また、①は今回はおいておく。これは恐らくメンシスの儀式とは関係がない秘匿だからだ。
ビルゲンワースの二階、湖に面した月見台の鍵
晩年、学長ウィレームはこの場所を愛し、安楽椅子に揺れた
そして彼は、湖に秘密を隠したという
――月見台の鍵
さて、②③④が獣狩りの夜に大きくかかわる秘匿された儀式だ。これによって何が起こるのか、手記から分かる。
赤い月が近づくとき、人の境は曖昧となり
偉大なる上位者が現れる。そして我ら赤子を抱かん
――ビルゲンワースの手記
狂人ども、奴らの儀式が月を呼び、そしてそれは隠されている
秘匿を破るしかない
――ヤハグルの手記
悪夢の儀式は赤子と共にある
赤子を探せ。あの泣き声を止めてくれ
――ヤハグルの手記
メンシスの儀式を止めろ。さもなくば、やがて皆獣となる
――ヤハグルの手記
簡潔に三点にまとめる。
赤く接近した月が獣化をもたらす。
メンシスの儀式は赤子の儀式であり、月を呼ぶ。
メンシスの儀式を止めなければ、皆獣になる。
③「月の接近」はどうやらメンシスの月を呼ぶ儀式によるものらしい。
④「赤子の泣き声」もまたメンシスの儀式によるものだ。赤子の儀式とは、上位者の赤子の泣き声をヤーナム中に届ける儀式であり、これはメンシスの悪夢にて明らかになる。
だが、未だ原因の明らかでない変化がある。②『月の赤化』だ。
何が月を赤くしたか
手記では②『月の赤化』と③『月の接近』が同時に起きた場合にもたらされる現象について記述されている。が、少なくともメンシスの儀式が月を赤くするとする記述はどこにもない。
月の変化を②『月の赤化』と③『月の接近』を分けて考える理由は単純で、ヤーナムには秘匿を破った後も巨大な白い月が輝いている地域が多くあるからだ。
禁域の森、ビルゲンワース、ヘムウィック墓地街、廃城カインハースト。そして悪夢の世界。
よくよく注目すべきはこれらの地域においても、③『巨大に接近した月』が昇り、また④『赤子の泣き声』も届いていることだ。メンシスの儀式はヤーナムの全てを影響範囲にとらえている。では、なぜ月の赤化だけはヤーナムのごく一部、新旧のヤーナム市街、隠し街ヤハグル、聖堂街に限定されるのか。
答えは単純で、②『月の赤化』はメンシスの赤子の儀式によるものではないからだ。メンシスの儀式は赤子の儀式。赤子の儀式は月を呼ぶ。ただそれだけだった。
恐らくは、赤化もまたメンシスの企図したことではあったのかもしれない。だがそれはメンシスがもたらしたものではない。ロマの秘匿はあらゆる儀式の秘匿であり、メンシスではない誰かの儀式をも秘匿していた。
月を赤くするもう一つの儀式
プレイヤーが作中で遭遇した様々な異常現象。その中で②『月の赤化』に関連しそうなものが一つある。
とりわけ儀式めいていて、意味が分からず、意図も主体も不明な突拍子の無いできごと。
再誕者の召喚だ。
再誕広場に近づくほどに大きくなっていく呪文じみたささやき声、ローブを被った鐘を鳴らす女、共鳴する音色、黒く染まる月、そこから零れ落ちるようにあらわれる再誕者。
何もかもが意味深で意味が分からない。が、何かの儀式であったことは分かる。(再誕者を倒すと、呪文じみたささやき声は消える)
まず、あの鐘を鳴らす女はかつてヤーナムに存在した遺跡、トゥメルの狂女であり、聖杯ダンジョンに現れる敵mobである。
地下遺跡の各所の封印を解く、汎聖杯の1つ
不吉なそれは、儀法により不吉な鐘を呼ぶ
「鐘を鳴らす女」それはトゥメル人の狂女であろう
なおトゥメルとは、地下遺跡を築いた古い種族の名であり
神秘の知恵を持った人ならぬ人々であったと言われている
――不吉なる深きトゥメルの汎聖杯
間違っても現在のヤーナムにいるべき存在ではない。
また、bloodborne の世界において、鐘は共鳴鍾とも呼ばれ、次元をつなぐ特別な儀式道具の一つである。
地下遺跡で発見された血塗れの鐘
音が次元を跨ぐ共鳴鐘の一種であるが
これはあらゆる不吉な鐘に共鳴する
不吉な鐘など、すべからく暗い情念や呪いの類であり
この鐘を鳴らす者は、別世界の狩人の敵となるだろう
――共鳴する不吉な鐘
想像が入るが、恐らくメンシスはトゥメル遺跡の人ならぬ人々とのコンタクトに成功したのではないだろうか。彼らは互いに利害の一致を見出し、共同で儀式を実行し、かつてない獣狩りの夜の原因となった。
理由、目的は定かでないものの、トゥメル人は再誕者を求め、その儀式が②『月の赤化』をもたらした。
ヤハグルというエリアの特別性
トゥメルの儀式は、隠し街ヤハグルを中心とし、ごく一部の周辺エリアのみを影響範囲に含め、そこに昇る月だけを赤く染めた。その結果、限られた地域で『赤い月の接近』が成立し、激しい獣化が起きた。
実際の所、月の赤化が起きていない地域では『罹患者の獣』がほとんどいない。ヘムウィックでは魔女が闊歩し、カインハーストでは従者の日常があり、禁域の森には蛇人間が現れ、ビルゲンワースには蠅男とトゥメルの蛍花がいたのみだ。
恐らく、隠し街ヤハグルは獣狩りの夜をもたらす儀式の中心地だった。
赤子の泣き声は釣られた上位者を呼びよせる釣り餌だと、宮崎市のインタビューで述べられている。メンシスの儀式とはそういうものであり、現に上位者が押し寄せたのは、メンシスの悪夢ではなく、メンシスの本拠地たるヤハグルだった。
月を染めたのはトゥメル人の業であり、トゥメル人達が再誕の儀式を実行したのもヤハグルだった。
かくして儀式の舞台となったヤハグルは、悪夢的なヤーナムの中にあって、特に悪夢的傾向が顕著になった。魔女や群衆がボコボコという水音とともに無限に湧き出で、アメンドーズがひしめき、再誕広場近辺には赤化ならぬ石化した市民が放置されている。目覚めによってのみ可能になるはずの転移を水盆で再現されている。悪夢の世界より悪夢的である。現実のヤーナムにあって最も現実から離れた悪夢的不条理に満ちたエリアとなった。
夢が現実に、我らに瞳をもたらすのだ!
――ミコラーシュのセリフ(未使用データ)
獣狩りの夜は二つの儀式によって成立していた
長くなったうえに話がそれてきたので強引にまとめに入りたい。
獣狩りの夜、二つの儀式があった。
一つはメンシスの赤子の儀式。これはヤーナム全域を対象として『月の接近』、『赤子の泣き声の拡散』をもたらした。
もう一つはトゥメルの再誕の儀式。これは、ヤハグルを中心とした狭い範囲に『月の赤化』をもたらし、再誕者を降臨させた。
次回の考察では、ヤーナムにおけるトゥメルの目的か、医療教会とトゥメルの関係を中心に何か書く、かも知れない。