見出し画像

予期せぬことは突然に

次男、長男と、二人の結婚式が終わった途端、夫が、力尽きたかのようになる。
突然、やる気を失ったというか、目標を見失ったように、元気がガクンと落ちてしまう。

子供たちは、それぞれの結婚式を早々に行った。
前々から私が言う
「いつ何が起こるかわからないからね」の言葉を聞いていたからなのか
お父さんに晴れ姿を見せたい一心で、パンデミックの中、無事にそれぞれがやりたい式をやりたいように行った。

たくさんの人の力を借りて参列することができ、ほっとしたのか、自分の役目は終わったと思ったのか
そこから急に、ガクンと体調が落ち、肺炎を起こすようになってきた。

元気とともに、食べる力も急激に落ちてしまい、肺炎を繰り返すようになる。
在宅医療のドクターも、急ぎ飲み込みの検査を、と勧めた。

胃ろうにした方がいいと言われている中、頑なに拒否をする夫。
食べることだけが唯一残された楽しみで、肺炎で死んでもいいから胃ろうにはしたくないと言い張った。
とりあえず、検査だけはしようと説得し、息子の勤務する病院が受け入れてくれることになった。

自宅からは遠かったけれども、息子が主治医となり、夫はとてもうれしそうだった。
入院中の様子も事細かに息子から送られてきた。
そこには笑顔の夫がいた。

やはり、飲み込みはほとんどできていなかったが、本人の意志を尊重し、胃ろうにするのは見送った。
検査を全て終えた後、息子が主治医として今後の方向性を冷静に話してくれた。
夫のいない場所で。

後にも先にも、この入院が貴重な二人だけの時間になる。
互いに、親として子として、その時できる限りの愛情を注いだはずだ。
夫はそこにいるだけで、とても幸せだったろうし、息子は父親のそばで働く姿を見せられて、本当に幸せだったと思う。

夫が元気だったら、もっと幸せな時間になったかもしれないけれど
息子の姿を目の当たりにできて、感慨無量だっただろう。
いろんな方のご尽力で起きた奇跡だ。

今日、世の中を騒がす大事件が起きた。
時の元総理が撃たれたのだ。

裕福な家に生まれて、日本のトップに何度もなり、周りに人がたくさんいて、真の勝ち組なんだろうが、
一瞬にしてこの世からいなくなるのだ。
そして、たった一人で死んでいくのだ。

死はどんな人にもやってくる。
それもいつかはわからないタイミングで。
あれほどのトップの人でさえも、自分の死は予測できないのだ。

本当に抗うことのできないのが、死だ。
お金をたくさん持っていても、どれだけいいことをしても、逃れられないのが、死。

夫を亡くして経験済みのことだけれども、
人の死はあっけない。
一瞬にして、この世からいなくなるのだ。

まだまだ経験したいことがいっぱいある私は
まだ死ねない。

ようやく、自分の時間が持てたのだから、楽しむのだ。
いつ、ゴールがやってくるのかわからない人生だから、前に進むのだ。

今日という1日を楽しむ。
それだけ。
            (5.5ヶ月目)
新堂きりこ

いいなと思ったら応援しよう!

しんきり
よろしければサポートをお願いします。 いただいたサポートは社会復帰への新しいチャレンジの活動費とさせていただきます。